中野サンプラザ再開発、区が定期借地権の活用を検討
はじめに
東京都中野区は2026年1月27日の区議会で、再開発計画が白紙になった複合施設「中野サンプラザ」の新たな計画について、定期借地権の活用を含めて検討する方針を明らかにしました。
中野サンプラザは2023年7月に閉館し、野村不動産を代表とする事業者グループによる再開発が進む予定でした。しかし建設費の高騰により事業費が当初の約2倍に膨らみ、2025年6月に計画は正式に白紙となりました。
この記事では、定期借地権を活用した再開発手法の可能性と、中野サンプラザ再開発をめぐるこれまでの経緯、そして今後の展望について解説します。
定期借地権活用の検討内容
区が所有する土地を一定期間貸し出す
中野区が検討している定期借地権方式とは、区が所有する中野サンプラザ跡地を一定期間、民間事業者に貸し出す枠組みです。事業者は借りた土地の上に建物を建設・運営し、契約期間満了後に土地を区に返還します。
この方式の大きな特徴は、区が土地の所有権を手放さないまま再開発を進められる点にあります。従来の市街地再開発事業のように、高層化で生まれるフロアを売却して建設費を捻出する方式とは根本的に異なるアプローチです。
サウンディング調査の実施
区は新たな再開発計画の策定に向け、デベロッパーなどに対するサウンディング型市場調査を2025年9月から12月にかけて実施しています。調査では中野駅周辺の用途ニーズや、定期借地方式導入の可能性、工事費の市況などについてヒアリングを行っています。
この調査結果を踏まえ、区は2026年3月に修正した計画の素案を発表する予定です。
これまでの再開発計画の経緯
野村不動産による当初計画
2021年、中野サンプラザを含む中野駅新北口駅前エリアの再整備事業者として、野村不動産を代表とするグループが選定されました。当初の計画では、中野サンプラザと旧中野区役所を解体し、高さ262mの超高層ビルを含む複合施設「NAKANOサンプラザシティ(仮称)」を建設する予定でした。
計画には最大7,000人規模の大ホールやホテルが含まれ、「ステージと観客席の距離が近い」という現サンプラザホールの特徴(DNA)を継承するとされていました。
建設費高騰による計画変更
しかし、人件費や資材費の高騰により事業費は膨張を続けました。当初1,810億円程度だった事業費は、2022年12月に2,250億円、2023年11月に2,500億円、2024年1月には2,639億円へと引き上げられました。
最終的には3,539億円に達する見通しとなり、当初計画の約2倍にまで膨らみました。この事業費膨張が採算性に大きな影響を与えることになります。
ツインタワー案の提示と区の拒否
施行予定者グループは事業の採算性を確保するため、計画の大幅な変更案を提示しました。オフィス床面積の割合を4割から2割に減らし、住宅を4割から6割に増やすことで収益性を改善。さらに、当初の単一超高層棟を2棟のツインタワーに変更し、高さを抑えることで建設費削減を図る案でした。
しかし中野区は、この変更案を認めませんでした。区が協議中止の理由として挙げたのは、(1)事業成立の見通しが明らかでない、(2)変更案は公募時の提案に対して公平性・中立性に課題がある、(3)区民が利用する施設の魅力が十分に踏襲されていない、の3点です。
2025年6月に計画白紙が正式決定
2025年6月19日、中野区議会は野村不動産グループとの協定を解除する議案を全会一致で可決しました。閉館から丸2年が経過した段階で、2,000億円近い規模の再開発計画が振り出しに戻るという異例の事態となりました。
中野サンプラザの歴史と意義
50年にわたる「音楽の聖地」
中野サンプラザは1973年、集団就職で上京した若者のための「全国勤労青少年会館」として開館しました。当時はホールやホテルのほか、就職相談室、図書室、結婚相談所なども入っていました。
愛称は一般公募で決定され、若さあふれるエネルギーの象徴「太陽(SUN)」と、人々が集う場所「広場(PLAZA)」を組み合わせた「SUNPLAZA」が採用されました。
コンサートホールとしての評価
2,222席を備えるコンサートホールは、使い勝手の良さから国内外の多くのミュージシャンに愛されてきました。2000年には「音響家が選ぶ優良ホール100選」に選定されるなど、音楽ホールとしての評価も高く、「音楽の殿堂」「アイドルの聖地」として親しまれました。
閉館日の2023年7月2日には、山下達郎のコンサートが最後の公演となり、50年の歴史に幕を下ろしました。
区民にとっての思い出の場所
中野サンプラザは区民にとって、入学式、卒業式、成人式、結婚式と、人生の節目を刻む場所としての役割も担ってきました。閉館セレモニーには多くの人が詰めかけ、その姿を見守りました。
定期借地権方式のメリットとデメリット
区にとってのメリット
定期借地権方式を採用した場合、区には以下のようなメリットがあります。
土地所有権の維持:区は土地を売却することなく、所有権を保持したまま再開発を進められます。契約期間満了後には確実に土地が返還されるため、将来の土地活用の自由度が確保されます。
初期費用の抑制:事業者が建物を建設するため、区は建設費を負担する必要がありません。財政負担を抑えながら再開発を実現できる可能性があります。
安定した地代収入:契約期間中は一定の地代収入が見込めます。長期契約となるため、安定した収入源となります。
考慮すべき課題
一方で、定期借地権方式には課題もあります。
収益性の限界:地代収入は一般的に土地価格の3〜6%程度とされ、自ら建物を建てて運用する場合と比べると収益は小さくなります。
長期の土地拘束:定期借地権は通常50年以上の長期契約となります。その間、土地を他の用途に転用することはできません。
事業者の確保:現在の建設費高騰の状況下で、定期借地権方式での事業参入に意欲を示す事業者がどれだけいるかは不透明です。
今後の展望と注意点
2026年3月に新計画の素案発表
中野区は地元住民や団体との意見交換を行いながら、再開発の市場動向や活用アイデアを調査しています。これらを踏まえ、2026年3月には新たな計画の素案を発表する予定です。
その後、新たな民間事業者の公募に向けた条件整理を行い、事業者選定のプロセスに入る見通しです。
中野サンプラザの再利用は見送り
2025年10月、区議会は中野サンプラザの再利用を求める陳情を反対多数で不採択としました。区は施設を解体して新たな再開発を進める方針であり、既存建物を活用する選択肢は事実上なくなっています。
当初予定より5年以上の遅れ
野村不動産の当初計画では2029年頃の完成を目指していましたが、計画白紙により大幅な遅延は避けられません。新計画の策定、事業者選定、設計・建設を経ると、完成は少なくとも5年以上遅れる見通しです。
跡地の暫定利用
中野サンプラザ西側にあった旧中野区役所の低層棟は既に解体され、2025年11月からバスターミナルとして暫定運用が始まっています。再開発が長期化する中、跡地の暫定利用をどう進めるかも今後の課題となります。
まとめ
中野区が中野サンプラザ跡地の再開発で定期借地権方式を検討し始めたことは、建設費高騰という現実に対する新たなアプローチといえます。土地を売却せずに所有権を維持しながら再開発を進める手法は、財政負担の軽減と将来の柔軟性確保という点でメリットがあります。
ただし、事業者にとって魅力的な条件を提示できるか、50年間の「音楽の聖地」としての価値をどう継承するかなど、検討すべき課題は多く残されています。2026年3月の新計画素案発表に向け、区がどのような方向性を示すのか注目されます。
参考資料:
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