SNSの誤情報に惑わされない賢い活用法とは
はじめに
2026年1月27日公示・2月8日投開票の衆院選を前に、SNSやAIを活用した情報収集への関心が高まっています。厳冬期の短期決戦となる今回の選挙では、政党や候補者の主張を直接聞く機会が限られる中、SNSは重要な情報源となっています。
しかし同時に、生成AIの普及により精巧な偽情報が作成されるリスクも増大しています。2025年の参院選では、代表的な5つの偽情報に対して35.3%の人が事実だと誤認識し、11.2%が偽情報を拡散していたという調査結果もあります。
本記事では、誤情報に惑わされずSNSを賢く活用するための具体的な方法と、知っておくべき対策について解説します。
深刻化するSNS上の誤情報問題
生成AIがもたらす新たな脅威
生成AI技術の進歩により、非常に高品質なテキスト、画像、音声、動画を生成することが可能になりました。ディープフェイク技術を用いれば、実在する人物が実際には言っていないことを本当に話しているかのような動画を簡単に作成できます。
2025年の第一四半期だけで、ディープフェイク詐欺による金銭的損失は2億ドル(約300億円)を超えたという報告があります。日本でも2025年には、熊の被害に関するディープフェイク動画や、青森県八戸市の地震時に多数のディープフェイク動画が投稿・拡散される事態が発生しました。
選挙への影響が懸念される理由
SNSの特性として、ユーザーの興味や関心に合わせた投稿が表示されるアルゴリズムが存在します。これにより、同じ意見ばかりが集まる「エコーチェンバー」現象が起きやすく、偏った情報に接し続けるリスクがあります。
さらに、閲覧数に連動した投稿者への収益支払いシステムが、刺激的な偽情報の拡散を助長する要因ともなっています。選挙期間中は特に、候補者に関する虚偽の情報が短時間で拡散し、有権者の判断に重大な影響を及ぼす恐れがあります。
政府・業界による対策の現状
法規制と事業者への要請
2025年4月に施行された「情報流通プラットフォーム対処法」では、大規模プラットフォーム事業者に対し、違法・有害情報の投稿削除基準策定や対応状況公表などが義務付けられました。
2026年1月22日には、木原官房長官が衆院選に関してSNS運営事業者に対し、利用規約に基づく適切な対応を要請しています。総務省も2025年6月の参院選に際し、X(旧Twitter)、メタ、グーグル、バイトダンスなどが加盟する業界団体「ソーシャルメディア利用環境整備機構(SMAJ)」に偽・誤情報対策を求めました。
技術的対策の進展
国立情報学研究所(NII)では、偽情報対策プラットフォームの開発が進んでおり、2025年7月時点でプロトタイプが完成しています。2026年度以降には民間企業や報道機関での利用を目指し、選挙中の偽情報対策と災害時のデマ対策への活用が想定されています。
また、コンテンツに「識別透かし(デジタルウォーターマーク)」を埋め込む技術や、コンテンツの出所や来歴を記録する技術も進化しています。Adobeが主導する「Content Authenticity Initiative(CAI)」には、GoogleやMetaも参加しており、2025年5月にはGoogleが識別支援ポータル「SynthID Detector」を公開しました。
有権者が実践すべき情報リテラシー
情報の真偽を確認する3つのステップ
誤情報に惑わされないために、以下の手順で情報を確認することが重要です。
1. 情報源を確認する SNSで見かけた情報は、まず発信元を確認しましょう。匿名アカウントや新しく作られたアカウントからの情報は特に注意が必要です。公的機関や報道機関が発信している情報と照らし合わせることで、正確性を検証できます。
2. 複数の情報源でクロスチェック 一つの情報源だけで判断せず、複数の信頼できるメディアで同じ内容が報じられているか確認します。政府や官公庁、地方自治体、研究機関、学術論文データベースなども参考になります。
3. ファクトチェックサイトを活用する 日本ファクトチェックセンター(JFC)やファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)が運営する「FactCheck Navi」では、国内のファクトチェック記事をまとめて確認できます。Googleが提供する「Fact Check Explorer」も、世界中のファクトチェック機関による検証記事を検索できる便利なツールです。
感情的な反応を避ける
SNSでは刺激的な見出しや画像が注目を集めやすい傾向があります。怒りや恐怖を感じさせる情報に接した際は、すぐにシェアや拡散をせず、一度立ち止まって冷静に真偽を確認することが大切です。
偽情報は「共感」や「義憤」といった感情を利用して拡散されることが多いため、感情が動いたときこそ慎重な判断が求められます。
注意点と今後の展望
AIファクトチェックの限界
AIを活用したファクトチェックツールも登場していますが、現時点では万能ではありません。研究論文のベンチマークでは、人力での検証との一致率がおおむね7割前後という報告があります。
また、生成AIには「ハルシネーション」という現象があり、現実にはない架空の情報をあたかも事実であるかのように生成してしまうことがあります。AIツールを過信せず、最終的な判断は自分自身で行うことが重要です。
海外の規制動向と日本への影響
EUでは2024年8月に「AI法(AI Act)」が施行され、高リスクAIへの全面適用は2026年8月から開始されます。台湾は選挙に影響を与える意図によるディープフェイクの作成・拡散に最大7年の懲役を規定しており、米カリフォルニア州でも2024年9月にディープフェイクを用いた選挙コンテンツの削除やラベル付けを義務付ける法律が成立しました。
日本でもこうした国際的な動向を踏まえ、選挙期間中の偽情報対策に関する法整備の議論が今後さらに進むと予想されます。
まとめ
SNSは選挙に関する情報収集の重要なツールですが、誤情報やフェイクニュースのリスクも伴います。生成AI技術の進歩により偽情報はより精巧になっており、受け手側のリテラシーがこれまで以上に問われています。
情報の真偽を確認する習慣を身につけ、複数の情報源でクロスチェックし、ファクトチェックサイトを活用することで、誤情報に惑わされるリスクを減らせます。様々な情報源をもとに多角的に政策を吟味し、主体的な判断で一票を投じることが、民主主義社会における有権者の責任といえるでしょう。
参考資料:
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