テスラがAI企業へ転換、高級EV撤退でロボ工場化
はじめに
米テスラが電気自動車(EV)メーカーからAI企業への事業転換を本格的に宣言しました。2026年1月28日に発表された2025年10〜12月期決算の説明会で、イーロン・マスクCEOは高級EVの「モデルS」と「モデルX」の生産終了を発表し、空いた工場スペースをヒト型ロボット「Optimus」の製造ラインに転換する方針を明らかにしました。
2025年通期の売上高は約949億ドルで、テスラ史上初の前年比減収を記録。EV販売台数でも中国BYDに世界首位の座を奪われました。EVメーカーとしての「第一章」を終え、AI・ロボティクス企業としての「第二の創業」に踏み出すテスラの戦略を解説します。
高級EV撤退とロボット工場への転換
モデルS・モデルXの「名誉除隊」
テスラの旗艦車種であるモデルS(セダン)とモデルX(SUV)は、いずれも9万ドルを超える高級EVです。テスラをEV時代の先駆者として確立した象徴的な車種ですが、近年は全出荷台数のわずか約3%を占めるにすぎませんでした。
マスクCEOはこの2車種の生産終了を「名誉除隊させる時が来た」と表現しました。カリフォルニア州フリーモント工場の生産スペースは、Optimusの製造ラインに転換されます。テスラは将来的に年間100万台のOptimus生産を目指す計画です。
設備投資の大幅拡大
テスラは2026年の設備投資を200億ドル超に引き上げる方針です。2025年の85億ドルから2倍以上の増加となります。この投資はOptimus量産体制の構築、ロボタクシー「Cybercab」の生産、そしてAI基盤の整備に充てられます。
さらにテスラは、マスク氏が率いるAI企業xAIに対し約20億ドルの優先株出資を行い、xAIが開発するAIモデル「Grok」をテスラの製品群に統合する計画です。完全自動運転(FSD)ソフトウェアやOptimusの制御にGrokの技術を活用する構想です。
EV事業の減速と競争環境の変化
初の通期減収と利益の大幅減
2025年通期の売上高は948億2,700万ドルで、前年の977億ドルから3%減少しました。テスラ史上初の通期減収です。10〜12月期の最終利益は8億4,000万ドルで、前年同期比61%の減少。2桁の減益は5四半期連続となりました。
EV販売台数は2025年通年で163万6,129台にとどまり、2023年のピーク181万台から2年連続の減少です。米政府のEV購入支援策が2025年9月に終了した影響や、海外市場での競合激化が響きました。
BYDがEV世界首位に
中国のBYDは2025年に225万台以上のバッテリーEVを販売し、テスラを初めて上回ってEV販売の世界首位に立ちました。テスラがAI・ロボティクスへの投資に経営資源を振り向ける一方、BYDは低価格帯のEVで攻勢をかけており、EV市場での主役が交代した形です。
AI・ロボティクス事業の進展
ロボタクシーの実用化
テスラは2026年1月中旬から、テキサス州オースティンで安全ドライバーなしの完全自動運転タクシーの試験運行を開始しました。限定されたエリアでの運行ですが、「ビジョンのみ」のアプローチによる自動運転の実用化に向けた重要なマイルストーンです。
FSD(完全自動運転)のサブスクリプション契約者数は110万人に倍増しました。ロボタクシーサービスの本格展開は2026年後半を予定していますが、規制環境や安全性の実証が課題として残ります。
Optimus量産への道
Optimusの量産は「当初は耐え難いほど遅い」ペースになるとマスクCEO自身が認めています。意味のある生産量の達成は2026年後半以降になる見通しです。ヒト型ロボットの市場規模は将来的に11兆円に達するとの予測もあり、テスラはこの巨大市場の開拓を目指しています。
注意点・展望
脱炭素経営からの方針転換
テスラはこれまで脱炭素・クリーンエネルギーの象徴的存在でした。しかし、今回のAI企業への転換は、脱炭素よりもAI・ロボティクスに成長の軸足を移すことを意味します。環境関連の規制クレジット販売による収益への依存度も今後変化する可能性があります。
投資家の評価は二分
テスラの株価はAI関連の期待で支えられていますが、EV事業の減速とAI事業の収益化までの時間差がリスク要因です。調整後EPSは0.50ドルでアナリスト予想の0.44〜0.46ドルを上回りましたが、自動車事業の収益性低下は継続的な懸念材料です。設備投資の大幅増加が短期的な利益を圧迫する可能性もあります。
まとめ
テスラの高級EV撤退とAI企業への転換は、自動車産業とAI産業の境界線が消失しつつあることを象徴する出来事です。マスクCEOは「壮大な未来に向けた大きな投資の最初のステップ」と位置づけていますが、EV販売の減速、BYDとの競争激化、AI・ロボティクス事業の収益化という複数の課題を同時に乗り越える必要があります。
テスラが「フィジカルAI企業」として成功できるかは、Optimusの量産とロボタクシーの商用展開の進捗にかかっています。自動車業界のみならず、AI・ロボティクス産業全体の方向性を占う重要な転換点です。
参考資料:
- Tesla kills Model S, Model X to free factory space for Optimus - Automotive News
- Tesla profits slumped 46% last year - NPR
- Tesla’s Strategic Pivot: Abandoning Luxury EVs for Humanoid Robot Manufacturing - WebProNews
- テスラがEV2車種の生産停止、ロボ工場に転換へ - 読売新聞
- Tesla 2026: The AI and Robotics Pivot - FinancialContent
関連記事
テスラがEVからAI企業へ転換、ロボット量産に着手
テスラが高級EV生産から撤退し、ヒト型ロボット「Optimus」の量産体制を構築。EV工場をロボット生産に転用する「第二の創業」の全体像を解説します。
テスラがモデルS・X生産終了しロボット工場へ転換
テスラが高級EV「モデルS」「モデルX」の生産を終了し、工場をヒト型ロボット「Optimus」の製造拠点に転換。xAIへの20億ドル出資も発表し、AI企業への変革を加速させています。
テスラ、モデルS・X生産終了しロボット工場へ転換
テスラがモデルSとモデルXの生産を終了し、フリーモント工場をヒト型ロボット「Optimus」の生産拠点に転換すると発表。xAIへの20億ドル出資も含め、AI・ロボット事業への大転換を解説します。
テスラが日本でポルシェ超え、2025年輸入車販売8割増の理由
テスラの日本販売が2025年に前年比8割増と好調。輸入車ランキングでポルシェを抜き7位に。ソフトウェア更新による運転支援の進化が顧客を惹きつける理由を解説します。
テスラが日本で接客重視に転換、店舗倍増で攻勢
テスラが2025年に日本で過去最高の1万台超を販売。オンライン中心から直営店での接客重視へ戦略転換し、2026年には店舗数を倍増させる計画です。日本EV市場の最新動向を解説します。
最新ニュース
ビットコイン7万ドル台急落、テック株売りが暗号資産に波及
ビットコインが約1年3カ月ぶりの安値となる7万2000ドル台に急落しました。米ハイテク株の売りが暗号資産市場に波及した背景と、MicroStrategyの含み損問題について解説します。
日銀の量的引き締め出遅れと円安の関係を解説
日銀のマネタリーベース縮小が米欧に比べ緩やかな理由と、それが円安に与える影響について解説します。FRB新議長候補ウォーシュ氏の金融政策姿勢にも注目が集まっています。
書店600店の在庫を一元化|返品率30ポイント削減の新システム
紀伊国屋書店、TSUTAYA、日販が出資するブックセラーズ&カンパニーが、56社603店の在庫を横断管理するデータベースを始動。返品率6割減を実現した事例と、出版業界の構造改革を解説します。
中国海警局の尖閣周辺活動が過去最多に、日中の緊張続く
2025年、中国海警局の船舶が尖閣諸島周辺の接続水域に357日出没し過去最多を更新。日本の対応策と偶発的衝突防止の課題を解説します。
中国の土地売却収入がピーク比半減、地方財政に深刻な打撃
中国の地方政府の土地売却収入が2025年も前年比14.7%減少し4年連続の減少を記録。ピークの2021年から52%減となり、不動産不況が地方財政を圧迫し続けています。