22歳起業家が開発「トイレ版食べログ」の革新性
はじめに
「トイレ版の食べログを目指している」——そう語るのは、株式会社UN&Co.(ウンアンドコー)の代表取締役・原田怜歩(らむ)氏、22歳です。中学時代から8年以上にわたり、全国4万カ所以上のトイレを訪れて記録を続けてきた「トイレ研究家」が、2026年内に公共トイレの口コミサイトを公開すると発表しました。
車椅子ユーザーの約8割が「新しい土地で使えるトイレが見つからない」ことを理由に外出を控えた経験があるという調査結果があります。トイレという日常的な存在が、実は多くの人々の社会参加を阻む壁となっているのです。この課題に真正面から取り組むUN&Co.のサービス「Ezloo(イズルー)」について、その革新性と社会的意義を解説します。
原田怜歩氏とトイレ研究の始まり
アメリカ留学で受けた衝撃
原田怜歩氏がトイレに関心を持つきっかけとなったのは、中学3年生の時に語学留学したアメリカ・フロリダ州での経験でした。2週間の滞在期間中、原田氏が唯一ホームシックになったのが「日本のトイレ」だったといいます。
音消しのための流水音や温かい便座など、多機能な日本のトイレとは対照的に、アメリカのトイレは無機質でした。その思いをホストファーザーに伝えたところ、「アメリカにも良いトイレがある」と紹介されたのが、地元の大学に設置されていた「オールジェンダートイレ」でした。
原田氏は「衝撃的でした。私にとって新しい発想で、トイレというものを再認識することにつながりました」と当時を振り返っています。この体験が、その後のトイレ研究の原点となりました。
小学生時代の友人への思い
オールジェンダートイレとの出会いで、原田氏の頭に浮かんだのは小学生時代のトランスジェンダーの友人の存在でした。原田氏にとってはプライベート空間でほっと一息つける場であるトイレが、その友人にとっては居心地の悪い場所だったことに思いを巡らせたのです。
また、車椅子を使用する友人もいました。彼らにとって、外出先で使えるトイレを見つけることがいかに困難であるか。原田氏は「どこのトイレにどんな機能が備わっているのか、バリアフリーの設備はどの程度ついているのか」を研究として位置づけ、一つひとつ気づいたことをノートにまとめていきました。
東京大学推薦入学とUN&Co.設立
原田氏は公文国際学園高等部在学時に「トビタテ!留学JAPAN」代表留学生として渡米し、帰国後も研究を続けました。その実績が評価され、東京大学に学校推薦型選抜で合格。経済学部で「トイレと経済性」について学びながら、2024年に株式会社UN&Co.を設立しました。
社名の「UN&Co.」は一見ドキッとする響きですが、原田氏は「もっとストレートな名前にしようとしたら、法務局に公序良俗に反しうると却下された」と笑います。事業は至って真面目で、「トイレから世界を変える」をテーマに、性自認や障害の有無に関係なく、すべての人が快適に利用できるトイレ環境の実現を目指しています。
トイレマップアプリ「Ezloo」の機能と特徴
全国10万件超のトイレ情報を集約
Ezloo(イズルー)は、全国10万件を超えるトイレ設備情報を地図上で検索できるWebアプリです。利用者は、車椅子対応、オストメイト、介助ベッド、ベビーチェアなどの設備情報をフィルターで絞り込み、自分のニーズに合ったトイレを迅速に見つけることができます。
検索結果から外部マップと連携し、そのまま経路案内へ移動できるため、初めて訪れる場所でも安心して移動することが可能です。多機能トイレは設置数が限られ、情報も地元利用者の間だけで共有されることが多いため、初めて訪れる人にとっては使える場所が見えにくいという課題がありました。Ezlooはこの情報格差を解消することを目指しています。
利用者の声を施設管理者に届ける仕組み
Ezlooの特徴的な機能の一つが、口コミ投稿システムです。利用者はトイレの使いやすさや改善点をその場からコメントとして投稿でき、これまで暗黙知になりがちだった利用者のリアルな声を可視化することができます。
この口コミは他の利用者の判断材料になると同時に、施設管理者が現場改善に活かすことができます。単なる情報提供にとどまらず、トイレ環境の継続的な改善サイクルを生み出す仕組みとなっているのです。
JTAトイレ大賞2025を受賞
2025年11月10日に開催された「第41回全国トイレシンポジウム2025」において、Ezlooは一般社団法人日本トイレ協会主催の「JTAトイレ大賞2025」社会的活動部門に選出されました。作品タイトルは「Ezloo ー 手のひらから広がる安心の外出」です。
受賞理由として、全国10万件を超えるトイレ設備情報の集約と、利用者の声を施設管理者に直接届ける仕組みを通じて、障害者や子育て世帯、高齢者、観光客など多様な人々の外出に伴う不安を軽減し、社会参加の機会を広げてきた点が高く評価されました。
公共トイレを取り巻く社会課題
多機能トイレへの利用集中問題
国土交通省のバリアフリー化の取り組みとして、駅や建築物などにおける車椅子使用者用トイレの設置が義務付けられてきました。その結果、子ども連れなども利用できる多機能トイレが数多く設置されるようになりました。
しかし、その一方で新たな問題が生じています。車椅子使用者などの障害者だけでなく、高齢者、子ども連れなどによる利用が集中し、車椅子使用者が使いにくくなっているという指摘が寄せられているのです。
一般財団法人国土技術研究センターのアンケート調査によると、車椅子使用者で「多機能トイレで待たされたことがよくある」と回答したのは52.4%で、「たまにある」まで含めると94.3%に上ります。車椅子使用者や大型のベッドを使用する人は、多くの場合、他の一般トイレを使うことができません。使用できるのは多機能トイレのみで、他の選択肢がないのです。
情報不足が外出を阻む壁に
UN&Co.の調査によると、車椅子ユーザーの約8割が「新しい土地で使えるトイレが見つからない」ことを理由に外出を控えた経験があると回答しています。トイレの設備情報が十分に共有されていないことが、多くの人々の社会参加を制限する要因となっているのです。
全国の多目的トイレは約6万3千カ所以上が確認されていますが、その情報は分散しており、利用者が必要な時に必要な情報を得ることが困難な状況でした。Ezlooはこの情報格差を埋めるためのソリューションとして期待されています。
機能分散という新たなアプローチ
国土交通省は多機能トイレへの利用集中問題を解決するため、「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」の改正を行いました。ポイントは「多機能トイレへの利用者の集中を避けるため、個別機能の分散配置を促進」することです。
オストメイト対応設備やベビーチェアなど、それぞれの機能を別々のトイレに配置することで、特定のトイレへの利用集中を緩和する狙いがあります。しかし、機能が分散すると、どのトイレにどの機能があるかを利用者に伝える仕組みがより重要になります。ここにEzlooのようなアプリの存在意義があります。
神戸市での実証実験と今後の展望
行政との連携による実証運用
UN&Co.は神戸市と連携し、2025年10月17日から公共トイレの「使いやすさ」を可視化するWebアプリ「Ezloo」の実証運用を開始しました。これは神戸市の社会起業家支援プログラム「Soil×Kobe」の一環として実施されています。
実証運用では、神戸市内約130カ所の公共トイレ情報を地図上でワンストップ検索でき、バリアフリー設備や口コミなどの詳細情報も一目で確認できるようになっています。行政とスタートアップが協力して、誰もが安心して外出できる都市づくりを目指す取り組みとして注目されています。
2026年内に口コミサイトを公開予定
原田氏は2026年内にトイレの口コミサイトを公開すると発表しました。これまでのマップ機能に加え、より充実した口コミ機能を実装し、「トイレ版の食べログ」としての機能を強化する計画です。
今後はさらに他の自治体や交通事業者、商業施設とも連携を拡大し、観光・子育て・防災など幅広い分野に応用できる仕組みへと発展させていく予定です。
注意点・展望
トイレ情報の継続的な更新が課題
トイレの設備は改修や閉鎖により変化するため、情報の継続的な更新が重要です。Ezlooでは利用者からの口コミ投稿を活用して情報の鮮度を保つ仕組みを構築していますが、すべてのトイレ情報をリアルタイムで正確に把握することは容易ではありません。
利用者自身も、アプリの情報を参考にしつつ、実際の設備状況を確認することが重要です。
バリアフリー社会実現への貢献
日本では2020年東京オリンピック・パラリンピックを契機にバリアフリー化が進みましたが、まだ十分とは言えません。公園・公衆トイレでは、トイレが全く洋式化されていない施設が70.4%という調査結果もあり、改善の余地は大きいです。
Ezlooのようなサービスが普及することで、トイレ環境の「見える化」が進み、施設管理者の改善意識向上にもつながることが期待されます。トイレという身近なインフラを通じて、すべての人が安心して外出できる社会の実現に向けた第一歩となるでしょう。
まとめ
中学時代から4万カ所以上のトイレを調査してきた原田怜歩氏が率いるUN&Co.は、公共トイレの情報格差という社会課題に取り組むスタートアップです。トイレマップアプリ「Ezloo」は全国10万件超のトイレ情報を集約し、JTAトイレ大賞2025を受賞するなど高い評価を得ています。
2026年内には口コミサイトとしての機能を強化し、「トイレ版の食べログ」を目指すと発表されました。車椅子ユーザーや子育て世帯など、外出時にトイレの不安を抱える人々にとって、Ezlooは心強い味方となるでしょう。トイレという日常的な存在から社会を変えようとする22歳の起業家の挑戦に、今後も注目が集まります。
参考資料:
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