東京科学大学が国際卓越大学に認定、10兆円ファンドで支援
はじめに
松本洋平文部科学相は2026年1月23日、世界最高水準の研究力を目指す「国際卓越研究大学」として東京科学大学を正式に認定したと発表しました。東京科学大学は、2024年10月に東京工業大学と東京医科歯科大学が統合して誕生した新しい国立大学です。
この認定により、東京科学大学は政府が設置した10兆円規模の大学ファンドの運用益から、2026年度より最長25年間にわたる財政支援を受けることになります。初年度の支援額は百数十億円に上る見通しです。本記事では、国際卓越研究大学制度の概要、東京科学大学の特徴と目標、そして日本の研究力向上に向けた取り組みについて解説します。
国際卓越研究大学制度とは
10兆円ファンドの仕組み
国際卓越研究大学制度は、日本の研究力を世界トップレベルに引き上げることを目的とした政府の支援策です。2020年12月の追加経済対策に盛り込まれ、2022年5月に国際卓越研究大学法が成立したことで制度が確立されました。
具体的には、政府出資0.5兆円と財政融資資金4兆円を合わせた4.5兆円の元本を、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が株式や債券で運用し、10兆円規模に拡大させます。その運用益を「国際卓越研究大学」に認定された大学に分配する仕組みです。
支援額の上限は全体で年間3,000億円と設定されており、最長25年間にわたって受け取ることができます。計画は3期(第1期10年間、第2期8年間、第3期7年間)に分かれており、各期の期末に支援継続の可否が評価されます。
認定基準と条件
国際卓越研究大学として認定されるためには、厳格な基準をクリアする必要があります。主な認定基準には、引用数上位10%の論文が直近5年間で1,000本以上であること、効果的な資源配分が行える運営体制が整備されていることなどがあります。
また、大学運営の重要事項を議決する合議体「運営方針会議」の設置も求められます。この会議では、学外委員を過半数とすることで、外部の視点を取り入れた経営判断を可能にします。
先行事例:東北大学
国際卓越研究大学の第1号として、2024年11月に東北大学が認定されました。東北大学は2024年度に約154億円の助成を受け、博士課程学生支援として約167億円が追加され、計約321億円の支援を受けています。2025年度は169億円の助成が予定されています。
東北大学は、大学発スタートアップを現在の約180社から25年後に1,500社へ増やすこと、研究資金の受け入れ額を約86億円から約959億円に拡大すること、博士課程の学生数を約2,700人から6,000人に増やすことなどを目標に掲げています。
東京科学大学の誕生と特徴
統合の経緯
東京科学大学(Science Tokyo)は、東京工業大学と東京医科歯科大学が統合して2024年10月1日に誕生しました。両大学はともに「指定国立大学」に認定されており、2022年10月に法人統合および大学統合に関する基本合意書を締結していました。
統合のきっかけは、四大学連合学長懇談会で頻繁に話す機会があった両大学の学長間の対話でした。工学系大学との連携の必要性を感じていた田中雄二郎・東京医科歯科大学学長(現・東京科学大学学長)から益一哉・東京工業大学学長に統合の可能性が示唆され、さらに踏み込んだ1法人1大学方式での統合が提案されました。
コンバージェンス・サイエンスの追求
東京科学大学の最大の特徴は、理工学と医歯学の融合による「コンバージェンス・サイエンス」(異分野融合)の追求です。田中学長は「大学統合にあたってのキーポイントの1つは、コンバージェンス・サイエンス、異分野融合だ」と語っています。
理工学、医歯学、情報学、リベラルアーツ・人文社会科学などを収斂させた総合知に基づく新しい学問領域を生み出し、社会課題の解決につなげることを目指しています。2025年7月には国際医工共創研究院を設置する予定です。
医工連携の具体的成果
統合に先立ち、両大学は「東京医科歯科大学・東京工業大学マッチングファンド」によるボトムアップ型共同研究を推進してきました。2024年4月には研究成果発表・研究交流会が開催され、37組の共同研究チームが革新的な異分野融合研究の成果を発表しました。
代表的な研究として、ヘルスケア分野の課題を理工学で解決する研究や、脳内へ安全かつ高効率に薬を運べるナノマシンを使ってmRNAを脳内に届ける研究などが紹介されています。
国際卓越研究大学認定の意義
審査結果と評価
文部科学省の有識者会議は、第2期公募の審査結果として、東京科学大学を「認定候補」に選定しました。審査では、東京科学大学の体制強化計画案について「研究分野・組織の壁を越える抜本的改革を目指し、執行部のリーダーシップの下、全学的に検討された計画」と高く評価されました。
特に、東京工業大学と東京医科歯科大学の統合経験を生かした医工連携の強力な推進計画については、「日本の新しい大学のモデルとなることが期待される」とされ、2026年4月からの計画開始が適当と判断されました。
支援内容と活用計画
国際卓越研究大学に認定された東京科学大学は、初年度に百数十億円規模の助成を受ける見通しです。この支援を活用し、研究力強化に向けたさまざまな施策を展開する計画です。
特に注目されるのは、博士課程学生への経済的支援の大幅拡充です。現在の支援額を年間で数百万円増やし、平均年約400万〜500万円にする方針が示されています。田中学長は「自立した生活ができ、研究に集中できる環境を整えたい」と述べており、若手研究者の育成強化に力を入れる姿勢を明確にしています。
目標と数値指標
東京科学大学は、統合経験を生かして医工連携研究の論文数を25年間で7倍以上に増やすことを目標に掲げています。また、経営資源配分を執行部に一元化し、大学基金を1兆円以上に増やして自律的な財務基盤を確立することも計画しています。
ガバナンス強化に向けては、女性研究者比率を40%、外国人研究者比率を30%に高めることを目指しています。これらの取り組みにより、世界トップレベルの研究大学への飛躍を図ります。
注意点・今後の展望
他大学の動向
国際卓越研究大学の第2期公募では、東京科学大学のほか京都大学も認定候補として選定されました。一方、東京大学はコンプライアンス上の問題があり審査継続となり、大阪大学や名古屋大学など5大学は不採択となりました。
今後、さらなる公募が行われる可能性があり、日本の主要研究大学間で支援獲得に向けた競争が続くことが予想されます。認定を目指す大学は、研究力の向上だけでなく、ガバナンス体制の整備や運営方針会議の設置など、組織改革にも取り組む必要があります。
日本の研究力向上への期待
日本の大学は世界大学ランキングにおいて、学術評判・雇用者評価ではアジア最高水準を誇る一方、論文被引用数の低さや国際共同研究の不足が課題となっています。THE世界大学ランキング2026では、東京大学が26位、京都大学が61位となっていますが、さらなる順位向上には国際的な研究発信力の強化が求められます。
国際卓越研究大学制度による集中的な支援が、こうした課題の解決につながるかどうかが注目されます。10兆円ファンドの運用益を活用した長期的・安定的な支援により、世界と競争できる研究環境の整備が期待されています。
大学ファンドの運用実績
大学ファンドは2023年度に収益率約10%を達成し、累計収益額は1兆円を超えました。順調な運用実績を背景に、認定大学への支援が本格化しています。ただし、市場環境の変動によっては運用益が減少するリスクもあり、支援額が計画通りに確保できるかどうかには不確定要素も残ります。
まとめ
東京科学大学の国際卓越研究大学認定は、日本の研究力向上に向けた重要な一歩です。東京工業大学と東京医科歯科大学の統合により誕生した同大学は、理工学と医歯学の融合による「コンバージェンス・サイエンス」を追求し、新たな学問領域の創出を目指しています。
10兆円ファンドの運用益による最長25年間の財政支援を受けることで、博士課程学生への手厚い支援や、世界トップレベルの研究者の招聘、国際共同研究の推進などが可能になります。医工連携研究の論文数を7倍以上に増やすという野心的な目標の達成に向けて、どのような成果を上げていくのか注目されます。
日本の研究大学が世界と競争できる環境を整えるため、国際卓越研究大学制度の成功は非常に重要です。東京科学大学の今後の取り組みが、日本の大学改革のモデルケースとなることが期待されています。
参考資料:
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