東大の卓越大審査が危機、教授逮捕でガバナンス問われる
はじめに
東京大学が国際卓越研究大学の認定を目指す中、大きな試練に直面しています。2026年1月に東大大学院教授が収賄容疑で逮捕されたことを受け、松本洋平文部科学相は2月3日の記者会見で「ガバナンスに欠ける場合は審査を打ち切る可能性もあり得る」と発言しました。
国際卓越研究大学とは、10兆円規模の大学ファンドから最長25年にわたって支援を受けられる制度です。東大は2025年12月の第2期審査で認定候補に選ばれず、継続審査となっていた矢先の事件発生でした。日本の最高学府が抱えるガバナンス問題と、今後の審査の行方について詳しく解説します。
東大教授の収賄事件とその影響
事件の概要
2026年1月24日、警視庁捜査2課は東京大学大学院医学系研究科教授の佐藤伸一容疑者(62)を収賄容疑で逮捕しました。容疑内容は、大麻含有物質の皮膚疾患への有効性を研究する「臨床カンナビノイド学講座」の設置・運営の見返りとして、一般社団法人「日本化粧品協会」の代表理事から不正な接待を受けたというものです。
接待は2023年3月から2024年8月にかけて約30回行われ、銀座の高級クラブや台東区のソープランドなどで計約180万円相当に上りました。東京大学は1月26日付で同教授を懲戒解雇しています。
相次ぐ不祥事と大学の対応
東大では2025年11月にも医学部付属病院の准教授が医療機器選定を巡る収賄容疑で逮捕されており、教員の逮捕が続いています。藤井輝夫総長は「度重なる教員の逮捕は痛恨の極みであり、言語道断で遺憾」とコメントを発表しました。
1月28日に開催された記者会見では、調査チームの弁護士が共同研究を大学側が管理する体制のずさんさを指摘。社会連携講座の設立から廃止までの経緯や、ガバナンス改革案が説明されました。さらに、この問題を受けて東大病院長も引責辞任する事態となっています。
国際卓越研究大学制度の仕組み
10兆円ファンドとは
大学ファンドは2021年度に科学技術振興機構(JST)によって運用が開始された基金です。運用元本10兆円は、政府出資約1.1兆円と財政投融資からの借入金約8.9兆円で構成されています。2024年度末時点での運用資産額は約11.1兆円に達し、同年度の収益額は1,882億円(収益率1.7%)でした。
この運用益を活用して、「国際卓越研究大学」に認定された大学を支援する仕組みです。年間の支援額目標は合計3,000億円で、認定大学は最長25年にわたって助成を受けられます。
認定の要件
国際卓越研究大学に選ばれるには、以下の4つの条件を満たす必要があります。
- 国際的に卓越した研究成果の創出:他の論文に多く引用される優れた論文の数などが評価されます
- 年3%の事業規模の成長:企業などからの研究資金受け入れ実績も重要な指標です
- 大学独自のファンドの拡充:自己資金調達能力が問われます
- 自律と責任のあるガバナンス体制の構築:合議体の設置など組織統治の改革が求められます
特に4番目のガバナンス要件が、今回の東大の審査において大きな焦点となっています。
東大の審査状況と他大学との比較
第2期審査の結果
2025年12月に発表された第2期審査の結果では、東京科学大学が認定候補に選定され、京都大学も最長1年間の体制強化計画案の磨き上げを経て認定候補となることが決まりました。東京科学大学は2026年1月23日に正式認定され、2024年の東北大学に続く2校目となっています。
一方、東京大学については「認定候補とすべきか、さらに確認を要する点がある」と判断され、最長1年間の継続審査となりました。審査では工学部を中心とした新学部設置構想や改革案が評価される一方で、「コンプライアンス上の問題に対する法人組織としての対応は、国際卓越研究大学に求められている自律と責任のあるガバナンスの構成要素として重要」と指摘されていました。
東北大学への支援実績
参考として、2024年11月に国際卓越研究大学第1号に認定された東北大学の状況を見てみましょう。東北大学には2025年度(令和7年度)計画分として約154億円が交付されました。体制強化計画は第I期10年間、第II期8年間、第III期7年間の計25年間にわたります。
東大が認定されれば同様の規模の支援が見込まれますが、現状ではその実現が危ぶまれています。
文科相の発言と今後の審査
「打ち切りもあり得る」発言の意味
松本洋平文部科学相は2026年2月3日の閣議後記者会見で、東大教授の逮捕事件について「言語道断で大変遺憾」と述べました。そして国際卓越研究大学の審査継続について「大学の対応がガバナンスに欠ける場合は、打ち切る可能性もあり得る」と強調しました。
一方で松本氏は「即座に審査を打ち切ることにはならない」としながらも、「厳しい目が向けられていると認識してほしい」と東大に警告を発しています。有識者会議も継続審査の条件として「法人としてのガバナンスに関わる新たな不祥事が生じたと判断した場合は審査を打ち切る」と明言していました。
東大に求められる改革
東大が審査を継続し、認定を得るためには以下の点が求められています。
- 全学の新たな資源配分基準の明確化と学内合意
- 法人としてのガバナンス体制への移行の確認
- コンプライアンス問題への法人組織としての対応
藤井総長は「この段階で認定されなかったことは大変残念」としつつ、「コンプライアンス上の問題に対する法人組織としての対応に関する指摘を重く受け止め、全学を挙げた取り組みを更に加速させる」とコメントしています。
注意点・今後の展望
ガバナンス改革の難しさ
大学のガバナンス改革には構造的な課題があります。政治・行政関係者や企業経営者の間には、法人経営や大学運営に対する根強い不信感が存在します。一方で、大学は学問の自由を守りながら組織統治を強化するという難しいバランスが求められます。
教職員の自覚的行動をいかに作り出すかというソフト面の改善なしには、形式的な制度改革だけでは成果は得られないとの指摘もあります。東大が今回の事件を契機に実効性のある改革を進められるかが問われています。
審査の行方
継続審査の期間は最長1年間とされています。東大は2026年末までに認定候補としての採否が決定される見通しです。今後、社会連携講座の管理体制強化や、研究費の適正管理に関する具体的な対策の実行が注視されることになります。
日本の大学で最大の研究力を持つ東大が国際卓越研究大学に認定されないという事態は、日本の学術研究全体にとっても大きな影響を与える可能性があります。
まとめ
東京大学は国際卓越研究大学の認定を目指す中、教授の収賄逮捕という深刻なガバナンス問題に直面しています。松本文科相の「打ち切りもあり得る」という発言は、10兆円ファンドからの支援を得るためにはガバナンス改革が不可欠であることを改めて示しました。
東大には、今回の事件を単なる個人の問題として片付けるのではなく、組織全体としての管理体制を見直す姿勢が求められています。継続審査の結果は、日本の研究大学のあり方を左右する重要な判断となるでしょう。
参考資料:
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