東大で相次ぐ汚職事件、10兆円ファンド認定に暗雲
はじめに
日本の最高学府である東京大学が、かつてない危機に直面しています。2025年から2026年にかけて、医学部関連で収賄事件が相次ぎ、大学のガバナンス体制に厳しい視線が向けられています。
特に深刻なのは、この不祥事が「国際卓越研究大学」の認定審査に影響を及ぼしていることです。10兆円規模の大学ファンドから支援を受けるための審査において、東京大学は「継続審査」となり、新たな不祥事が発生すれば審査打ち切りという厳しい状況に置かれています。この記事では、一連の汚職事件の経緯と、ガバナンス改革の行方について解説します。
連続する汚職事件の概要
2026年1月:大学院教授の逮捕
2026年1月24日、警視庁捜査2課は東京大学大学院医学系研究科教授の佐藤伸一容疑者(62歳)を収賄容疑で逮捕しました。
逮捕容疑によると、佐藤容疑者は2023年3月から2024年8月にかけて、大麻含有物質の皮膚疾患への有効性を研究する「臨床カンナビノイド学講座」の設置・運営の見返りとして、一般社団法人「日本化粧品協会」の代表理事から銀座の高級クラブや台東区のソープランドで約30回、計約180万円相当の接待を受けた疑いが持たれています。
佐藤容疑者は皮膚科医として指定難病「全身性強皮症」を専門とし、研究成果により治療薬が新たに承認されるなどの実績を持つ人物でした。
2025年11月:准教授の逮捕
この事件に先立つ2025年11月にも、東大病院の医療機器選定をめぐる汚職事件が発覚しています。東京大学医学部准教授の松原全宏容疑者(53歳)が収賄容疑で逮捕されました。
容疑の内容は、2021年9月から2023年1月にかけて、医療機器メーカー「日本エム・ディ・エム」の大腿骨用インプラントを手術で優先的に使用する見返りに、奨学寄付金として計約70万円の賄賂を受け取ったというものです。
組織的なガバナンスの問題
見逃せないのは、これらの不祥事が個人の問題にとどまらず、東京大学全体のガバナンス(統治)の問題として捉えられている点です。東大のような総合大学では、教育研究の主体である学部の力が強く、組織全体としてのチェック機能が働きにくい構造的な課題があると指摘されています。
国際卓越研究大学制度とは
10兆円ファンドの概要
国際卓越研究大学制度は、世界最高水準の研究力を持つ大学を育成するため、政府が10兆円規模のファンドを設置し、その運用益から支援を行う仕組みです。認定された大学は最長25年にわたって助成を受けることができ、年間の助成総額は全体で3,000億円を上限としています。
認定の3つの条件
認定にあたっては、文部科学省に設置されたアドバイザリーボードが以下の3つの観点から審査を行います。
- 国際的に卓越した研究成果を創出できる研究力
- 実効性高く意欲的な事業・財務戦略
- 自律と責任のあるガバナンス体制
特に注目すべきは3つ目の「ガバナンス体制」です。単なる研究力だけでなく、組織としての健全性が重視されています。
第2期審査の結果
2025年12月に公表された第2期審査の結果では、東京科学大学が認定され、京都大学が候補として選定されました。一方、東京大学は「継続審査」という結果になりました。
アドバイザリーボードからは、東京大学について「極めて挑戦的な改革構想を掲げている」と評価する一方で、「学内組織評価や資源配分の基準について、学内合意を経た上で実効性の確認が必要」「コンプライアンス上の問題の対応は、卓越大に求められる自律と責任あるガバナンスの構成要素として重要」という厳しい意見が付されました。
審査打ち切りの可能性
深刻なのは、「ガバナンスに関わる新たな不祥事」が発生した場合、審査が打ち切られるという条件が付いていることです。2026年1月の新たな逮捕事件が、この条件に抵触するかどうかが注目されています。
東京大学のガバナンス改革
藤井総長の危機認識
藤井輝夫総長は一連の不祥事を受け、「本学が危機的な状況にある」との認識を示し、執行部主導で全学が一丸となってガバナンス改革を進めると表明しました。
2026年の年頭挨拶では、「われわれが目指すガバナンス強化とは、統制を強めて創造性を削ぐことではありません。これは社会からの信頼に耐えうる説明責任を果たし、学術の挑戦を持続可能なものにするための基盤となるもの」と述べています。
具体的な改革策
東京大学は以下の改革策を打ち出しています。
1. 医学系研究科・医学部・医学部附属病院改革委員会の設置
学外者を中心とした委員会を設置し、組織体制や運営にどのような問題があるのかを明らかにします。病院を「医学部附属」から「大学附属」とする可能性など、組織体制の抜本的な見直しも検討されています。
2. リスクガバナンス強化検討委員会の設置
大学全体のリスク管理体制を強化するための委員会です。
3. 外部資金管理の強化
臨床カンナビノイド学講座の問題を受けて、外部からの資金提供を受ける研究に関する管理・執行体制の検証と強化を進めています。
4. 運営の透明性向上
部門間の連携強化、情報共有の促進など、組織としての透明性を高める取り組みを実施しています。
他大学への影響と教訓
東京科学大学の先行認定
東京科学大学(旧東京工業大学と旧東京医科歯科大学が統合)は、2025年12月の審査で認定が決定し、2026年4月から計画が開始される予定です。初年度には百数十億円の助成が見込まれています。
第1号として認定された東北大学には、2025年度に154億円が助成されました。これらの大学に対し、東京大学が後れを取る形となっています。
大学ガバナンスの普遍的課題
今回の東京大学の事例は、日本の大学全体に共通する課題を浮き彫りにしています。伝統的に学部の自治が強い日本の大学では、本部によるガバナンスが効きにくい構造があります。
国際卓越研究大学制度は、単なる研究資金の配分ではなく、大学組織全体の改革を促す仕組みとして機能しています。10兆円ファンドの支援対象となるためには、「部分的な最適化ではなく、大学全体を貫く構造改革」が求められているのです。
今後の展望
審査継続の行方
東京大学の継続審査は最長1年とされています。この間に、不祥事の再発防止策が実効性を持つものとして認められるかどうかが、認定の成否を左右します。
2026年1月の新たな逮捕事件が審査にどのような影響を与えるかは、今後の動向を注視する必要があります。アドバイザリーボードが「ガバナンスに関わる新たな不祥事」と判断すれば、審査打ち切りの可能性もあります。
日本の研究力への影響
東京大学は日本の大学の中で最大の研究規模を持ち、国際的な研究競争において重要な役割を担っています。ガバナンス改革の成否は、東京大学だけでなく、日本の研究力全体に影響を及ぼす可能性があります。
まとめ
東京大学で相次ぐ汚職事件は、個人の倫理観の問題にとどまらず、組織全体のガバナンス体制の課題を露呈しました。10兆円ファンドからの支援を受けるための国際卓越研究大学認定は継続審査となり、新たな不祥事があれば打ち切りという厳しい状況にあります。
藤井総長のもとで進められるガバナンス改革が、社会からの信頼を回復し、世界最高水準の研究大学としての地位を確立できるかどうか。その成否は、東京大学のみならず、日本の高等教育・研究の未来を左右する重要な岐路となっています。
参考資料:
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