東大病院で汚職事件連発、院長引責か組織の闇
はじめに
日本最高峰の医療機関として知られる東京大学医学部附属病院(東大病院)で、深刻な事態が進行しています。2025年11月から2026年1月にかけて、同病院所属の医師・教授らが相次いで収賄容疑で逮捕されるという前代未聞の事件が発生しました。
この連続汚職事件を受け、田中栄院長が引責辞任する方向で調整が進んでいると報じられています。日本を代表する大学病院でなぜこのような事態が起きたのか。本記事では、事件の全容と背景にある産学連携の構造的問題について解説します。
連続する収賄事件の全容
第1の事件:医療機器メーカーとの癒着
2025年11月19日、東大病院救急・集中治療科の准教授が収賄容疑で警視庁に逮捕されました。逮捕容疑は、医療機器メーカー「日本エム・ディ・エム」が扱う大腿骨インプラントの使用について便宜を図る見返りに、同社から「寄付金」名目で約70万円相当の賄賂を受け取った疑いです。
この事件では、寄付金の形式を取りながら、実質的には准教授個人が自由に使える状態にあったことが問題視されています。大学の正規ルートを経由しながらも、使途の透明性が確保されていなかった実態が明らかになりました。
東京地検は同年12月10日、この准教授を収賄罪で起訴しています。
第2の事件:高級クラブやソープランドでの接待
さらに衝撃的だったのが、2026年1月24日に発覚した第2の事件です。東大大学院医学系研究科の佐藤伸一教授(62)が収賄容疑で逮捕されました。
佐藤容疑者は皮膚科学の権威として知られ、大麻草由来成分「カンナビジオール」に関する共同研究を一般社団法人「日本化粧品協会」と進めていました。逮捕容疑によると、講座の設置手続きや研究内容の選定で便宜を図る見返りに、2023年3月から2024年8月にかけて、銀座の高級クラブやソープランドなどで約30回、計約180万円相当の接待を受けた疑いが持たれています。
週刊文春の報道によると、接待の総額は約1500万円に上るとされ、共同研究者が実名で告発に踏み切ったことで事件が表面化しました。
元特任准教授への捜査も進行
警視庁は、佐藤容疑者と共に接待を受けていた同大学院の元特任准教授(46)についても任意で捜査を進めています。組織的な接待受けの構図が浮かび上がっており、事件の広がりが懸念されています。
東京大学の対応と組織改革
藤井総長「痛恨の極み」
連続する逮捕を受け、東京大学の藤井輝夫総長は2026年1月25日にメッセージを発表しました。
「度重なる教員の逮捕は痛恨の極みであり、言語道断で、遺憾であると言わざるを得ません」
総長は捜査への全面協力と再発防止のための組織改革に「不退転の決意で取り組む」と表明しています。
幹部の処分と改革委員会の設置
第1の事件を受け、東京大学は2025年12月に以下の処分を発表しました。
- 藤井輝夫総長:役員報酬の30%を1カ月自主返納
- 相原博昭理事・副学長:役員報酬の10%を1カ月自主返納
- 齊藤延人理事・副学長:役員報酬の10%を1カ月自主返納
- 南學正臣・医学系研究科長:総長から厳重注意
- 田中栄・病院長:総長から厳重注意
また、医学部と全学それぞれにガバナンス体制改革のための委員会が設置されました。しかし、その直後に第2の事件が発覚したことで、改革の実効性に疑問の声も上がっています。
卓越大学認定への影響
東大は「国際卓越研究大学」の認定を目指しており、認定されれば10兆円規模の大学ファンドから支援を受けられます。しかし、連続する汚職事件は認定審査に影響を与える可能性があります。
朝日新聞の報道によると、准教授逮捕時に大学幹部から「もう無理かも」という声も漏れたといいます。
産学連携に潜む構造的問題
「奨学寄付金」の実態
今回の事件で注目されているのが、「奨学寄付金」と呼ばれる企業から大学への寄付の仕組みです。
東洋経済の報道によると、この制度自体は透明性が確保されているものの、運用面で問題が生じやすい構造があります。使途特定型の寄付金の場合、特定の教員の研究に使うことが指定されており、実質的にその教員が自由に使える研究資金となります。
企業側にとっては、製品の選定に影響力を持つ医師との関係構築に使いやすい仕組みであり、医師側も自由度の高い研究資金を得られるという利害の一致があります。
利益相反マネジメントの課題
国立大学では産学連携における利益相反のマネジメント体制が整備されています。しかし、文部科学省が2002年に『利益相反ワーキング・グループ報告書』を発表してから20年以上が経過しているにもかかわらず、実効性のある運用ができていない実態が浮き彫りになりました。
利益相反とは、教職員が産学連携から得る利益(報酬、寄付金など)と、教育・研究という大学の責任が衝突する状況を指します。重要なのは、利益相反自体が「悪」なのではなく、適切なマネジメントがなされていないことが問題だという点です。
なぜ医学部で問題が起きやすいのか
医学部・医学系研究科は、他の学部に比べて産業界との接点が多い特徴があります。
- 医療機器メーカーとの共同研究
- 製薬会社との臨床試験
- 化粧品・健康食品企業との効能研究
これらの連携において、研究資金の提供と製品の評価・推薦が結びつきやすく、利益相反のリスクが高まります。また、医師個人のブランド力が高いため、企業側も特定の医師との関係構築に力を入れる傾向があります。
注意点・今後の展望
再発防止に必要な視点
単なる個人の倫理観の問題として片付けてはいけません。構造的な問題として以下の改革が求められます。
寄付金の透明化:使途特定型寄付金について、第三者によるチェック機能を強化する必要があります。
利益相反申告の実効化:形式的な申告に留まらず、リスクの高い案件については詳細な審査を行う体制が求められます。
接待・贈答の厳格化:医師と企業の接触に関するルールを明確化し、違反時のペナルティを強化する必要があります。
他大学への波及
東大での連続事件は、他の国立大学にも影響を与える可能性があります。文部科学省が全国の大学に対し、産学連携に関するガバナンス体制の点検を求める動きも予想されます。
医療分野における産学連携自体は、イノベーション創出のために重要です。しかし、透明性と公正性が担保されなければ、社会的信頼を失い、連携そのものが萎縮してしまう恐れがあります。
まとめ
東京大学病院で相次いだ収賄事件は、日本の最高学府における産学連携の闇を浮き彫りにしました。田中栄院長の引責辞任は、組織としての責任の取り方として一つの節目となりますが、根本的な解決には構造改革が不可欠です。
今後、東京大学がどのような再発防止策を講じるのか、また国立大学全体での産学連携ガバナンスがどう変わっていくのか、注視が必要です。患者や社会からの信頼を取り戻すためには、透明性の高い運営体制の構築と、利益相反マネジメントの実効化が求められています。
参考資料:
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