トランプ氏がルビオ長官のキューバ大統領案に賛同、次の標的を示唆
はじめに
トランプ米大統領が2026年1月11日、自身のSNSでキューバの大統領にルビオ米国務長官が就任する案について「いい考えだ」と賛同を示しました。ベネズエラでのマドゥロ大統領拘束に続き、キューバを「次の標的」として政変を狙う可能性を示唆する発言として注目を集めています。
この発言の背景には、ベネズエラ軍事作戦の成功により自信を深めたトランプ政権の中南米戦略、キューバ系移民の子であるルビオ長官の個人的な背景、そして経済危機に苦しむキューバの脆弱な状況があります。
本記事では、トランプ大統領の発言の意図、ルビオ国務長官の経歴とキューバへの姿勢、そして今後の米キューバ関係の展望について詳しく解説します。
トランプ大統領の発言と狙い
「いい考えだ」発言の経緯
2026年1月11日、X(旧ツイッター)上で「マルコ・ルビオがキューバの大統領になるだろう」という投稿がありました。トランプ大統領はこの投稿にコメントし、「いい考えだ」と賛同を表明しました。
さらにトランプ氏は「手遅れになる前に取引するよう強く勧める」とキューバに迫り、交渉に応じなければ介入もあり得るという強いメッセージを発しました。
ベネズエラ作戦成功後の自信
この発言の背景には、2026年1月3日のベネズエラ軍事作戦の成功があります。米軍はカラカスを含む複数の拠点を爆撃し、特殊部隊がマドゥロ大統領夫妻を拘束・米国内に移送しました。
作戦後、トランプ大統領は「キューバは崩壊寸前だ」と述べ、ベネズエラのような軍事介入なしでも体制転換が起こり得るとの見通しを示しました。キューバがベネズエラから安価な石油を受け取ることなしに「持ちこたえるのは難しいだろう」と指摘しています。
キューバへの経済的圧力
トランプ氏はキューバに対する多面的な圧力を示唆しています。具体的には、ベネズエラからの石油供給の遮断、経済制裁の継続・強化、そしてキューバがベネズエラのマドゥロ政権に派遣していた警護要員について「大半が米軍の攻撃で死亡した」と明らかにしました。
キューバはベネズエラから輸入する燃料・原油の約60%を依存していたとされ、この供給源を失うことは経済的に致命的な打撃となります。
ルビオ国務長官とキューバの関係
キューバ系移民の子としての経歴
マルコ・アントニオ・ルビオは1971年5月28日、フロリダ州マイアミで生まれました。両親はキューバ革命前の1956年に、貧しい生活から抜け出すためキューバからアメリカに移民しました。父はホテルのバーテンダー、母はメイドとして働いていました。
幼少期をマイアミとラスベガスで過ごし、家庭やキューバ人社会ではスペイン語を母語として育ちました。フロリダ大学で学士号を取得後、マイアミ大学法科大学院で法務博士号を取得しています。
政治家としてのキャリア
ルビオ氏は1999年にフロリダ州議会選に立候補し、28歳の若さで当選しました。2006年から2008年までフロリダ州下院議長を務め、キューバ系米国人として初めて同州議会議長に就任する快挙を成し遂げています。
2010年に連邦上院議員選挙で当選し、2025年1月までの約14年間、上院で外交委員会や情報委員会に所属して外交政策の経験を積みました。
2016年の大統領選挙ではトランプ氏と共和党候補者指名争いを繰り広げましたが、最終的に撤退。2025年1月20日、上院は99対0の全会一致でルビオ氏の国務長官人事を承認し、史上初のヒスパニック系国務長官が誕生しました。
対キューバ強硬派としての姿勢
ルビオ氏は一貫してキューバ政府を強く批判してきました。「民主主義と正義を守り続けなければならない」として、キューバを中国、ベネズエラ、ニカラグアとともに痛烈に非難しています。
国務長官就任後も「ここは西半球だ。我々が暮らす場所だ。我々は西半球が米国の敵対者、競争相手、ライバルの活動拠点となることを許さない」と述べ、中南米における米国の影響力維持への強い意志を示しています。
キューバの現状と危機
深刻化する経済危機
キューバは現在、深刻な経済危機に直面しています。2023年から2年連続のマイナス成長を記録し、インフレ率は非公式市場で暴走状態にあります。国民の購買力は実質的に崩壊し、約88〜89%が「極度の貧困」状態にあると推計されています。
発電施設の老朽化と燃料不足により、全島規模の停電(ブラックアウト)が繰り返されています。1日20時間に及ぶ停電が常態化し、調理や水の確保もままならない状況が続いています。
抗議デモの発生
2024年3月には、キューバ各地で大勢の市民が生活の窮状を訴える異例の抗議デモに参加しました。少なくとも4都市で長時間続く停電や深刻な食料不足に対する不満が噴出し、「パトリア・イ・ビダ(祖国も生も)」の叫び声が上がりました。
これは2021年7月の大規模反政府デモ以来の大きな動きでした。ディアスカネル大統領は米国の制裁が経済窮状の原因だと主張していますが、国民の不満は高まり続けています。
ベネズエラ支援の喪失
キューバにとって最大の打撃は、ベネズエラからの支援喪失です。マドゥロ政権下のベネズエラは、キューバに対して廉価な石油を供給し続けてきました。燃料・原油輸入の約60%をベネズエラに依存していたキューバは、この生命線を失いつつあります。
トランプ政権がベネズエラを掌握したことで、キューバへの石油供給は完全に途絶える可能性が高まっています。
米国・キューバ関係の歴史的背景
キューバ革命から冷戦へ
1959年のキューバ革命後、フィデル・カストロ政権は当初米国との対立を望んでいませんでしたが、アメリカ企業の農地国有化などをきっかけに関係は急速に悪化しました。1961年1月に両国は国交を断絶しました。
同年4月のピッグス湾事件では、CIAが支援した亡命キューバ人部隊がカストロ政権転覆を試みましたが、完全に失敗しました。この事件はキューバをソ連陣営に押しやり、翌1962年のキューバ危機へとつながりました。
長期にわたる経済制裁
米国はキューバに対して60年以上にわたり経済制裁を継続しています。オバマ政権下の2014年に国交正常化交渉が進み、2015年に国交が回復しましたが、トランプ第1期政権で規制が再強化されました。
バイデン政権は2025年1月14日にキューバのテロ支援国家指定を解除しましたが、トランプ第2期政権は就任直後にこれを撤回。2025年6月には対キューバ規制を強化する国家安全保障大統領覚書を発表しました。
歴史は繰り返すのか
トランプ政権の現在の姿勢は、1961年のピッグス湾事件を想起させる面があります。当時も米国は政権転覆を企図して失敗し、結果的にキューバをソ連の軌道に押しやりました。
ただし、現在のキューバは冷戦時代とは異なり、ソ連という強力な後ろ盾を失っています。ベネズエラという新たな支援者も米国の介入で失われつつあり、孤立化が進んでいます。
国際社会の反応
キューバの反発
キューバのディアスカネル大統領はトランプ氏の圧力に反発し、「キューバは自由で独立した主権国家だ。誰もわれわれに指図はしない」とXに投稿しました。ロドリゲス外相も、キューバには石油を輸入する権利があると主張しています。
キューバ外務省は、米国とは異なりキューバは傭兵活動、脅迫、他国への軍事的強制を行っていないと強調し、正義はキューバ側にあると訴えています。
中国の反対表明
中国は米国の対キューバ圧力に反対を表明し、「直ちに停止を」と求めています。キューバは2025年1月にBRICSへ準加盟国として参加しており、中国やロシアとの関係強化を図っています。
ただし、地理的に米国の近隣に位置するキューバに対して、中国やロシアがどこまで実効的な支援を行えるかは不透明です。
中南米諸国の動揺
ベネズエラ軍事作戦後、キューバやメキシコは「次の標的」になりかねないと身構えています。米国の歴代政権は中南米への武力介入を繰り返してきた歴史があり、トランプ政権の姿勢はこうした懸念を一層高めています。
今後の展望と注意点
軍事介入の可能性
トランプ大統領は現時点でキューバへの軍事介入は「必要ない」との見通しを示していますが、状況次第では変わり得ます。キューバが抵抗姿勢を続け、中国やロシアとの連携を深めれば、トランプ政権が軍事オプションを検討する可能性も否定できません。
一方、経済的に極限状態にあるキューバが内部から崩壊するシナリオも想定されています。トランプ氏はこうした展開を待つ姿勢も見せています。
国際法上の問題
ベネズエラ軍事作戦と同様、キューバへの介入には国際法上の正当性に疑問が呈される可能性があります。国連は既にベネズエラ作戦を「危険な前例」と批判しており、キューバへの同様の行動は国際社会のさらなる反発を招くことが予想されます。
日本への影響
直接的な影響は限定的ですが、米国の中南米政策が一層強硬になることで、国際秩序への信頼が揺らぐ可能性があります。「力による現状変更」を米国自身が行うことで、他国に同様の行動の口実を与えかねないという懸念もあります。
まとめ
トランプ大統領のルビオ長官キューバ大統領案への賛同は、ベネズエラ軍事作戦成功後の高揚感の中で発せられたものですが、単なる挑発にとどまらない意図が読み取れます。
経済危機で疲弊し、最大の支援国ベネズエラを失いつつあるキューバに対し、トランプ政権は「交渉か崩壊か」という選択を突きつけています。キューバ系移民の子であるルビオ国務長官を「大統領候補」として持ち出すことで、心理的な圧力もかけています。
今後の展開は、キューバ政府の対応、国際社会の反応、そしてトランプ政権内の政策決定次第で大きく変わり得ます。60年以上続く米キューバ対立は、新たな局面を迎えつつあります。
参考資料:
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