トランプ氏、グリーンランド米軍基地の「主権」取得を表明
はじめに
トランプ米大統領は、デンマーク自治領グリーンランドの取得をめぐり、新たな主張を展開しました。2026年1月23日、米紙ニューヨーク・ポストのインタビューで、米軍基地を構える地域の「主権と所有権を獲得する」との意向を表明。「望むものは全て手に入れるだろう」と語りました。
これは、島全体の領有を求めてきた従来の姿勢から、基地所在地に限定する要求への転換とも解釈されています。軍事力行使の可能性にも言及し、同盟国デンマークや欧州諸国との緊張を高めてきたトランプ政権。その真の狙いと、グリーンランドをめぐる国際情勢を解説します。
グリーンランドとは
世界最大の島
グリーンランドは北極圏に位置する世界最大の島です。面積は約217万平方キロメートルで、日本の約6倍の広さがありますが、人口は約5万6,000人にすぎません。
デンマーク王国の構成国として高度な自治権を持ち、外交・防衛以外の多くの分野で独自の政策を実施しています。
戦略的重要性
グリーンランドは米国の国土に近く、モスクワとニューヨークの最短経路上に位置しています。冷戦時代から米国にとって軍事的に重要な場所でした。
近年は地球温暖化により北極海の航路が拡大し、ロシアや中国の船舶がグリーンランド周辺にアクセスしやすくなっています。北極圏の地政学的重要性は、かつてないほど高まっています。
豊富な資源
グリーンランドにはレアアース(希土類)、ウラン、鉄鉱石、銅、亜鉛、金、石油、天然ガスなどの鉱物資源が眠っています。これらの資源確保もトランプ政権の狙いの一つとされています。
ピツフィク宇宙軍基地
米軍最北の拠点
米軍はグリーンランド北部にピツフィク宇宙軍基地を構えています。北極点からわずか1,500キロメートルほどに位置し、米軍基地としては最北にあります。
この基地にはミサイル早期警戒システムが設置されており、弾道ミサイル防衛において重要な役割を担っています。
基地設置の歴史
グリーンランドに米軍基地が設置されたのは第二次世界大戦中のことです。1941年、デンマーク本国がドイツ軍に占領されたため、米軍がグリーンランドを保護しました。
冷戦期には、ソ連と米国の最短経路が北極を経由することから、グリーンランドの軍事的重要性は一層高まりました。
キプロス方式の適用
トランプ大統領は、地中海の島国キプロスにある英軍基地を英国領として扱う協定をモデルにしていると説明しています。基地所在地のみに限定して主権を主張するという、いわば妥協案とも解釈できます。
トランプ大統領の発言と行動
軍事力行使の示唆
2026年1月4日、トランプ大統領は「国家安全保障の観点から、我々にはグリーンランドが要だ。防衛のために不可欠だ」と強調しました。6日には「グリーンランド領有に向けて米軍の活用も選択肢だ」と、軍事力行使も辞さない意向を表明しました。
関税による圧力
1月17日には、グリーンランド領有構想に反対してグリーンランドに部隊を派遣した欧州8カ国(デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フランス、ドイツ、イギリス、オランダ、フィンランド)に対し、2月1日から10%、6月からは25%の関税を課すとSNSで表明しました。
しかし、この関税発動宣言は数日で撤回に追い込まれました。
要求の変化
島全体の領有を求める当初の主張から、基地所在地の主権に限定する発言への変化は、国内外の強い反発を受けてのものと見られています。ただし、グリーンランド自治政府首相は、基地限定の主権要求にも反対の意向を示しています。
デンマークと欧州の反応
欧州7カ国の共同声明
2026年1月6日、フランス、ドイツ、イタリア、ポーランド、スペイン、英国、デンマークの首脳が共同声明を発表しました。北極圏の安全保障はNATOで連携して実施されるべきとした上で、デンマークとグリーンランドの問題は当事者のみが決定するものだと米国を牽制しました。
グリーンランド首相の怒り
グリーンランドのイェンス=フレデリック・ニールセン首相はSNSで、最近の米国から繰り返されるレトリックは容認できないとし、「もううんざりだ(Enough is enough)」と強い語気でいら立ちを表明しました。
NATOへの影響
デンマーク首相は「米国がグリーンランドを攻撃すれば、NATOの終焉を意味する」と警告しています。NATO加盟国同士の武力衝突は、西側同盟の根幹を揺るがしかねない事態です。
トランプ政権の真の狙い
安全保障上の必要性
トランプ大統領は、グリーンランドがロシアや中国に領有されることは許容できないと繰り返し主張しています。基地を置くだけでは不十分で、国の防衛には所有権を持つことが必要だという論理です。
気候変動による北極海航路の拡大で、中国やロシアの北極圏進出が加速しています。この地政学的変化への対応が、米国の動きの背景にあります。
資源確保
グリーンランドに眠るレアアースは、半導体や電気自動車、再生可能エネルギー機器に不可欠な材料です。現在、レアアースの供給は中国に大きく依存しており、その代替供給源としてグリーンランドは注目されています。
交渉戦術としての強硬姿勢
一部の専門家は、トランプ大統領の強硬発言は交渉戦術の一環だと分析しています。最大限の要求を突きつけ、相手に譲歩を迫る「ディール」の手法です。基地限定への要求変更も、この文脈で理解できるかもしれません。
今後の展望
交渉の行方
グリーンランド自治政府とデンマーク政府は、いかなる形での主権移転にも反対の姿勢を示しています。トランプ政権がどこまで押し切れるかは不透明です。
ただし、米国の軍事的・経済的影響力は依然として大きく、何らかの妥協が成立する可能性も否定できません。
北極圏の地政学
グリーンランド問題は、北極圏をめぐる米国、ロシア、中国の覇権争いの一部です。気候変動で北極海の氷が減少するにつれ、この地域の戦略的重要性は今後も高まっていくでしょう。
まとめ
トランプ大統領がグリーンランドの米軍基地地域の主権取得意向を表明したことは、北極圏の地政学が新たな段階に入ったことを示しています。軍事力行使の示唆や関税による圧力など、同盟国に対する強硬姿勢は国際社会に波紋を広げました。
島全体の領有から基地限定への要求変更は、反発を受けての軌道修正とも見られますが、グリーンランド自治政府はこれにも反対しています。レアアースなどの資源と、北極圏の安全保障をめぐる駆け引きは、今後も続いていくでしょう。
参考資料:
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