トランプ大統領が反乱法発動を警告、ミネソタ州への軍派遣準備が進む
はじめに
2026年1月、アメリカのミネソタ州ミネアポリスで発生した不法移民摘発をめぐる抗議デモが全米の注目を集めています。トランプ大統領は連邦法執行機関への妨害行為に対し、1807年制定の「反乱法」を発動して軍を派遣する可能性を警告しました。
これを受けて国防総省は約1500人の兵士にミネソタ州への派遣準備を命じたと報じられています。反乱法が最後に発動されたのは1992年のロサンゼルス暴動であり、今回発動されれば30年以上ぶりの歴史的な事態となります。
本記事では、ミネソタ州で何が起きているのか、反乱法とは何か、そして今後の展開について詳しく解説します。
ミネソタ州で何が起きているのか
ICE捜査官による発砲事件
事態の発端は2026年1月7日に遡ります。ミネアポリスで移民・税関捜査局(ICE)の捜査官が不法移民摘発作戦中に、車内にいた37歳の女性レニー・ニコール・グッド氏を射殺する事件が発生しました。グッド氏はアメリカ国籍を持つ市民でした。
さらに1月14日には、別の連邦職員がベネズエラ国籍で合法的な在留資格を持たないフリオ・セサル・ソサ=セリス氏を交通検問中に脚を撃つ事件が起きました。国土安全保障省によると、職員がソサ=セリス氏の逮捕を試みた際、同氏と他2名がシャベルとほうきの柄で職員を襲撃し、命の危険を感じた職員が発砲したとされています。
約3000人の連邦職員が展開
現在、ミネアポリス周辺には約3000人の連邦職員が展開しています。その内訳は、ICE職員・捜査官が2000人以上、国境警備隊員が数百人、司法省関連機関の職員も含まれています。この大規模な連邦職員の展開に対し、地元住民による抗議デモが続いています。
州知事と大統領の対立
ミネソタ州のティム・ウォルズ知事は、連邦政府の対応を「組織的な残虐行為のキャンペーン」であり、ミネソタ州への「占領」だと非難しました。知事はX(旧Twitter)でトランプ大統領に直接呼びかけ、「温度を下げましょう。この報復キャンペーンを止めてください。これは私たちのあるべき姿ではありません」と訴えています。
ミネアポリスのジェイコブ・フレイ市長も「ミネソタに必要なのはICEの撤退であり、既に3000人いる連邦部隊をさらに増やすエスカレーションではない」とXに投稿しました。
反乱法とは何か
1807年制定の連邦法
反乱法(Insurrection Act of 1807)は、アメリカ大統領に国内で連邦軍を展開する権限を与える連邦法です。通常、1878年制定の民警団法(Posse Comitatus Act)により、連邦軍は国内の法執行活動に関与することを禁じられています。反乱法はこの制限の例外として位置づけられています。
トーマス・ジェファーソン大統領によって署名されたこの法律は、内乱、武装反乱、または連邦政府への反抗を鎮圧するために軍を使用することを大統領に認めています。
発動の歴史
ブレナン公正センターによると、反乱法は前身の法律を含めてこれまでに約30回発動されてきました。主な事例として以下が挙げられます。
1957年には、アイゼンハワー大統領がアーカンソー州に軍を派遣しました。アーカンソー州知事が州兵を使って黒人学生の登校を阻止し、最高裁判決に違反したためです。これは州知事の意向に反して反乱法が発動された初めての事例でした。
最後に反乱法が発動されたのは1992年のロサンゼルス暴動の際です。ロドニー・キング氏への暴行に関与した警察官の不起訴処分をきっかけに発生した暴動を鎮圧するため、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領が発動しました。
大統領の広範な裁量権
反乱法の特徴は、大統領に広範な裁量権を与えている点です。1956年の法改正により、州知事の同意がなくても、大統領が必要と判断すれば軍を派遣することが可能になりました。
テキサス大学の国家安全保障法教授によると、反乱法の発動に対して法的な異議申し立てを行っても、成功する可能性は「非常に低い」とされています。過去の判例では、裁判所は連邦軍に関する大統領の決定を事後的に批判することに非常に消極的だったからです。
トランプ大統領の警告と軍の準備
反乱法発動の示唆
トランプ大統領は1月15日、Truth Socialへの投稿で「ミネソタの腐敗した政治家が法を順守せず、職務を果たそうとしているICEの愛国者を攻撃する扇動者や反乱者を止めないのであれば、私は反乱法を発動する」と警告しました。
さらに「私は多くの大統領が私の前に行ったように反乱法を発動し、かつては偉大だったこの州で起きている惨状を速やかに終わらせる」と続けました。
翌日にはトーンダウン
しかし翌16日、トランプ大統領はホワイトハウスで記者団に対し、反乱法を「今のところ」発動する必要はないとの認識を示しました。「必要であれば使うが、今のところ使う理由はないと思う」と述べています。
1500人の兵士が待機
ワシントン・ポスト紙の報道によると、国防総省は約1500人の兵士にミネソタ州への派遣に備えるよう命じました。ロイター通信によると、アラスカ州に拠点を置き、寒冷地での作戦に特化した陸軍第11空挺師団の部隊が高度な戦闘態勢で待機しているとされています。
連邦政府と州政府の対立激化
司法省による捜査
CBSニュースの報道によると、司法省はウォルズ知事とフレイ市長について、連邦職員の職務を妨害した疑いで捜査を開始しています。これは連邦政府と州・地方政府の対立が法的な局面に発展していることを示しています。
世論の反応
YouGovの世論調査によると、アメリカ国民の44%がトランプ大統領によるミネソタ州での反乱法発動に「強く反対」しています。一方、「強く賛成」は22%にとどまりました。反乱法の発動は世論を二分する問題となっています。
注意点と今後の展望
反乱法をめぐる懸念
ブレナン公正センターは、反乱法を「大統領に国内で軍を展開する広範な権限を与える曖昧でまれにしか使用されない法律」と評しつつ、「白紙委任状ではない」と指摘しています。
発動には法的要件があり、大統領は軍を動員する前に、騒擾や武装反乱を行っている者たちに解散を命じる大統領布告を発布する必要があります。
今後のシナリオ
現時点では軍の派遣は行われておらず、トランプ大統領も即座の発動には慎重な姿勢を見せています。しかし、ICEによる摘発活動が続き、抗議デモがさらに激化すれば、反乱法発動の可能性は現実味を帯びてきます。
ウォルズ知事やフレイ市長への司法省の捜査がどのような結果をもたらすかも、今後の展開を左右する重要な要素です。
まとめ
ミネソタ州での不法移民摘発をめぐる対立は、連邦政府と州政府の権限争いという憲法上の根本的な問題を浮き彫りにしています。トランプ大統領が反乱法を発動すれば、1992年以来30年以上ぶりの事態となり、アメリカの民主主義に大きな影響を与える可能性があります。
反乱法は大統領に広範な権限を与える一方で、その発動は政治的にも法的にも重大な意味を持ちます。今後の動向を注視する必要があります。
参考資料:
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