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by nicoxz

トランプ2.0で激変する世界秩序、弱肉強食時代の到来

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はじめに

2025年1月に発足した第2次トランプ政権は、就任から1年で国際秩序を根本から変容させました。「アメリカ・ファースト」を掲げる同政権は、同盟国であっても関税や経済制裁を武器に圧力をかけ、グリーンランドの獲得やパナマ運河の支配権回復に向けて軍事力の行使すら排除しない姿勢を示しています。

1945年以降、米国が主導してきたルールに基づく国際秩序は、いまや「弱肉強食」の論理に取って代わられつつあります。この変化は日本企業にも直接的な影響を及ぼしており、約80兆円規模の対米投資枠組みへの参加を求められるなど、新たな対応を迫られています。本記事では、トランプ2.0がもたらす世界秩序の変化と、日本が直面する課題について詳しく解説します。

トランプ外交の特徴と戦略転換

「モンロー・ドクトリン」の復活

トランプ政権の外交政策を象徴するのが、19世紀の「モンロー・ドクトリン」(西半球における米国の優位性を主張する政策)の現代版復活です。2025年に発表された国家安全保障戦略の最終草案では、民主主義や自由の保護よりも、移民抑制とビジネス取引の追求を優先する姿勢が明確に示されました。

同戦略では「西半球における米国の卓越性を回復するため、モンロー・ドクトリンを再確認し実行する」と明記されています。これは単なるレトリックではなく、実際の政策として展開されています。2026年1月には、ベネズエラへの軍事介入を実行し、同国の指導者を拘束して米国での裁判に付すという前例のない行動に出ました。

関税を武器とした外交

トランプ政権の外交手法で最も特徴的なのが、関税を「外交のハンマー」として使用する点です。2025年1月から4月にかけて、米国の平均実効関税率は2.5%から推定27%へと急上昇し、1世紀以上ぶりの高水準に達しました。

この関税攻勢は同盟国も例外ではありません。カナダは2025年第2四半期にGDPが1.6%縮小し、失業率が7%を超えるなど、深刻な経済的打撃を受けています。欧州諸国に対しても、グリーンランド獲得への協力を求める圧力として、デンマークを含む8カ国に10%の追加関税を課し、2026年6月には25%への引き上げを予告しています。

国際機関からの離脱

トランプ政権は多国間主義からの離脱も加速させています。世界保健機関(WHO)やパリ協定からの正式脱退に加え、2026年1月7日には66の国際機関からの脱退を発表しました。米国国際開発庁(USAID)の閉鎖や国連機関への資金拠出削減も進めており、戦後の国際協調体制は大きく揺らいでいます。

グリーンランドとパナマ運河への野心

軍事力行使も辞さない姿勢

トランプ大統領が特に執着しているのが、デンマーク領グリーンランドの獲得とパナマ運河の支配権回復です。2025年1月の記者会見で、これらの獲得に軍事力や経済力を行使しないと保証できるかと問われた際、「それを約束するつもりはない」と明言しました。

この発言は国際社会に衝撃を与えました。英フィナンシャル・タイムズ紙は、トランプ氏の発言がプーチン大統領や習近平主席による「力による現状変更」の主張と軌を一にするものだと論じています。NATO同盟国の領土に対して軍事的圧力を示唆すること自体、戦後秩序の根幹を揺るがす事態です。

戦略的背景

グリーンランドへの関心には安全保障上の理由があります。北極海における中国とロシアのプレゼンス拡大が進む中、特に中国がグリーンランドで土地や鉱物資源の買い付けを行っていることに、米国は強い警戒感を抱いています。同地には米軍基地も存在し、北極圏の地政学的重要性は温暖化による融氷とともに高まっています。

パナマ運河についても、中国企業の影響力拡大を懸念しています。トランプ政権は、西半球における米国の支配的地位を再確立し、中国の「浸透」を阻止することを最優先課題としています。

同盟国の反発と懸念

デンマークのフレデリクセン首相は「グリーンランドは売り物ではない」と売却を拒否し、「われわれは深刻な状況にある」と外交的緊張への懸念を表明しました。パナマのムリノ大統領も「われわれの運河は、パナマ人以外の誰のものでもない」と反発しています。

フランスのマクロン大統領は、グリーンランドへの圧力を「受け入れられない」と批判し、ロシアのウクライナ侵攻と同様の論理だと指摘しました。英国のスターマー首相も「NATOの集団安全保障を追求する同盟国に関税を課すのは完全に間違っている」と述べています。

日本企業への影響と対米投資

80兆円規模の投資枠組み

2025年7月の日米合意により、総額5,500億ドル(約80兆円)規模の対米投資支援枠組みが設立されました。これは日米関税交渉の結果として、自動車・相互関税を15%に引き下げる見返りに、日本が国際協力銀行(JBIC)や日本貿易保険(NEXI)を通じて日本企業の対米投資を支援するものです。

参加企業には、AIインフラ分野でソフトバンクグループ(最大250億ドル)、三菱電機(最大300億ドル)、村田製作所、パナソニック(各最大150億ドル)、東芝、日立製作所、フジクラ、TDKなどが名を連ねています。

不平等な利益配分への懸念

この投資枠組みには懸念の声も上がっています。各投資について設立される特別目的会社(SPV)は米国または米国が指名する者が管理・統治し、投資から生じる収益については、当初は日米各50%で分配されるものの、一定額に達した後は米国90%、日本10%という配分になるとされています。

投資計画の最終決定権が米大統領に委ねられる点や、日本の政府系金融機関の資金で米国企業が参加できる枠組みなど、日本にとって不平等な取り決めだとの批判があります。

「寄付金」という新たな負担

報道によれば、一部の日本のメガバンクは米国側の要請により、在日米国大使館に対して米国建国250周年記念として4億円を拠出する方向で調整しているとされています。これは能登半島地震時の義援金5,000万円を大きく上回る金額であり、実質的な「寄付金」として日本企業への圧力が強まっている実態を示しています。

国際社会の反応と世界秩序の行方

米国への信頼低下

トランプ政権の政策は、国際社会における米国の信頼を大きく損なっています。世論調査では、世界のリーダーとして中国を好ましいとする回答が増加し、中国が安定をもたらす存在として認識される傾向が強まっています。トランプ大統領の支持率は、就任時の47%から36%へと低下しています。

条約同盟国に対する関税の脅しは、米国の同盟へのコミットメントに対する疑念を生み、各国を中国寄りに押しやる可能性があると指摘されています。

「球体的影響圏」への回帰

一部の専門家は、トランプ政権が米国、ロシア、中国による世界の「勢力圏分割」を志向していると分析しています。2025年9月に国防総省が発表した国家防衛戦略の草案では、ロシアや中国との対決よりも国内および地域的な任務を優先する方針が示され、米国の関心が西半球に集中していることが明確になりました。

この動きは、戦後米国が築いてきた「自由で開かれた国際秩序」の放棄を意味し、大国が小国の運命を決定できるという「強者のルール」への回帰を示唆しています。

注意点・今後の展望

予測困難な政策決定

トランプ政権の外交政策は、複数の派閥の合従連衡によって形成されており、どの派閥の意見が重視されるかによって大きく変動し得ます。MAGA派、テクノオリガルヒ、対中強硬派など、異なる利害を持つ勢力が併存しており、政策の予測可能性が著しく低下しています。

企業や各国政府は、米国市場へのアクセスにおける「予測可能性の喪失」という新たなリスクに直面しており、中期的な対応策の構築が急務となっています。

2027年の台湾問題

トランプ政権が直面する最大の課題の一つが、2027年までに中国が台湾侵攻能力を整備するとされる問題です。米情報機関は習近平主席が人民解放軍に対し、2027年までに台湾侵攻に必要な軍事力を構築するよう命じたと分析しています。トランプ政権は中国との軍事的「優位性」を維持することを目指していますが、その具体策は不透明です。

日本に求められる対応

日本政府には、トランプ政権のディールに対して、世界トップクラスの対米貢献実績と日本の国益を明確に主張することが求められています。また、米国の多国間枠組みへの関与が減少する中、日本はASEANや環太平洋地域での橋渡し役を担い、開かれたルールに基づく国際秩序の維持に向けたメッセージを発信していく必要があります。

まとめ

トランプ2.0の発足から1年、国際秩序は「弱肉強食」の様相を強めています。関税を武器とした圧力外交、同盟国領土への野心、国際機関からの離脱など、米国主導の戦後秩序は根本から揺らいでいます。

日本企業は80兆円規模の対米投資への参加を求められる一方、利益配分の不平等さや「寄付金」要請など、新たな負担に直面しています。この激変する環境の中で、日本は米国との同盟関係を維持しつつも、自国の国益を守り、アジア太平洋地域での役割を果たしていくという難しいバランスが求められています。

参考資料:

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