トランプ政権2期目1年、同盟国との関係はどう変わったか
はじめに
2026年1月20日、第2次トランプ米政権は発足から1年を迎えました。「アメリカ・ファースト」を掲げて返り咲いたトランプ大統領は、この1年で同盟国にも容赦なく高関税を課し、グリーンランドやパナマ運河への領土的野心を公言するなど、従来の国際秩序を大きく揺さぶってきました。
日本や欧州など同盟国は、米国の「力の行使」を制止せず、むしろ融和的な姿勢で対応してきたとの指摘もあります。本記事では、トランプ政権2期目の1年を振り返り、同盟関係の変質と今後の展望を解説します。
関税政策の衝撃
同盟国にも容赦なき高関税
第2次トランプ政権は、国別と分野別を組み合わせた二段構えの関税政策を展開しました。2025年2月には鉄鋼・アルミニウムに一律25%の関税を復活させ、4月2日には「相互関税」の大統領令を発出しました。
4月5日からは全輸入品に一律10%のベースライン関税が課され、さらに国別上乗せ率として中国に34%、日本に24%、EUに20%が設定されました。同盟国や自由貿易協定の相手国に対しても容赦なく高関税を課す姿勢は、国際社会に衝撃を与えました。
試算によれば、米国の平均関税率は1909年以来の高水準となる22.5%に達しました。トランプ関税適用前は2.4%だったことを考えると、約10倍の引き上げとなります。
日本経済への影響
日本に対する25%の相互関税率がGDPに与える直接的な影響は-0.63%、海外要因も含めた影響は-0.86%と試算されています。関税全体の日本のGDPへの影響は-0.85%に達する見込みです。
自動車をはじめとする輸出産業への打撃は避けられず、日本企業は米国内での現地生産拡大や、サプライチェーンの見直しを迫られています。
揺れる欧州との関係
EUに対しては当初20%だった相互関税率が、7月には30%へと引き上げられました。フォンデアライエン欧州委員長は「必要なら相応の対抗措置を含め、EUの利益を守るために必要なすべての措置をとる」と表明しましたが、報復の連鎖は双方にとって望ましくないとの判断から、交渉継続の姿勢も維持しています。
トランプ政権の関税政策は大統領令によって発動され、短期間にしばしば変更されるため、貿易関係の予見可能性が著しく低下しています。
領土拡張への野心
グリーンランドとパナマ運河
トランプ大統領は就任前から、デンマーク領グリーンランドの購入意欲やパナマ運河の管理権奪還を公言してきました。2025年1月の記者会見では、これらの獲得に向けて「軍事力行使を排除しない」と明言し、世界を驚かせました。
グリーンランドには米軍のピツフィク空軍基地があり、戦略的に重要な位置にあります。また、レアアース(希土類)の埋蔵量が世界有数であり、経済的価値も高いとされています。
パナマ運河については、「中国に運営されている」と主張していますが、パナマ政府はこれを否定しています。トランプ大統領の狙いは、カーター政権時代に返還した運河の管理権を取り戻すことにあるとみられます。
カナダへの経済的圧力
カナダに対しては「米国の51番目の州になればいい」と発言し、軍事力ではなく経済力で圧力をかける考えを示しました。米加国境を「人為的に引かれた線」と述べるなど、従来の同盟関係の枠組みを無視した発言が続いています。
専門家はこれを「21世紀版のモンロー・ドクトリン」と分析しています。西半球における米国の利益と安全の確保を優先する姿勢であり、同盟国との信頼関係よりも自国の利益を重視する方針が鮮明です。
日欧の対応と「容認」の構図
日本の融和姿勢
2025年10月28日、高市早苗首相はトランプ大統領との初会談を行い、「日米の新たな黄金時代をつくりたい」と語りました。少数与党下にある政権基盤の強化には、米国との良好な関係が不可欠との判断がありました。
一方で、米国建国250周年(2026年7月4日)を控え、在日米国大使館が日本の大手企業に寄付を要請する動きも報じられています。メガバンクや大手商社、自動車メーカーなどに対し、数億円規模の寄付要請があったとされ、米国でビジネスを展開する企業はトランプ政権へのアピールを模索しています。
NATO防衛費5%への譲歩
欧州でも対応に苦慮しています。2025年6月のNATO首脳会議(ハーグ)では、防衛費をGDP比5%に引き上げるという新目標が決定されました。現在の2%から大幅な上積みであり、米国の圧力に屈した形です。
ただし、加盟国は実施期限を2035年に設定することで、10年間の猶予期間を確保しました。防衛費増額という経済的負担と引き換えに、NATOの集団防衛条約(第5条)への米国のコミットメントを確保するという「戦略的譲歩」とも評価されています。
欧州の「再軍備」への動き
第2次トランプ政権がウクライナ支援やNATOへの関与で方針転換を示したことで、欧州は米国に依存できない状況への危機感を強めています。
フォンデアライエン欧州委員長は「欧州が再軍備の時代を迎えている」と宣言し、EU全体で最大8000億ユーロ(約134兆円)の防衛費調達を可能とする「欧州再軍備計画」を発表しました。
国際戦略研究所(IISS)は2025年5月のレポートで、「アメリカ抜きのNATO」を準備する必要性にまで言及しています。
今後の展望と課題
分断化戦略への対応
トランプ政権は2国間協議を通じて各国に差を設け、連携を妨げる「分断化戦略」をとってきたと分析されています。日本やEU、カナダなどが個別に米国と交渉することで、共同歩調をとりにくい状況が生まれています。
一方で、各国がトランプ関税への対応で連携すべきとの声も出ています。米国の圧力に個々で対応するよりも、同盟国間で協調して交渉にあたる方が効果的との見方です。
中間選挙を見据えた政策転換
2026年11月の連邦議会中間選挙を控え、トランプ政権は物価高対策など国内の生活改善に重点を置いた政策運営へと舵を切る可能性があります。保守派に受けがいい公約の実現に動いた一方、物価高への対応で有権者の不評を買い、支持率は低迷しているためです。
日本外交の課題
日本は「国際社会を分断から協調に導く外交」の在り方が問われています。唯一の同盟国である米国との関係維持と、国際秩序の安定という二つの目標をどう両立させるかが課題です。
トランプ政権がインド太平洋地域の同盟国にもGDP比5%の防衛費を求める可能性があり、日本の防衛費増額圧力も強まることが予想されます。
まとめ
第2次トランプ政権発足から1年、国際秩序は大きく変容しました。同盟国にも容赦なく高関税を課し、領土拡張への野心を隠さない米国の姿勢は、戦後の国際協調体制を根底から揺さぶっています。
日本や欧州は、米国との関係維持と自国の利益確保のバランスを取りながら対応してきましたが、その「容認」姿勢が米国の増長を招いたとの批判もあります。2026年の中間選挙や2028年の大統領選を見据え、同盟国は米国依存からの脱却と、新たな国際協調の枠組み構築を模索する必要に迫られています。
参考資料:
関連記事
トランプ2.0で激変する世界秩序、弱肉強食時代の到来
トランプ政権発足から1年、グリーンランド獲得への圧力や同盟国への関税攻勢など、米国主導の「力による外交」が世界秩序を根本から変えつつあります。日本企業への影響と対応策を解説します。
トランプ氏が韓国関税25%に引き上げ、日本への示唆
トランプ大統領が韓国への関税を15%から25%に引き上げると表明。対米投資の不履行とGoogle規制が原因とされ、同様の枠組みを持つ日本にも影響が懸念されます。
トランプ氏、グリーンランド関税を撤回しNATOと枠組み合意
トランプ大統領がダボス会議でNATOとの「合意枠組み」を発表し、欧州8カ国への追加関税を見送りました。グリーンランドを巡る米欧対立の経緯と、合意の実態、今後の展望を解説します。
トランプ氏、グリーンランド関税を撤回。NATOと枠組み合意
トランプ大統領がグリーンランド取得を巡る欧州8カ国への追加関税を見送り。NATOのルッテ事務総長との会談で「北極圏全体の枠組み合意」を発表。その詳細と今後の展望を解説。
トランプのグリーンランド関税で米国トリプル安の衝撃
トランプ大統領がグリーンランド取得のため欧州8カ国に関税を課すと表明し、株・債券・ドルが同時に下落する「トリプル安」が発生。市場への影響と今後の展望を解説します。
最新ニュース
ビットコイン7万ドル台急落、テック株売りが暗号資産に波及
ビットコインが約1年3カ月ぶりの安値となる7万2000ドル台に急落しました。米ハイテク株の売りが暗号資産市場に波及した背景と、MicroStrategyの含み損問題について解説します。
日銀の量的引き締め出遅れと円安の関係を解説
日銀のマネタリーベース縮小が米欧に比べ緩やかな理由と、それが円安に与える影響について解説します。FRB新議長候補ウォーシュ氏の金融政策姿勢にも注目が集まっています。
書店600店の在庫を一元化|返品率30ポイント削減の新システム
紀伊国屋書店、TSUTAYA、日販が出資するブックセラーズ&カンパニーが、56社603店の在庫を横断管理するデータベースを始動。返品率6割減を実現した事例と、出版業界の構造改革を解説します。
中国海警局の尖閣周辺活動が過去最多に、日中の緊張続く
2025年、中国海警局の船舶が尖閣諸島周辺の接続水域に357日出没し過去最多を更新。日本の対応策と偶発的衝突防止の課題を解説します。
中国の土地売却収入がピーク比半減、地方財政に深刻な打撃
中国の地方政府の土地売却収入が2025年も前年比14.7%減少し4年連続の減少を記録。ピークの2021年から52%減となり、不動産不況が地方財政を圧迫し続けています。