Research

Research

by nicoxz

上野動物園パンダ返還で54年ぶり「パンダゼロ」日中関係を映す鏡

by nicoxz
URLをコピーしました

はじめに

2026年1月25日、上野動物園で双子のジャイアントパンダ「シャオシャオ」と「レイレイ」の最終観覧日を迎えました。抽選に当選した約4,400人のファンが別れを惜しむ中、2頭は27日に中国へ向けて出発する予定です。

この返還により、1972年に日中国交正常化を記念してカンカンとランランが来日して以来、約54年ぶりに日本国内で飼育されるパンダがゼロになります。パンダは日中友好の象徴として親しまれてきましたが、その「不在」は現在の両国関係を映し出す鏡ともいえます。

本記事では、パンダ返還の経緯と「パンダ外交」の歴史、そして日中関係への影響について解説します。

パンダ返還の経緯

シャオシャオとレイレイの返還

シャオシャオ(暁暁、オス)とレイレイ(蕾蕾、メス)は、2021年6月に上野動物園で生まれた双子のジャイアントパンダです。父親のリーリーと母親のシンシンの間に誕生し、愛らしい姿で多くのファンに愛されてきました。

東京都と中国野生動物保護協会との「ジャイアントパンダ保護共同プロジェクト」協定に基づき、日本で生まれたパンダも所有権は中国にあります。2026年2月20日の返還期限を前に、東京都は1月下旬の返還を発表しました。

最終観覧となった1月25日には、約4,400人の観覧枠に対して約10万8,000人が応募し、倍率は24.6倍に達しました。「これまでありがとう」「またきっと会える」——園内には別れを惜しむ声があふれました。

相次いだパンダの中国返還

日本からのパンダ返還は、シャオシャオとレイレイが最後ではありません。ここ数年、日本各地からパンダが次々と中国に戻っています。

2023年2月には、リーリーとシンシンの第一子であるシャンシャン(香香、メス)が中国に返還されました。シャンシャンは6年半の滞在期間中、経済効果600億円以上をもたらしたとされています。

2024年9月には、高齢となり健康上の理由から、父親のリーリーと母親のシンシン(いずれも19歳)も中国に帰国しました。両者間の協議の結果、高齢期に差しかかる前に生まれ故郷で治療を受けることが望ましいとの判断がなされました。

さらに、和歌山県のアドベンチャーワールドでも、2024年6月に全4頭のメスパンダが中国に返還されました。これにより、国内で飼育されるパンダは上野動物園の2頭のみとなっていました。

パンダ外交の歴史

日中友好の象徴として

パンダ外交とは、中国が外交手段としてジャイアントパンダを他国に送る行為を指します。中国は1950年代からこの手法を用い、21世紀の現在も続けています。

日本に初めてパンダが来たのは、1972年の日中国交正常化がきっかけでした。日中共同声明の発表から約1か月後の10月28日、上野動物園にカンカン(康康、オス)とランラン(蘭蘭、メス)が到着しました。

当時の熱狂ぶりは凄まじく、開門前に3,000人が行列を作り、「2時間待ってチラッ」と報じられるほどでした。延々1キロもの列ができたという記録も残っています。パンダブームは日本社会に大きなインパクトを与えました。

「贈与」から「貸与」へ

1981年に中国がワシントン条約に加盟すると、絶滅危惧種であるパンダは保護対象となりました。これにより、かつての「贈与」から、繁殖・研究を目的とした「貸与」の形式に変わりました。

現在、中国から貸与されるパンダには年間約1億円のレンタル料が発生するとされています。日本で生まれたパンダについても所有権は中国にあり、一定期間後に中国へ返還することが協定で定められています。

新規貸与をめぐる日中交渉

日本側の要請

日本政府や関係者は、新たなパンダ貸与を求めて繰り返し中国側に働きかけています。

2025年4月末、日中友好議員連盟が訪中した際、会長の森山裕・自民党幹事長が趙楽際・全国人民代表大会常務委員長に新規貸与を要請しました。6月初旬には河野洋平元衆院議長も李強首相に同様の申し入れをしています。

さらに7月には、森山幹事長が大阪・関西万博を訪れた何立峰副首相との会談で再度要請し、何氏は「国民交流にとって重要だ」と応じたと報じられています。

中国側の反応

しかし、中国側からは具体的な貸与の言及がありません。

中国外交部の毛寧報道官は2025年5月の記者会見で、「日本の友人が折に触れてパンダに会いに中国に来てくれるのを歓迎する」と述べました。この発言は、新たなパンダを日本に提供する意思がないとも解釈できます。

2026年1月21日の記者会見でも、中国外務省の郭嘉昆副報道局長は日本人の訪中を歓迎すると述べるにとどまり、新規貸与については触れませんでした。

パンダ不在が意味するもの

日中関係のバロメーター

専門家は、パンダの貸与状況が日中関係を測るバロメーターになっていると指摘しています。両国関係が良好な時期には新規貸与が進む一方、緊張が高まると交渉が停滞する傾向があります。

現在、尖閣諸島問題や台湾問題、経済安全保障など、日中間には多くの懸案事項があります。高市政権がAPECで台湾代表との会談をSNSで発信したことに中国が強く反発するなど、両国関係は必ずしも良好とはいえません。

こうした政治的背景が、パンダの新規貸与交渉に影響を与えている可能性があります。

地域経済への影響

パンダ不在は、地域経済にも大きな影響を及ぼします。

和歌山県白浜町では、アドベンチャーワールドのパンダが観光の目玉でした。地元のかまぼこ店は「観光客がどうなるのか心配」と懸念を示し、タクシー運転手からも「パンダのおかげで営業ができたものが、できなくなってくる」との声が上がっています。

大江康弘町長も「パンダに我々は依存した観光の町だった。いなくなった後のことは、まだ私たちも想像できない」と語っており、経済的打撃への危機感は強いものがあります。

注意点・今後の展望

パンダ外交に対する冷静な視点

パンダの新規貸与を望む声は多いものの、専門家からは冷静な意見も出ています。

弁護士は「パンダを日本の動物園に貸与してほしいという気持ちは理解できるが、それを条件に外交政策で日本が中国に対して譲歩するようなことがあるのであれば、それは外交の役割として本末転倒だ」と指摘しています。

また、「中国がパンダを外交に利用してきたのは、頼みもしないのに日本をはじめ他国がパンダをありがたがったからである」という見方もあります。パンダの「かわいさ」に惑わされず、外交と動物の福祉を切り分けて考える視点も必要です。

今後の可能性

新規貸与の見通しは不透明ですが、完全に可能性がなくなったわけではありません。日中関係の改善や、大阪・関西万博など大型イベントをきっかけに交渉が進展する可能性もあります。

ただし、パンダの有無にかかわらず、日本の動物園は独自の魅力を高めていく必要があります。「パンダ頼み」からの脱却が、長期的には動物園経営の安定化につながるでしょう。

まとめ

シャオシャオとレイレイの中国返還により、日本は54年ぶりに「パンダゼロ」の時代を迎えます。1972年のカンカン・ランラン来日以来、パンダは日中友好の象徴として親しまれてきましたが、その不在は現在の両国関係の緊張を反映しているともいえます。

パンダの新規貸与を求める声は根強いものの、外交カードとしてのパンダに過度に依存することには慎重であるべきという意見もあります。パンダがいなくなった今、日中関係をどう構築していくのか——それは政府だけでなく、私たち一人ひとりが考えるべき課題です。

参考資料:

関連記事

最新ニュース