ユニコーン予備軍が3年ぶり低水準、日本スタートアップの課題
はじめに
日本のスタートアップ業界が踊り場を迎えています。日本経済新聞の調査によると、推計企業価値が500億円を上回り、1500億円超のユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)への到達が視野に入った有力企業の数は、2025年9月時点で11社となりました。これは前年比3社減で、3年ぶりの低水準です。
背景には、新規株式公開(IPO)による投資回収の難易度上昇と、投資家による企業選別の厳格化があります。本記事では、日本のスタートアップエコシステムが直面する課題と、海外資金の獲得やM&Aを通じた新たな成長戦略について詳しく解説します。
ユニコーン予備軍減少の背景
IPO市場の冷え込み
東京証券取引所グロース市場の2025年のIPO社数は41社と、前年比で約4割減少し、12年ぶりの低水準となりました。金利上昇やマクロ経済環境の不透明感が影響しており、スタートアップにとってIPOという「出口」が狭くなっています。
さらに、2025年3月に発表された東証グロース市場の上場維持基準見直しが、実質的な上場基準の引き上げにつながっています。時価総額100億円に満たない「小粒上場」を減らす改革が進み、IPO時の時価総額中央値は7割増えて過去10年で初めて100億円を超えました。
これは上場企業の質の向上という点では前向きな変化ですが、スタートアップにとってはハードルが高くなったことを意味します。
ベンチャーキャピタルの投資回収難
国内のベンチャーキャピタル(VC)の投資回収が滞っています。2024年にVCがIPOを通じて回収した金額は、年間投資額の8割にとどまりました。IPO市況の回復が遅れているためです。
VCにとって投資回収ができなければ、新たな投資への資金が限られます。その結果、リスクを取った投資を控え、確実性の高い企業への投資に集中する傾向が強まっています。
投資家の選別厳格化
2025年上半期のスタートアップ資金調達金額は、速報値で3,810億円(前年同期比26.2%減)となりました。調達社数も1,209社(同24.7%減)と、金額・社数ともに前年から大きな回復は見られていません。
資金調達に成功する企業と難航する企業で「二極化」が一段と進んでいます。投資家は「評価を維持できない企業には投資をしない」という選別モードに入っており、成長実績を示せない企業への資金流入が細っています。
日本のユニコーン企業の現状
ユニコーンとは何か
ユニコーンとは、企業価値が10億ドル(約1500億円)以上の未上場スタートアップを指します。「ユニコーン」という名称は、そのような企業が希少であることから、伝説上の一角獣になぞらえて名付けられました。
企業価値は上場企業の株式時価総額に相当し、VCなどから高い評価を受け、多くの資金を集めることで高まります。世界では約1300社のユニコーン企業が存在しますが、日本のユニコーン数はわずか3社にとどまっています。
日本の代表的なユニコーン・ユニコーン予備軍
日本の主なユニコーン企業としては以下が挙げられます:
- Preferred Networks(約2,838億円):機械学習、深層学習などのAI技術研究開発
- スマートニュース(約2,838億円):ニュースアプリ運営
- SmartHR(約2,270億円):クラウド型人事労務ソフト提供
ユニコーン予備軍として注目されている企業には、五常(金融包摂)やティアフォー(自動運転)などがあります。2024年の調査では14社がユニコーン予備軍として認定されましたが、2025年9月時点では11社に減少しました。
NEXTユニコーン企業の特徴
日本経済新聞社が実施する「NEXTユニコーン調査」では、企業価値50億円以上のスタートアップ132社を調査対象としています。AI(人工知能)や宇宙産業、ロボットなど次世代産業を取り扱う企業が目立つのが特徴です。
最近のトレンドとしては「AI」「業務用SaaS」が2大分野として大きな割合を占めており、「新素材」「食品・ヘルスケア」「宇宙」分野でも著しい成長が見られます。
海外資金獲得への活路
海外投資家からの調達事例
国内での資金調達が厳しくなる中、海外投資家からの資金獲得に活路を見出す動きが出ています。
2025年上半期には、2.5次元IPを開発するウタイテがテンセント、SBVA(旧SoftBank Ventures Asia)などから資金調達を行いました。また、製造業向けプラットフォームを展開するキャディは、欧州を代表するVC・Atomico(アトミコ)をリード投資家として資金調達に成功しています。Atomicoが日本のスタートアップに出資するのは、2015年のスマートニュース以来10年ぶりのことです。
投資契約ルールの国際標準化
経済産業省は2025年9月末までに、投資家がスタートアップと結ぶ契約のガイドラインを改定しました。改定のポイントは、IPOの努力義務を課す日本固有の慣行を改め、M&A(合併・買収)も投資回収の選択肢として明確に位置づけたことです。
これにより、日本のルールが国際標準に近づき、海外投資家が日本のスタートアップに投資しやすい環境が整いつつあります。
政府の支援策
日本政府は2022年11月、アジア最大のスタートアップハブを目指す「スタートアップ育成5カ年計画」を発表しました。5年後のスタートアップへの投資額を10兆円規模に拡大し、将来的にユニコーン企業100社、スタートアップ企業10万社の創出を目指しています。
ジェトロ(日本貿易振興機構)は「Techstars Tokyo」アクセラレーションプログラムを実施しており、第3回プログラムは2026年8月から開始予定です。過去2回のプログラムでは、参加スタートアップへの総投資件数が国内外のエンジェル投資家やシードVCを含む100件以上にのぼっています。
M&Aという新たな出口戦略
IPOからM&Aへのシフト
これまで「華やかな出口」としてステータスを持っていたIPOが、2025年上半期にはその勢いを失いつつあります。代わりに、M&Aによる事業売却や統合が投資回収の正当な手段として認知されるようになってきました。
2025年上半期のM&A件数は92件に達し、引き続き高水準を維持しています。スタートアップの間でM&Aを明確なEXIT戦略として捉える動きが広がっており、大手企業によるスタートアップ買収も活発化しています。
M&A活用のメリット
M&Aを選択肢に加えることで、スタートアップには複数のメリットがあります。IPOに比べて準備期間が短く、市場環境に左右されにくい点が挙げられます。また、買収企業のリソースを活用することで、事業成長を加速できる可能性もあります。
一方で、創業者が経営権を手放すことへの抵抗感や、企業文化の統合という課題もあります。M&Aを成功させるには、買収企業との相性や条件交渉が重要になります。
今後の展望と課題
構造的な課題
日本のスタートアップエコシステムには構造的な課題があります。投資から回収までの期間が長期化する傾向があり、10年以上かかることも珍しくありません。大学発VCは比較的長期の運用期間を設定できますが、民間VCの運用期間は一般的に10年で、研究開発型スタートアップとの目線の不一致が指摘されています。
また、産業革新投資機構(JIC)の調査によると、評価額上位100社のうち58社はすでに何らかの形で海外進出していますが、海外向け売上が国内を上回る事例はまだ一部に限られています。
2025年下半期以降の見通し
2025年下半期には、東証グロース市場の基準見直しや大型M&A市場の活況を背景に、さらなる大型調達や戦略的な事業再編が期待されています。
ファンド設立においても、資金を集められるファンドとそうでないファンドに二極化しつつありますが、実績のあるファンドは引き続き活動を続けています。
まとめ
日本のユニコーン予備軍が11社と3年ぶりの低水準になった背景には、IPO市場の冷え込みと投資家による選別の厳格化があります。しかし、これは必ずしも悲観的な状況だけではありません。
海外投資家の資金獲得やM&Aの活用など、新たな成長戦略が広がりつつあります。政府の支援策も充実しており、投資契約ルールの国際標準化が進んでいます。
日本のスタートアップが世界で戦うためには、国内市場だけでなくグローバルな視点での事業展開と資金調達が鍵となります。2026年以降、この変化に適応できたスタートアップが次のユニコーンへと成長していくことが期待されます。
参考資料:
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