ウォール街で加速する人員削減とAI投資の行方
はじめに
ウォール街の大手金融機関で、人員削減の動きが加速しています。シティグループ、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーといった名だたる投資銀行が、2025年から2026年にかけて数千人規模のリストラを実施しています。
その背景には、2021年のパンデミック期に膨らんだ人員の調整に加え、AI(人工知能)技術の急速な導入があります。一方で、株式市場ではトランプ政権の関税政策への懸念が和らぎ、銀行株が上昇する場面も見られています。
本記事では、ウォール街を席巻する人員削減の実態と、その先にある金融業界の構造変化について詳しく解説します。
ウォール街大手銀行の人員削減の現状
シティグループ:2万人削減計画の進行
シティグループは、ジェーン・フレイザーCEOの指揮のもと、2026年末までに2万人を削減する大規模な組織改革を進めています。2026年1月には約1,000人の追加削減が発表されました。
同行は国内外で重複する役職がある複雑な組織構造の合理化を目指しています。2025年9月末時点の従業員数は約22万7,000人でしたが、メキシコの消費者銀行バナメックスの売却に伴う4万人の移動も含めると、大幅な人員減となる見通しです。
モルガン・スタンレー:テッド・ピック体制初の大規模削減
モルガン・スタンレーは2025年3月下旬に約2,000人の人員削減を実施しました。テッド・ピックCEO体制下では初の大規模なリストラとなります。
削減対象はフロントオフィスからバックオフィスまで全部門にわたりますが、約15,000人を擁するファイナンシャル・アドバイザー部門は対象外とされています。同行はOpenAIとの初期パートナーシップを活かし、AI導入による効率化を積極的に推進しています。
ゴールドマン・サックス:年次評価と戦略的削減の併用
ゴールドマン・サックスは、年次の人事評価プロセスを通じて3〜5%の人員調整を行う方針を示しています。2024年12月時点の従業員数約46,500人から計算すると、1,400人以上が削減対象となる可能性があります。
興味深いのは、同行が2026年に技術開発へ60億ドル(約9,500億円)を投資する計画を発表していることです。AIによる効率化を進める一方で、採用ペースを鈍化させ、「限定的な役職削減」を行うとしています。
人員削減の背景にある3つの要因
2021年の採用ブームの反動
業界関係者の間では「2021年採用ブームの二日酔い」と呼ばれる現象が指摘されています。パンデミック期のディールメイキング(M&A等)の急増を受けて、各行は積極的な採用を行いました。
しかし、2022年に米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを開始すると、ディールフローは50%以上減少しました。その結果、多くの銀行が過剰人員を抱える状態に陥ったのです。
M&A・IPO市場の低迷
2025年の投資銀行手数料は前年同期比6.3%減の168.3億ドルにとどまりました。米国のM&A活動も、2025年1〜2月の取引件数は1,603件と、2009年以来最も遅いペースを記録しています。
トランプ政権下でのIPOブームや大型案件の増加が期待されていましたが、貿易政策の不透明感から実現が遅れている状況です。
AI導入による業務効率化
各行はAI技術の導入を加速させています。シティグループでは83カ国の約18万人の従業員がAIツールを利用可能で、2026年だけで約700万回使用されています。フレイザーCEOによると、生成AIによる自動コードレビューで週約10万時間の開発者の時間を節約しているとのことです。
モルガン・スタンレーの自社開発ツール「DevGen.AI」は、2026年だけでエンジニアの作業時間を28万時間以上削減したと報告されています。
AIは金融業界の雇用を奪うのか
専門家の見解:「過度な懸念は不要」
AIによる金融業界の雇用喪失については、さまざまな見方があります。JPモルガン、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーが2025年に複数回のレイオフを実施したことで、AIが主因と見る向きもあります。
しかし、専門家の多くは「AIによる金融業界の雇用喪失は、少なくとも現時点では誇張されている」と指摘しています。実際、2025年第3四半期にJPモルガンは2,000人の従業員増を記録し、ゴールドマン・サックスも2025年9月時点で前年比約1,800人増の48,300人を雇用しています。
変化する求められるスキル
金融機関が求める人材像は変化しています。データサイエンス、機械学習、プロンプトエンジニアリングなどのスキルを持つ人材への需要が高まっています。一方で、定型的な業務を担っていた職種は縮小傾向にあります。
2026年の銀行業界の見通し
株価の動向と投資家の反応
2026年初頭、シティグループ、バンク・オブ・アメリカ、ウェルズ・ファーゴの第4四半期決算発表を受けて、銀行株は一時下落しました。シティグループは3.4%安、バンク・オブ・アメリカは3.7%安、ウェルズ・ファーゴは4.6%安となりました。
シティグループは純利益が前年同期比13.5%減少し、8億ドルの組織再編費用とロシア事業撤退による12億ドルの損失が重荷となりました。
トランプ政権の政策と市場への影響
2026年1月21日、トランプ大統領がダボス会議でグリーンランドへの武力行使を否定し、欧州への関税を一部撤回したことで、株式市場は上昇に転じました。ダウ工業株30種平均は前日比588ドル高の49,077ドルとなり、銀行株も買い戻されています。
ただし、関税政策の不透明感は依然として残っており、市場のボラティリティは高い状態が続いています。
注意点・展望
投資家が注目すべきポイント
人員削減の発表は短期的には株価にプラスに作用することがありますが、最近の調査では「戦略的レイオフ」を市場が評価しなくなっている傾向も指摘されています。重要なのは、削減が単なるコストカットなのか、事業構造の転換を伴うものなのかを見極めることです。
また、AI投資の規模と効果を各行の決算発表で確認することが重要です。ゴールドマン・サックスの60億ドル規模の技術投資が実際にどのような成果を生むのか、今後の業績に注目が集まります。
金融業界のキャリアへの影響
金融業界でのキャリアを考える人にとって、テクノロジースキルの習得は今後ますます重要になります。一方で、ウェルスマネジメントやファイナンシャルアドバイザーなど、対人関係を重視する職種は比較的安定しています。
まとめ
ウォール街の大手銀行による人員削減は、2021年の採用ブームの反動、M&A市場の低迷、そしてAI導入による効率化という3つの要因が重なって生じています。シティグループは2万人、モルガン・スタンレーは2,000人、ゴールドマン・サックスは1,400人以上と、各行が大規模なリストラを進めています。
しかし、これは単純な雇用削減ではなく、金融業界の構造転換の一部と捉えるべきでしょう。AI技術への巨額投資と人材ポートフォリオの再構築が同時に進行しており、今後の金融サービスのあり方そのものが変わりつつあります。
投資家にとっては、各行の技術投資の成果と、組織再編後の収益性改善を注視することが重要です。金融業界で働く人々にとっては、テクノロジースキルの習得と、AIでは代替しにくい対人スキルの両面を磨くことが、今後のキャリアの鍵となるでしょう。
参考資料:
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