ヤオコーの規模拡大戦略に試練、スケールデメリット克服が焦点
はじめに
食品スーパーマーケット業界で、再編の動きが加速しています。その中心にいるのが、埼玉県を拠点とする「ヤオコー」です。2025年10月に持株会社「ブルーゾーンホールディングス(HD)」を設立し、同時に同業の文化堂とクックマートを傘下に収めました。
ヤオコーは2025年3月期まで36期連続で増収増益(単体ベース)を達成した「常勝スーパー」として知られています。しかし食品スーパー業界の歴史を振り返ると、規模拡大が逆に店舗の魅力低下を招き、顧客離れにつながった例は少なくありません。
本記事では、ヤオコーの成長戦略と直面する課題、そしてスケールデメリットを克服できるかという焦点について解説します。
ヤオコーの36期連続増収増益を支えた戦略
ドミナント戦略と高い商圏シェア
ヤオコーの強さの源泉は、地域に集中して店舗を展開する「ドミナント戦略」にあります。1890年に埼玉県小川町で八百屋として創業し、現在は関東にグループで240店舗超を展開しています。
注目すべきは商圏シェア18%という数値です。これは競合他社を大きく引き離す圧倒的な存在感を示しています。店舗を集中させることで、物流効率の最大化、地域認知度の向上、配送コストの削減を同時に実現してきました。
2025年3月期の業績を見ると、営業収益7,364億円(前期比18.9%増)、営業利益334億円(同13.9%増)と好調です。営業利益率は4.7%で、ライフコーポレーションの3.0%、USMHの1.0%を大きく上回り、業界トップ水準のオーケー(5%)に肩を並べる高収益体質を実現しています。
「南北政策」と個店経営の推進
ヤオコーの差別化のポイントは「個店経営」にあります。出店エリアを南北に分けて売場づくりや品揃えを地域特性に対応させる「南北政策」を展開しています。
川野澄人社長は「出来立ての総菜など、毎日来て楽しんでいただく、あるいは売り場の変化があるという『ヤオコーならではの個店経営』を推進することが一番の差別化のポイント」と述べています。小商圏・高頻度来店を基本戦略に、生鮮3部門を中心とした集客力の強化に取り組んでいます。
低価格PBと二極化への対応
物価高が続く中、ヤオコーは消費者の「二極化」にも対応しています。ライフコーポレーションと共同開発している低価格プライベートブランド「star select」は売上高が前期比24.3%増と伸びています。低価格志向の顧客とこだわり消費を求める顧客の両方を取り込む戦略が奏功しています。
ブルーゾーンHD設立と規模拡大の狙い
持株会社体制への移行
2025年10月1日、ヤオコーの完全親会社として「ブルーゾーンホールディングス」が設立されました。この持株会社体制への移行には明確な背景があります。
人口減少や少子高齢化によるマーケットの縮小、消費者の節約志向の高まり、原材料費・人件費・建設資材のコスト上昇など、経営環境は厳しさを増しています。ヤオコーは「独自の強みを持った食品スーパーマーケット企業が連帯しつつも切磋琢磨することで元気に勝ち残り、将来にわたって地域の食生活向上に貢献していく」ことを目指し、持株会社制への移行を決断しました。
文化堂とクックマートの買収
ブルーゾーンHDは設立と同時に、2社の買収を発表しました。
10月16日には東京都品川区を本部とする文化堂の全株式を取得し完全子会社化しました。文化堂は東京都に14店舗、神奈川県に5店舗の計19店舗を展開し、2025年5月期の売上高は278億8,200万円、営業利益は8億8,400万円です。
10月31日にはデライトHD(クックマート)の株式70%を取得し連結子会社化しました。愛知県東部と静岡県西部の東三河エリアで12店舗を展開し、2025年3月期の売上高は354億1,100万円、営業利益は8億4,100万円です。
グループ売上高1兆円への道筋
3社を単純合算した売上高は8,300億円超に達し、上場食品スーパー企業ではライフコーポレーション(約8,504億円)に次ぐ規模となります。ブルーゾーンHDは「グループ売上高1兆円」を長期目標に掲げており、今回の買収はその基盤づくりの第一歩と位置付けられています。
スケールデメリットの壁
規模拡大が招く店舗魅力の低下
食品スーパー業界では、規模拡大が必ずしも成功につながるわけではありません。むしろ「スケールデメリット」(規模の不利益)が発生するケースが目立ちます。
M&A後は統合先の経営方針やマニュアルに従う場面が増え、従来のサービススタイルや商品構成が変わりやすくなります。地方の小規模スーパーの場合、地域密着の接客や独自の品揃えが特徴的であることが多く、その強みが失われるリスクがあります。
組織統合の困難さ
文化や組織体制、福利厚生を異にする企業が統合されるM&Aでは、合併後に従業員が離職したり、組織内に軋轢が生じたりすることが少なくありません。食品スーパーはオーナー色の強い企業が多く、「それぞれの企業文化の融合は難しい」と言われてきました。
統合が円滑に進まないと組織内に混乱が生じ、業績に影響が出る可能性があります。買収によって企業名やサービスが大きく変わると、地元との強い結びつきが損なわれる懸念もあります。
意思決定の遅延リスク
事業統合による規模拡大は、組織としての判断や決定のスピード遅延というスケールデメリットを生じさせる恐れがあります。融通の利かない企業体質や、伝言ゲームのような不確かな伝達、組織文化の違いを原因として意思決定が遅れてしまうのです。
また、販売エリアを拡大しても商品供給が追いつかなければスケールメリットは享受できません。かえって投資負担が経営の足を引っ張ることになります。
ヤオコーはスケールデメリットを克服できるか
「独自性維持」という方針
ヤオコーの規模拡大戦略には、スケールデメリット回避を意識した特徴があります。川野社長は「独自の強みを持って地域密着型でビジネス展開しており、経営や文化が合う企業があればホールディングスに加わってもらう」という姿勢を示しています。
大方針として「年率5%ずつの成長」を掲げ、M&Aに頼らず基本的にはオーガニックで伸ばしていく方針を維持しています。グループ企業も同じ目標で進んでおり、急激な規模拡大による弊害を避ける狙いがうかがえます。
人材育成と省人化の両立
売上高1兆円企業を支える人材・リーダーの育成も重要課題です。店舗が200店舗体制になり、次の20年に向けて300店舗体制の仕組みづくりが求められています。
一方で、人件費単価が6%上がる中、デジタル活用による省人化と働き方改革を進めています。フルセルフレジ、デジタルプライサー、AIの自動発注を拡大し、生産性向上に取り組んでいます。
グループ会社との役割分担
傘下のエイビイはヤオコーよりも収益率が高く、プロセスセンターで集中加工するモデルを構築しています。1店舗平均50億円の売上で、年に1店舗出店すれば4年かけて200億円の伸びを見込める計算です。
このように、グループ各社の強みを活かした役割分担を進めることで、画一化による店舗魅力の低下を防ぐ戦略と考えられます。
注意点と今後の展望
業界再編のさらなる加速
2026年は食品スーパー業界の再編がさらに活発化すると予想されています。2025年にはトライアルHDが約3,800億円を投じて西友を買収するなど大型M&Aが相次ぎました。ブルーゾーンHDなど有力スーパーが業界再編の担い手となる流れが続いています。
一方で、消費低迷を受け業界全体の売上高が13年連続前年割れであるにもかかわらず、出店意欲が旺盛な企業が多く、オーバーストア状態が常態化しています。競争環境は一段と厳しくなる見通しです。
多角的な競争への対応
食品スーパーのライバルは同業種だけではありません。コンビニエンスストアやドラッグストアでも食品や日用品を多く扱っており、業態を超えた競争が激化しています。ネットスーパーの普及も進み、実店舗に行かずに購入する消費者が増加傾向にあります。
こうした環境変化の中で、ヤオコーが「個店経営」の強みを維持しながら規模拡大を進められるかが注目されます。
まとめ
ヤオコーは36期連続増収増益という驚異的な実績を背景に、持株会社体制への移行と規模拡大に踏み出しました。ドミナント戦略による高い商圏シェア、個店経営による差別化、二極化対応など、その成功要因は明確です。
しかし食品スーパー業界では、M&Aによる規模拡大が店舗の魅力低下や組織の非効率化を招いた例が少なくありません。ヤオコーは「独自性維持」を掲げ、急激な拡大を避けながら成長を目指す方針ですが、売上高1兆円という野心的な目標達成には、スケールデメリットの克服が不可欠です。
厳しい競争環境の中、ヤオコーが「常勝スーパー」の座を維持できるか、その手腕に注目が集まっています。
参考資料:
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