円安継続で160円台視野、政治が為替を左右する背景
はじめに
2026年に入り、円相場は再び160円台を視野に入れる展開となっています。日本銀行が2025年12月に30年ぶりとなる0.75%への利上げを決定したにもかかわらず、円安傾向に歯止めがかかりません。
この背景には、単なる日米金利差だけでなく、高市政権の積極財政路線や早期の衆議院解散観測など、政治的要因が複雑に絡み合っています。為替市場では「政治にらみ」の変動が大きくなっており、投資家や企業経営者にとって、政治動向の把握が不可欠な状況です。
本記事では、円安が継続する構造的な要因と、今後の為替相場を左右する政治・経済イベントについて詳しく解説します。
円安が止まらない構造的要因
日米金利差だけでは説明できない円安圧力
従来の為替相場分析では、日米金利差が最も重要な決定要因とされてきました。しかし、現在の円安は金利差では説明しきれない局面にあります。
第一生命経済研究所の分析によると、現在のドル円レートには「潜在的な円安圧力」が存在し、これが日米金利差の縮小という変化を上回る力で作用しているとされています。この背景には、日本のインフレリスクや財政への不安が挙げられます。
特に高市政権が打ち出した2026年度予算案は、一般会計総額が122兆3,092億円と過去最大を更新しました。国債費が初めて30兆円を超えるなど、「積極財政」の姿勢が市場に財政悪化への懸念を抱かせ、円売り圧力につながっています。
実質賃金と物価のジレンマ
円安が進むと輸入物価が上昇し、食料品やエネルギー価格が上がります。しかし、賃金上昇がこれに追いつかなければ、日銀は急激な利上げに踏み切りにくくなります。
元日銀理事の門間一夫氏は「2022年には1ドル110円から150円へ、40円もの大幅な円安となり、特大のショックをもたらした」と指摘しています。2026年においても、実質賃金を安定的に上昇させることが高市政権の最大課題の一つとなっています。
賃金が安定的に上がらなければ、日本だけが低金利を続けざるを得ず、相対的に円が弱くなる構図は変わりません。
衆議院解散と為替・株価の連動
解散観測が市場を動かすメカニズム
2026年1月、高市首相が通常国会冒頭での衆議院解散を検討しているとの報道が流れると、為替・株式市場は大きく反応しました。
衆議院選挙は「1月27日公示、2月8日投開票」の日程が有力視されています。高市政権の支持率が高い状態で解散総選挙に打って出れば、自民党は議席数を増やし過半数を得る可能性があるという思惑が広がっています。
この期待感が、いわゆる「選挙は買い」のアノマリー(経験則)を強化しています。1969年以降に行われた18回の解散総選挙のうち、2024年のケースを除いて日経平均はすべて上昇しており、選挙公約で示される経済政策への期待が株価を押し上げる傾向があります。
円安・株高の同時進行
1月14日の東京株式市場では、日経平均株価が初めて5万4,000円台に乗せました。大発会となった1月5日にも、日経平均は前年比1,493円高と大幅上昇を記録しています。
為替面では、年初から円安・株高が同時進行しています。第一生命経済研究所によると、インフレ下での財政拡張がインフレ予想をさらに高め、これが円安・株高の予想を強めているとのことです。
2026年内のドル円レートは、150円から165円の円安トレンドで推移するとの予測もあり、市場は「第2次高市政権では160円±20円のレンジ」を想定し始めています。
日銀の金融政策と今後の利上げ見通し
0.75%への利上げと30年ぶりの高水準
日銀は2025年12月19日の金融政策決定会合で、政策金利を0.25%引き上げて0.75%としました。これは1995年以来、30年ぶりの高い水準です。
植田和男総裁は「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、引き続き政策金利を引き上げていく」との基本方針を示しました。この発言を素直に受け取れば、今後も半年に1回程度のゆっくりとした利上げペースが続くと予想されます。
次回の利上げは2026年6月か7月の会合が有力視されており、野村総合研究所は2027年6月に政策金利が1.25%に達し、そこがターミナルレート(政策金利の到達点)になると予測しています。
円安が利上げを促す可能性
日銀が利上げに踏み切った背景には、円安是正の意図があります。円安は物価上昇圧力となるため、1ドル160円の手前で止めておきたいという点で、政府と日銀の政策目標は一致しています。
日銀の審議委員からは「最近の円安が国内価格に上向きの影響を与えており、基調物価にも影響する可能性がある」との指摘が出ています。一層の円安が進めば、利上げペースが速まる可能性も否定できません。
一方、衆院選で与党が勝利し高市政権の政治基盤が強化されれば、日銀の利上げはやりやすくなるとの見方もあります。政治的安定が、不人気政策である利上げを後押しするという皮肉な構図です。
今後の注目点と展望
各金融機関の為替予測
2026年の円相場について、金融機関の見方は分かれています。
三井住友DSアセットマネジメントは、ドル円が155円を中心とするレンジから徐々に150円中心のレンジへ移行し、年末は150円程度と予想しています。野村證券はより円高方向を見ており、年末140円との見通しです。
一方、第一生命経済研究所は150円から165円の円安トレンドを予想しており、みずほリサーチ&テクノロジーズは政府の許容水準の閾値が160円前後にあると分析しています。
年始の円高転換という経験則
興味深いのは、毎年年初には円相場のトレンドが大きく転換しやすいという経験則があることです。日本経済新聞によると、市場では円相場が反転上昇に向かうとの見方も浮上しています。
2025年も前半は140円台まで円高が進みましたが、後半に流れが反転しました。2026年も同様のパターンとなるかどうか、注目が集まります。
まとめ
2026年の円相場は、単純な金利差ではなく、高市政権の財政政策、衆議院解散のタイミング、日銀の利上げペースなど、政治的要因に大きく左右される展開となっています。
市場参加者にとって重要なのは、以下の3点を継続的にウォッチすることです。第一に、衆議院選挙の結果と高市政権の安定性。第二に、日銀の次回利上げ時期と円安への対応姿勢。第三に、2026年度予算の執行状況と財政への市場評価です。
為替変動の振れ幅が大きくなる中、個人投資家も企業経営者も、政治動向を含めた多角的な情報収集が求められる局面といえるでしょう。
参考資料:
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