円155円台へ下落、高市首相の円安容認観測が波紋
はじめに
2026年2月2日、外国為替市場で円が対ドルで急落し、一時1ドル=155円台半ばを記録しました。きっかけは、高市早苗首相が1月31日の衆院選応援演説で発した「外為特会の運用がホクホク」という一言です。市場はこの発言を「円安容認」と受け止め、円売りが加速しました。
為替相場は日本経済の根幹に関わるテーマです。円安は輸出企業にとって追い風となる一方、輸入物価の上昇を通じて家計を圧迫します。この記事では、高市首相の発言の詳細と背景、外為特会の仕組み、市場への影響、そして今後の為替見通しについて解説します。
高市首相の発言と市場の反応
「ホクホク」発言の全容
高市首相は1月31日、衆院選の応援演説において、足元の円安について「輸出産業には大チャンス」と述べたうえで、「もっと助かっているのが外為特会(外国為替資金特別会計)で、運用が今ホクホク状態だ」と発言しました。円安のメリットを複数挙げたことで、市場参加者の間では「首相が円安を容認している」との見方が広がりました。
前週末に1ドル=154円80銭前後で取引を終えていた円相場は、週明け2日早朝のオセアニア市場で急落し、一時155円台半ばを記録しました。1月26日以来、約1週間ぶりの円安・ドル高水準です。
首相の釈明と市場の冷ややかな反応
高市首相は翌2月1日、自身のX(旧Twitter)で「円高と円安のどちらが良くてどちらが悪いということではない」と投稿し、「為替変動にも強い経済構造を作りたい」との趣旨だったと説明しました。尾崎正直官房副長官も「円安メリットを強調したということでは全くない」と火消しに回りました。
しかし、市場の受け止めは厳しいものでした。為替トレーダーの間では、釈明後も円売り・ドル買いの流れが続き、「言葉での修正では信頼回復に時間がかかる」との見方が支配的です。衆院選で与党が大きく議席を伸ばせば、高市首相の掲げる積極財政が推進されやすくなるとの観測も、将来の景気・物価上振れを意識した円売り材料となっています。
外為特会とは何か——「ホクホク」の仕組み
外為特会の基本構造
外国為替資金特別会計(外為特会)は、為替相場の急激な変動に対応するための為替介入資金を管理する特別会計です。1949年に創設されました。
その仕組みは、政府が政府短期証券(FB)を発行して円資金を調達し、その円でドルを購入、ドル建て資産(主に米国債など)で運用するというものです。実質的に政府が「円キャリートレード」を行っている構造と指摘されることもあります。
なぜ円安で「ホクホク」なのか
外為特会が円安の恩恵を受ける理由は主に2つあります。第一に、保有する外貨建て資産の円換算額が増加し、含み益が拡大します。第二に、日米金利差が大きい局面では、低金利の円で調達して高金利のドル資産で運用するため、運用収入が増加します。
近年、外為特会は毎年3兆円前後の利益を生み出しており、うち2兆円前後を一般会計に繰り入れています。高市首相の「ホクホク」発言は、この運用益の好調さを指したものです。
外為特会のリスク
ただし、この構造にはリスクも伴います。円高に転じた場合、外貨建て資産の円換算額は減少し、含み損が発生します。また、日銀が利上げを継続すれば円建て負債の利払いコストが増加し、米国で利下げが進めば外貨建て資産の運用収入が減少します。外為特会の好調は、現在の金利差と円安という環境に依存しているのです。
為替市場と株式市場への波及
円相場の動き
2日の東京外国為替市場では、朝方から円売りが優勢となり、ドル円は155円台前半で推移しました。市場では「首相の発言が円安を後押しする材料になった」との見方が根強く、実需のドル買いと投機的な円売りが重なる形となりました。
株式市場の乱高下
東京株式市場では2日、日経平均株価が朝方に一時前週末比900円超高い5万4200円台まで上昇しました。円安を好感した輸出関連株の買いが先行したためです。しかし午後に入ると一転して売りが優勢となり、終値は前週末比667円安の5万2655円と大幅反落しました。円安メリットと政治リスクが交錯し、投資家心理が揺れ動いた1日でした。
野党からの批判
中道改革連合の安住淳共同幹事長は、高市首相の「円安ホクホク」発言を厳しく批判しました。物価高で家計が苦しむ中での発言として、「庶民感覚からかけ離れている」との声が野党側から相次いでいます。2月8日の衆院選投開票を控え、為替問題が選挙戦の争点のひとつとなっています。
今後の為替見通しと注意点
日銀の金融政策
日銀は2025年12月に政策金利を0.75%に引き上げ、30年ぶりの高水準としました。2026年も経済・物価情勢を見ながら利上げを継続する方針を示しています。市場では2026年6月までに追加利上げが実施される確率を約65%と見込んでおり、金融市場は政策金利が1.0%程度まで上昇する可能性を織り込みつつあります。
円安収束の条件
円安が収束するためには、3つの条件が必要とされています。第一に、米国の景気鎮静化と金利低下です。第二に、日銀の継続的な利上げです。第三に、日本政府の財政運営に対する信頼の回復です。
高市政権が掲げる「責任ある積極財政」は、2026年度当初予算でプライマリーバランスの28年ぶり黒字化を達成した一方、財政拡張的な姿勢への警戒感は根強く残っています。「財政拡張的で金融引き締めに消極的」というイメージが払拭されない限り、円安圧力は続く可能性があります。
為替介入の可能性
高市首相は為替について「マーケットで決まることにコメントしない」としつつも、「投機的な動きについてはしっかり注視する」「必要な対応を打っていく」と述べ、行き過ぎた円安に対する為替介入の可能性を示唆しています。1月には一時159円台まで円安が進んだ後、米当局によるレートチェック(為替水準の確認)観測を背景に155円台まで急反転する場面もありました。
まとめ
高市首相の「外為特会ホクホク」発言は、市場に円安容認のシグナルとして受け止められ、円相場は155円台半ばまで下落しました。首相は釈明を試みたものの、市場の円安観測を完全に打ち消すには至っていません。
今後の焦点は、2月8日の衆院選の結果と、日銀の金融政策の方向性です。与党の圧勝は積極財政の推進力となり得る一方、日銀の利上げ継続は円安抑制の材料となります。為替相場は政治と金融政策の綱引きの中で推移することになりそうです。家計や企業の立場からは、為替変動リスクへの備えを怠らないことが重要です。
参考資料:
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