円安継続で160円台も視野、政治情勢と金融政策の行方
はじめに
2026年1月、日本の為替市場は政治情勢を背景に大きく揺れ動いています。ドル円相場は160円台への上昇が視野に入り、高市早苗首相による衆院解散の判断や、日銀の金融政策決定会合が重要な転換点として注目されています。
立憲民主党と公明党による新党「中道改革連合」の結成という予想外の政局展開も、市場に不透明感をもたらしています。本記事では、円安の背景と今後の見通し、そして私たちの生活への影響について解説します。
円安が進行する背景
日米金利差の拡大
円安の最大の要因は、日米の金利差です。2025年12月、日銀は政策金利を0.75%に引き上げましたが、米国の政策金利は依然として4%台後半にあり、約4%の金利差が存在します。
投資家は金利の高い通貨で運用する傾向があるため、この金利差が円売り・ドル買いの圧力となっています。日銀が利上げを実施しても、米国との金利差が大きく縮まらない限り、円安圧力は続く構造となっています。
構造的な円売り圧力
日本では急激な利上げは経済への悪影響が懸念されるため、日米金利差が急速に縮まるシナリオは描きにくい状況です。市場では、日銀が半年に1回程度のペースで利上げを進めるとの見方が大勢を占めており、2026年9月までに政策金利が1.0%に到達するとのシナリオが織り込まれています。
一方、高市政権の拡張的な財政政策と日銀の緩やかな利上げペースを材料に、投機的な円売りも継続しているとみられます。
政治情勢と為替への影響
高市首相の衆院解散
高市首相は1月19日に衆院解散についての考え方を表明すると報じられています。与党内では「1月27日公示、2月8日投開票」の選挙日程が有力視されており、この政治日程が為替市場の変動要因となっています。
解散総選挙の結果次第では、政権の経済政策の方向性が変わる可能性があり、市場参加者は選挙結果を見極めようとする姿勢を強めています。
「中道改革連合」の誕生
大きなサプライズとなったのが、立憲民主党と公明党による新党「中道改革連合」の結成です。1月15日、野田佳彦代表と斉藤鉄夫代表が共同代表となる新党結成で合意しました。
26年間続いた自民・公明両党の連携は、高市総裁の誕生とともに終止符を打ち、自民党は新たに維新との連立に移行しました。公明党票が対立候補に回れば、都市部の自民党候補は苦戦を強いられるとの見方があり、選挙結果の不透明感が為替変動リスクを高めています。
各党の選挙公約と市場の反応
各党が掲げる選挙公約も取引材料となります。財政拡張路線を打ち出す政党が勝利すれば、日本の財政健全化への懸念から円安が進む可能性があります。逆に、財政規律を重視する政策が支持されれば、円高方向に振れる展開も考えられます。
日銀の金融政策決定会合
1月23日の会合に注目
1月23日には日銀の金融政策決定会合が予定されており、植田和男総裁の記者会見に市場の注目が集まっています。植田総裁がどのような金融政策の見通しを示すかが、今後の為替動向を左右する重要なポイントです。
前回2025年12月の会合で、日銀は政策金利を0.75%に引き上げました。これは1995年9月以来、約30年ぶりの水準です。植田総裁は会見で「実質金利は極めて低い」と述べ、今後も金融正常化を続ける姿勢を示しています。
追加利上げの見通し
市場では、2026年前半に政策金利が1.0%に到達するとの予想が出ています。野村證券は2026年7月、その後2027年1月、2027年7月に、それぞれ0.25%ずつの利上げを予想しています。
植田総裁は「中立金利の下限にはまだ少し距離がある」としており、利上げ継続の余地があることを示唆しています。ただし、「推計には相当なばらつきがある」として、経済情勢を見ながら判断していく姿勢も示しています。
160円台への可能性
市場の見方
1月は日米金利差が縮小しない公算が大きいことから、ドル円は2025年高値の158.87円を上抜けて160円の節目を意識した展開になる可能性があります。
ただし、160円を超える円安が進めば、政府・日銀による為替介入への警戒感が高まるとみられています。そのため、160円を大幅に超える円安進展をメインシナリオとする見方は少数派です。多くの専門家は、150円台を中心とした円安が長期化すると予想しています。
年末の予想は分かれる
2026年末のドル円レート予想は専門家によって分かれています。野村證券は日米金利差の縮小を見込み140円を予想する一方、三井住友DSアセットマネジメントは150円を予想しています。一部には165円という円安予想もあり、見通しには大きな幅があります。
円安が及ぼす経済への影響
輸出企業へのメリットは限定的
かつてほど円安が輸出企業の追い風にならなくなっています。リーマンショック後の円高時代に多くの企業が生産拠点を海外に移転したため、円安メリットが国内に波及しにくい構造になっています。
2022年から2024年まで3年連続で輸出数量指数はマイナスを記録しており、円安になっても輸出量は増えにくい状況が続いています。海外で得た利益を円に換算する際の為替差益は発生するものの、国内の雇用や設備投資への波及効果は限定的です。
「K字型」経済の二極化
2026年の日本経済は「K字型」と呼ばれる二極化が進んでいます。大企業・輸出企業・富裕層は円安メリットを享受して上向きである一方、中小企業・低中所得層は円安によるコスト増の影響で下向きになっています。
中小企業は関税や円安によるコスト増を価格に十分転嫁できず、賃上げ圧力も加わって経営を圧迫しています。2025年度上半期の倒産は5,172件と12年ぶりの高水準となり、「人手不足倒産」は過去最多の202件を記録しました。
物価への影響
円安は輸入物価の上昇を通じて、私たちの生活に直接影響を及ぼします。2020年以降、輸入物価は実に1.42倍に上昇しています。通常であれば輸入品から国産品へのシフトが起こりますが、構造的に輸入に依存せざるを得ない商品も多く、実質輸入は9.2%増加しています。
月1,000品目前後の値上げが常態化し、平均値上げ率も14%前後と高水準を維持しています。値上げは「収束」傾向にあるものの「終息」には至っておらず、原材料高、円安、人件費増という構造的要因は解消していません。
今後の見通しと注意点
為替介入の可能性
160円を超える円安が進んだ場合、政府・日銀による為替介入の可能性が高まります。2024年には150円台後半で介入が実施された経緯があり、市場では160円を防衛ラインと見る向きもあります。ただし、介入の効果は一時的であり、根本的な金利差が解消されない限り円安圧力は続くとの見方が大勢です。
賃上げとの綱引き
2026年の賃上げ率は5%前後が予想されており、連合は春闘で全体で5%以上、中小企業で6%以上の賃上げを要求しています。賃上げが物価上昇を上回れば実質賃金はプラスに転じますが、円安による物価上昇が加速すれば、その効果は相殺されてしまいます。
まとめ
2026年1月のドル円相場は、政治情勢と金融政策という2つの大きな不確実性を抱えています。高市首相の衆院解散表明と選挙結果、そして1月23日の日銀会合における植田総裁の発言が、当面の方向性を左右する重要なポイントです。
160円台への上昇は視野に入っていますが、介入警戒感が上値を抑えるとみられています。私たちの生活においては、円安による物価上昇への備えとして、家計の見直しや外貨建て資産への分散投資なども選択肢の一つとなるでしょう。
参考資料:
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