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by nicoxz

円相場急落の裏側:レートチェックと首相発言の攻防

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はじめに

2026年2月2日、外国為替市場で円売りが加速し、一時1ドル=155円台半ばまで円安が進行しました。背景にあるのは、高市早苗首相が1月31日の衆院選応援演説で発した「円安でホクホク」とも受け取れる発言です。

わずか1週間前、日米当局によるレートチェックが実施され、ドル円相場は159円台から153円台まで急落していました。しかし、首相自らが円安のメリットを強調したことで、投機筋の円売りが再燃。レートチェックで築いた円高効果の約半分が失われる事態となりました。

この記事では、レートチェックの仕組みと効果、高市首相の発言が市場に与えた影響、そして今後の為替見通しについて解説します。

レートチェックと日米の為替防衛

1月23日の「波状攻撃」

事の発端は1月23日の日銀金融政策決定会合です。日銀は政策金利を0.75%に据え置き、植田和男総裁の会見後にドル円は一時159円20銭台まで上昇しました。ここで注目すべき動きが起きます。

まず日本の通貨当局がレートチェックを実施したとの報道が流れ、ドル円は157円台へ急落しました。レートチェックとは、財務省が主要銀行に対して為替レートの水準を問い合わせる行為です。実弾による為替介入の前段階として行われることが多く、市場参加者に「介入が近い」というシグナルを送る効果があります。

さらにニューヨーク時間に入ると、ニューヨーク連邦準備銀行も主要銀行に対してレートチェックを実施したとの情報が広がりました。これにより円は155円台まで急伸し、159円台からの下落幅は最大で約4円に達しました。

日米連携の背景

片山さつき財務相は1月16日の時点で「あらゆる手段を含めて断固たる措置を取らせていただく」と強い口先介入を行っていました。一方、米国側ではベッセント財務長官が「日本の裁量に委ねる」と発言し、日本の為替介入に対して一定の理解を示していました。

NY連銀によるレートチェックが、日本当局の委託介入に向けた準備なのか、あるいは米国による協調介入の布石なのかは明らかになっていません。しかし、日米双方が円安を問題視しているというメッセージは市場に強く伝わり、週明けにはドル円は153円台まで下落しました。

高市首相の「円安ホクホク」発言

発言の内容

1月31日、高市首相は川崎市での衆院選応援演説で、円安について次のように述べました。「円安が悪いって言いますが、輸出産業にとっては大チャンス。もっと助かっているのが外為特会(外国為替資金特別会計)で、運用が今ホクホク状態だ」。

さらに「民主党政権の時、ドル70円台の超円高で日本の企業は海外にどんどん出ていった。失業率もすごく高かった。そっちがいいのか」とも発言し、円安のメリットを強調しました。外為特会の残高は2025年3月時点で約187兆円に達しており、円安局面では含み益が膨らむ構造です。

市場の反応

この発言は週末にかけて広まり、2月2日朝の東京外国為替市場では朝方から円売りが優勢となりました。投機筋は「政府が円安を容認している」と読み取り、円売りポジションを積み増したとみられます。

ドル円は一時155円台半ばまで上昇し、レートチェック後の最安値である153円台から約2円の円安方向への揺り戻しが発生しました。レートチェックで得た約6円幅の円高効果(159円→153円)のうち、約半分が1週間で失われた計算です。

釈明と政治的影響

高市首相は2月1日、X(旧Twitter)で「誤解がある。円安メリットを強調したわけではない」と釈明しました。「為替変動にも強い経済構造をつくりたいという趣旨だ」と説明し、「足元の円安ではエネルギーや食品など物価高が課題であり、政府として対応すべきなのは当然のこと」とも述べています。

しかし野党からの批判は厳しく、中道改革連合の野田佳彦共同代表は「円安でスーパーの値札を見ながらホクホクしている人はいるのか」と反論。共産党の田村智子委員長も「物価高で苦しい時に異常円安を自ら引き起こし、反省もない」と指摘しました。

また、この発言をめぐってNHKの討論番組への出演を取りやめたとの報道もあり、「各党党首からの追及を避けたのでは」との見方が党内からも出ています。

注意点・今後の展望

為替介入の限界

レートチェックや為替介入は一時的な効果しか持たないという点に注意が必要です。今回のケースが象徴的で、当局の介入で6円幅の円高を実現しても、政治的な発言一つで効果が半減してしまいました。根本的な円安要因である日米金利差が解消されない限り、円安圧力は続く可能性があります。

衆院選と為替の関係

2月8日に控える衆院選の結果は為替市場にも影響を与えます。高市政権の経済政策に対する信任の度合いによって、円安がさらに進むか、あるいは歯止めがかかるかの分岐点となります。市場では高市政権が積極財政路線を維持するとの見方が強く、財政規律への懸念から日本国債の利回りも上昇傾向にあります。

日銀の利上げ観測

市場では2026年4月の日銀利上げの可能性を約7割織り込んでいるとされています。日銀が利上げに踏み切れば日米金利差が縮小し、円安是正に寄与する可能性があります。ただし、衆院選の結果次第では政治的な利上げへの圧力が変化する可能性もあり、不透明な状況が続きます。

まとめ

今回の一連の動きは、為替市場における「介入効果」と「政治リスク」の綱引きを如実に示しています。日米当局によるレートチェックで一時的に円高方向に振れたものの、首相自身の発言で市場のセンチメントが一変しました。

投資家や企業の為替リスク管理においては、当局の介入だけでなく、政治的な発言リスクも考慮に入れる必要があります。2月8日の衆院選、そしてその後の日銀の金融政策決定が、今後の円相場の方向性を決める重要な節目となるでしょう。

参考資料:

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