ネット広告にAI革命、RIZAPは8割内製化へ
はじめに
インターネット広告の制作や運用を自社で手がける「内製化」の動きが加速しています。背景にあるのは、生成AIをはじめとするテクノロジーの急速な進化です。
かつては専門的なスキルと経験が必要だった広告運用も、AIツールの普及により、ハードルが大きく下がりました。RIZAPグループは広告制作の8割を内製化し、楽天グループも完全内製化体制を敷いています。
本記事では、デジタル広告の内製化が進む背景、先進企業の取り組み、そして広告代理店が直面する構造変化について解説します。
AIが変えるデジタル広告の制作・運用
生成AIで広告クリエイティブが劇的に変化
生成AIの登場により、広告クリエイティブの制作プロセスは大きく変わりました。Midjourneyなどの画像生成AI、ChatGPTによる広告コピー生成、CanvaのAI機能を組み合わせることで、専門のデザイナーやコピーライターがいなくても、高品質な広告素材を大量に制作できるようになっています。
あるスタートアップ企業では、AIを活用した内製化により、月間50パターン以上のクリエイティブを制作しています。外注していた頃の制作費(月額30万円)がほぼゼロになり、ROI(投資収益率)が大幅に改善したという事例も報告されています。
広告運用の自動化も進行
サイバーエージェントはデジタル広告の運用業務に当たる人材をゼロにしたと報じられています。AIであれば、数字を基により効果が高いクリエイティブの予算を厚くするといった改善活動を、24時間365日休むことなく実行できるためです。
GoogleやMetaなど主要プラットフォーマーも、AIによる広告ツールの強化を進めており、広告運用の自動化・効率化は業界全体のトレンドとなっています。
内製化を推進する先進企業の事例
RIZAP:8割内製化とエージェンシー設立
RIZAPグループは2026年1月5日、広告代理業・クリエイティブ制作・マーケティング戦略立案を担う新子会社「RIZAPエージェンシー」を設立しました。
同グループは、コンビニジム「chocoZAP(チョコザップ)」の広告を自社で制作してきたノウハウを蓄積してきました。その結果、広告制作の約8割を内製化するに至っています。
新会社では、データドリブンな意思決定を推進し、広告費の内製化によるROI最大化と収益性の改善を目指します。今後はテレビメディアとの連携強化や、TV×デジタルのクロスメディア戦略も推進する方針です。
楽天:1億会員データを活かした完全内製化
楽天グループは、河野奈保CMOのリーダーシップの下、広告・マーケティングの完全内製化体制を構築しています。ブランド、製品、パフォーマンスマーケティング、クリエイティブ、オペレーションはすべて二子玉川の本社で行われており、外部の広告会社が必要になるのは、イベントや特定の有名人と提携する場合のみです。
楽天の強みは、1億以上の会員データを活用したデータドリブン戦略にあります。従業員の約40%にあたる13,000人が毎日AIを活用しており、マーケティング部門ではさらに利用率が高くなっています。
AIを活用したワークフローにより、ランディングページやワイヤーフレームの制作、コーディング、実装を効率化した結果、特定のクリエイティブ業務にかかる時間が81%削減されたと報告されています。
広告代理店が直面する構造変化
「広告代理店不要論」の再燃
大手クライアントがマーケティングをインハウス化し、代理店から離脱する流れが業界全体のトレンドになりつつあります。生成AIの登場により、「広告代理店不要論」が再び注目を集めています。
富士フイルムビジネスイノベーションが2024年9月に実施した調査では、すでに内製化していると答えた企業が80%を超えました。内製化していない企業でも、30%近くが今後内製化を進めたいと回答しています。
広告代理店の新たなビジネスモデル
こうした環境変化を受け、広告代理店も新たなビジネスモデルを模索しています。
デジタル広告大手のオプトは2025年5月、マーケティング内製化を支援するサービスを開始しました。同社の調査では「インハウス化着手企業は86%」という結果が出ており、課題として「スキル不足」「人材確保」が挙げられています。6割以上の企業がサポート会社を利用している実態も明らかになりました。
オプトは、戦略策定から体制構築、実行までを包括的に支援し、30年以上培ってきたマーケティング組織のノウハウを提供するとしています。
業界再編の動き
2025年12月には、博報堂DYホールディングスがオプトを中核とするデジタルホールディングスへのTOBを成立させました。広告業界では急速な再編が進んでおり、生き残りをかけた競争が激化しています。
注意点・今後の展望
内製化の落とし穴
内製化には注意すべき点もあります。内製化することが目的化してしまった結果、ROIの悪化、社員の離職、ブランド品質が損なわれるケースも報告されています。数年で内製化をあきらめる企業も少なくありません。
特に、人材育成やKPI設計など、ノウハウの蓄積には時間がかかります。急速に内製化を推進する際に起こりがちな売上利益減・品質低下・混乱を避けるため、段階的な移行が推奨されています。
2026年は「二極化元年」
2026年は「AIで稼ぐ企業」と「AIがコストであり続ける企業」がはっきり分かれる年になるとの予測があります。コンサルティング会社Deloitteは、2026年には企業が人間だけではなく、AIエージェントを含めたハイブリッドな労働力を管理する必要に迫られると指摘しています。
AI活用に成功する企業は1.7倍の成長が見込まれる一方、他社との差が加速度的に広がる「勝者総取り」の構図が鮮明になる可能性があります。
まとめ
デジタル広告の内製化は、もはや一部の先進企業だけのトレンドではありません。AIツールの進化により、多くの企業にとって現実的な選択肢となっています。
RIZAPや楽天の事例が示すように、内製化に成功すれば、コスト削減だけでなく、スピードと柔軟性の向上、データの蓄積といったメリットが得られます。一方で、人材育成や組織体制の構築には計画的な取り組みが必要です。
広告代理店もまた、単なる運用代行から、内製化支援やコンサルティングへとビジネスモデルの転換を迫られています。今後の広告業界の構図を大きく変える変革期に入っています。
参考資料:
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