東京23区の中古マンション1.2億円突破の背景と今後
はじめに
不動産調査会社の東京カンテイが2026年2月19日に発表したデータによると、1月の東京23区における中古マンションの平均希望売り出し価格(70平方メートルあたり)は、前月比1.4%上昇の1億2123万円となりました。21カ月連続の上昇であり、1997年1月の調査開始以降の最高値を更新しています。
前年同月比では34.4%もの上昇です。かつて「億ション」と呼ばれた1億円超のマンションは一部の高級物件に限られていましたが、いまや23区の中古マンションの平均価格がその水準を大きく超えています。
本記事では、この歴史的な価格上昇の背景にある構造的な要因を分析し、今後の市場見通しについて解説します。
新築マンションの供給不足が中古市場を押し上げる
過去50年で最低水準の新築供給
中古マンション価格の高騰を理解するには、新築マンション市場の動向を把握する必要があります。首都圏の新築マンション供給戸数は2026年の予測で約2万3000戸と、過去50年で最低水準になる見通しです。
用地取得の困難さと建築費の高騰が、デベロッパーの供給能力を大きく制約しています。建設資材の価格上昇や人手不足による人件費の増加が重なり、開発コストが膨らんでいます。その結果、デベロッパーは戸数を絞り込み、1戸あたりの単価を引き上げる戦略を取らざるを得なくなっています。
新築から中古への需要シフト
東京23区の新築マンション平均価格は1億3000万円を超える水準で推移しており、一般的な購入者層には手が届かない価格帯です。新築の購入を断念した層が「少しでも安い」中古マンションに流入する構図が定着しています。
この需要のシフトは中古市場を売り手優位の状況にしており、売り出し価格が強気に設定されても買い手がつく状態が続いています。結果として、新築価格の上昇が中古価格を引き上げ、中古価格の上昇がさらに新築の割安感を薄めるという、価格上昇の連鎖が生まれています。
富裕層と投資マネーが支える需要構造
パワーカップルの存在感
東京の不動産市場を支える重要な購買層が「パワーカップル」と呼ばれる高所得共働き世帯です。世帯年収1400万円以上のパワーカップルは過去10年で約20万世帯から40万世帯へと倍増し、毎年約2万世帯のペースで増加しています。
ただし、現在の都心マンション価格の水準では、世帯年収2000万〜3000万円がなければ購入が困難な状況です。かつてのパワーカップルの目安であった世帯年収1500万円では、都心部での購入は難しくなっています。高い賃上げの継続が見込まれる一方で、価格上昇のスピードが所得の伸びを上回っている現実があります。
海外投資家と富裕層の資金流入
日本の不動産市場には海外投資家の資金も流入し続けています。2025年の不動産投資額は6兆円規模に達し、海外投資家の割合は39%と2007年の34%を上回る水準です。アジア太平洋地域のなかでも日本と豪州が選好されており、円安による割安感も追い風となっています。
国内の富裕層も株高を背景に投資余力を高めています。日経平均株価が高水準で推移するなか、資産効果によるマンション購入意欲が中古市場の価格を下支えしています。
都心の再開発と希少価値
虎ノ門・麻布台エリアや東京駅周辺など、大規模再開発プロジェクトの進展も都心部の不動産価値を押し上げています。再開発によって街の魅力が向上すると、周辺の既存マンションの資産価値も上昇します。都心部では新規の開発用地がほぼ枯渇しており、築浅の高級物件は希少性が高まる一方です。
築年数の壁を超える「億ション」の広がり
築25年でも1億円超
かつて「億ション」は築浅の高級物件に限られていましたが、いまでは築25年未満の物件まで平均価格が1億円を超える状況です。築10〜15年の中古マンションの平均価格は過去5年で217.6%も上昇し、7275万円に達しています。築15〜20年でも212.5%の上昇率を記録しています。
この傾向は、都心部の立地そのものに対する評価が高まっていることを示しています。建物の経年劣化による減価を、立地の価値上昇が大きく上回っているのです。
「過度な強気」への変化
一方で、市場には変調の兆しも見え始めています。東京カンテイのレポートでは、23区の中古マンション市場が「過度な強気」の局面に入りつつあるとの分析もあります。売り出し価格と成約価格の乖離が広がれば、価格調整のきっかけになる可能性があります。
注意点・展望
金利上昇リスク
今後の最大のリスク要因は金利の上昇です。日銀は金融政策の正常化を進めており、2026年中に追加利上げが行われる可能性が市場で意識されています。住宅ローンの変動金利が0.5%から2.0%に上昇した場合、5000万円を35年ローンで借りた場合の月々の返済額は約3万6000円増加します。
金利上昇は購買力の低下を通じてマンション需要を抑制する要因となります。ただし、専門家の間では「都心部の価格が半額近くまで下がることは考えにくい」との見方が大勢です。
二極化の加速
2026年のマンション市場は「都心一強」の構図が続くと予想されています。立地の優劣による価格差はさらに拡大し、都心の好立地物件は堅調な一方、郊外や利便性の低い物件では価格調整が進む可能性があります。ベストな立地に次ぐ「セカンドベスト」「サードベスト」の立地への需要拡大も注目されています。
人口動態の転換点
東京都の人口は2025年にピークを迎え、その後は減少に転じると予測されています。長期的には人口減少がマンション需要の下押し圧力になりますが、短中期的には都心部への人口集中が続くため、23区の需要が急激に落ち込む可能性は低いと見られています。
まとめ
東京23区の中古マンション平均価格が1億2000万円を突破した背景には、新築マンションの供給不足、富裕層やパワーカップルの旺盛な需要、海外投資家の資金流入、都心再開発による希少価値の向上という複数の構造的要因が絡み合っています。
今後の焦点は日銀の金利政策です。利上げが進めば住宅ローンの負担増を通じて需要を抑制する可能性がありますが、都心部の供給不足という構造的な問題が解消されない限り、大幅な価格下落は見込みにくい状況です。住宅購入を検討している方は、金利動向を注視しつつ、立地の将来性や資産価値を冷静に見極めることが重要です。
参考資料:
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