アシックス快走、時価総額3兆円突破でナイキ・アディダスを追撃
はじめに
日本のスポーツ用品メーカー、アシックスが世界市場で快走を続けています。2025年8月には株式時価総額が初めて3兆円を突破し、過去3年間で株価は約7倍に急騰しました。ナイキやアディダスといった世界の「巨人」の背中を捉え、ランニングシューズ市場で存在感を高めています。
その躍進の背景には、「選択と集中」による経営改革と、ランニング市場への集中投資がありました。しかし、株価は2025年後半にかけて高値警戒感から伸び悩む局面も。さらなる上値を追うには、需要予測の精度向上とサプライチェーン改革が課題となっています。
本記事では、アシックスの成長戦略と市場環境、そして今後の見通しについて詳しく解説します。
アシックスの躍進を支える業績
時価総額3兆円の大台突破
2025年8月、アシックスは2025年12月期の連結純利益が前期比36%増の870億円になる見通しだと発表しました。ランニングシューズの販売好調を受けて業績予想を上方修正し、年間配当も従来予想より2円多い28円に引き上げました。
この発表を受けて株価は上昇し、時価総額は初めて3兆円を突破。2025年11月にはさらに業績予想を上方修正し、純利益は前期比41%増の900億円に達する見込みとなりました。
売上高も過去最高を更新
2025年第1四半期の業績は特に好調で、売上高は前年同期比19.7%増の2,083億円、営業利益は31.6%増の445億円を記録しました。2025年度通期では売上高7,800億円を見込んでおり、前年比17%の成長を予測しています。
成長を牽引しているのは、主力のランニングシューズに加えて、インバウンド需要に支えられた高級ブランド「オニツカタイガー」の好調です。スポーツスタイル部門は43%という高い成長率を記録しています。
世界市場でのポジション変化
ナイキ・アディダスの苦戦
かつてスニーカー市場はナイキとアディダスが支配していました。売上規模ではナイキが約6兆円、アディダスが約3兆円と、アシックスとは依然として大きな差があります。
しかし近年、この構図に変化が生じています。ナイキは純利益が大幅減となる局面があり、アディダスやプーマも苦戦を強いられています。一方、アシックスに加えて、スイス発のOn(オン)、フランス発のHOKA(ホカ)といった新興ブランドが急成長し、市場の主役交代が進んでいます。
ランニングシューズ市場でのシェア拡大
世界のランニングシューズ市場は2024年時点で155億ドル(約2.3兆円)規模とされ、2032年には220億ドル(約3.3兆円)まで成長すると予測されています。年平均成長率は5.3%です。
この成長市場において、アシックスは着実にシェアを拡大しています。ある調査では、好きなランニングシューズブランドとしてアシックスが16%の支持を集め、トップに立ちました。
地域別では、欧州でのランニングカテゴリーのシェアは2022年時点で推定25%。新興市場を含む欧州での卸売成長率は28.7%を記録しています。北米でも、2026年までにランニングカテゴリーで25%のシェア獲得を目指しています(2022年時点では推定9%)。
成長を支える「選択と集中」戦略
ランニングへの経営資源集中
アシックスの躍進を語る上で欠かせないのが、2018年に社長に就任した廣田康人氏(現会長)による経営改革です。廣田氏はランニングシューズ事業の再強化を掲げ、製品イノベーションとグローバル展開を柱とする戦略を推進しました。
核心は「選択と集中」です。アシックスは自社の強みが最も活きる領域である「ランニング」に経営資源を集中投下することを決断しました。コロナ禍で健康志向が高まりランニング市場が拡大する中、この戦略が見事に奏功しました。
技術力による差別化
アシックスのランニングシューズが海外で高評価を受けている理由は、生体力学(バイオメカニクス)に基づいた設計にあります。安定性を重視した設計と精密なクッショニングは、長距離ランナーや怪我を抱えやすいランナーから支持されています。
2025年3月には、クラウドのような履き心地を実現した新製品「GEL-NIMBUS 27」を発表。製品イノベーションによる差別化を継続しています。
サプライチェーン改革の課題
在庫回転率の改善目標
市場からの高い評価を維持するためには、需要予測の精度向上とサプライチェーンの効率化が不可欠です。アシックスは「中期経営計画2026」において、在庫回転日数を2023年の170日から2026年には140日未満に短縮する目標を掲げています。
具体的には、本社と各地域の販売会社が連携してカテゴリー別の需給管理を強化し、生産データと販売データを連携させたサプライチェーンマネジメントを構築する計画です。
グローバルサプライチェーンのリスク
一方で、グローバルサプライチェーンには複雑さとリスクが伴います。地政学的緊張、自然災害、物流の混乱など、さまざまな要因が原材料の調達や製品の配送に影響を与える可能性があります。
アシックスは世界中のサプライヤーと製造業者に依存しており、輸送ネットワークの混乱は市場への製品供給能力に深刻な影響を与えかねません。インドでは、新たな輸入規制への対応と安定したサプライチェーン確保のため、現地生産比率を30%から40%に引き上げる計画を進めています。
今後の注意点と展望
株価の高値警戒感
アシックスの株価は過去3年で約7倍に上昇しましたが、2025年後半には高値警戒感から伸び悩む局面もありました。PER(株価収益率)などのバリュエーション指標が割高な水準にあるとの見方もあり、今後の株価上昇には継続的な業績成長が求められます。
成長継続の鍵
今後の成長を左右するポイントは以下の通りです。
北米市場でのシェア拡大: 2026年までに北米ランニングカテゴリーで25%のシェア獲得を目指していますが、現状の9%からの大幅な引き上げには、マーケティング強化と販売網拡大が必要です。
サプライチェーン効率化: 在庫回転日数の短縮は利益率改善に直結します。需要予測精度の向上が課題です。
競争環境の変化: OnやHOKAなど新興ブランドとの競争が激化しています。製品イノベーションと価格競争力の維持が重要です。
ランニングエコシステムの拡大
アシックスは「ランニングエコシステム」の拡大を成長戦略の柱に据えています。シューズ販売だけでなく、ランナー向けのデータ管理サービスやコミュニティ構築など、ランニングを軸としたエコシステム全体での価値創造を目指しています。
最近の海外2社の買収も、ランナーの登録データの一元化を世界規模で進めるグローバル戦略の一環です。
まとめ
アシックスは「選択と集中」戦略により、ランニングシューズ市場で世界的な存在感を高めています。時価総額3兆円突破は、同社の戦略が市場から高く評価された証です。
ただし、さらなる成長にはサプライチェーン改革による効率化と、北米市場でのシェア拡大が不可欠です。株価の高値警戒感が漂う中、期待に応え続けるためには、継続的な業績成長が求められます。
世界のランニングシューズ市場は今後も成長が見込まれており、アシックスにとっては追い風の環境です。ナイキやアディダスという巨人に、日本企業がどこまで迫れるか。スポーツ産業の勢力図を塗り替える挑戦は、まだ始まったばかりです。
参考資料:
- スニーカー戦争の主役が変わった!ナイキの時代に終止符を打ったアシックスの強みとは? - ダイヤモンド・オンライン
- ASICS Trend 2025: Record Growth in Running Shoes & SportStyle - Accio
- EXEC: Asics Expands 2026 Plan as Company Drives Past 2023 Targets - SGB Media
- Running Shoes Market Outlook 2025-2032 - Intel Market Research
- ASICS SWOT Analysis 2025 - Business Model Analyst
- アシックス決算情報 - ASICS Corporation
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