ベッセント氏「為替介入せず」で円急落、背景を読む
はじめに
2026年1月28日のニューヨーク外国為替市場で、円相場が一時1ドル=154円台前半まで下落しました。きっかけは、ベッセント米財務長官が米CNBCのインタビューで「為替介入は絶対にしていない」と明確に否定したことです。
この発言の前後で1円数十銭ほど円安・ドル高が進行しました。1月下旬には円が2カ月ぶりの高値をつけるなど、米国当局による介入観測が浮上していただけに、市場への影響は大きなものとなりました。
本記事では、ベッセント発言の背景、介入観測が浮上した経緯、そして今後の円相場の見通しについて解説します。
介入観測はなぜ浮上したのか
NY連銀のレートチェックが発端
介入観測が広がったのは、1月26日にロイター通信が報じた「ニューヨーク連邦準備銀行がディーラーに対してドル円のレートチェックを実施した」というニュースがきっかけです。レートチェックは為替介入の前段階とみなされることが多く、市場ではドル売り・円買いが加速しました。
この報道を受けて、円は対ドルで2カ月ぶりの高値を記録しています。日本の高市早苗首相も「投機的な動きに対しては必要な措置を取る」と発言し、介入への警戒感が一段と高まっていました。
ドル安の進行が背景に
ドルの総合的な価値を示すドル指数は、1年前と比較して10%以上下落しています。トランプ大統領が「現在のドルの水準は素晴らしい」と発言したことも、ドル安容認と受け止められ、ドル売りに拍車をかけていました。
こうした状況下で、米国が日本と協調して円買い介入に踏み切るのではないかとの観測が市場に広がっていたのです。
ベッセント発言の中身と影響
「絶対にしていない」と明確に否定
CNBCのインタビューでサラ・アイゼン記者から「米当局は現在、円買い介入を行っているのか」と問われたベッセント長官は「Absolutely not(絶対にしていない)」と即座に否定しました。
さらに今後の介入予定についても「コメントは控えるが、強いドル政策を維持している」と述べ、ドル安を積極的に進める意図がないことを強調しています。
ドルが急反発、円は下落
ベッセント長官の発言を受けて、ドル指数は0.5%上昇し96.391まで回復しました。4年ぶりの安値からの反発です。一方、円は対ドルで1%下落し、154円台前半まで値を下げています。
介入期待で円を買っていた投資家がポジションを巻き戻したことが、急速な円安進行の要因です。
日米の通貨政策の温度差
ベッセント長官の一貫した姿勢
ベッセント財務長官は就任以来、円安問題に対して一貫した立場を示しています。それは「為替レートの調整は日本銀行の金融政策によって自然に行われるべきだ」というものです。
2025年10月の日米財務相会談では「健全な金融政策の策定とコミュニケーションが重要」と強調し、2025年8月の日経新聞インタビューでも「日銀がインフレ率や成長率に焦点を当てて政策を進めれば、為替レートは自然と調整される」と述べています。
日本国債市場の混乱も影響
ベッセント長官が円安問題に慎重な姿勢を取る背景には、日本の超長期国債利回りの急騰もあります。2026年1月20日には40年物国債の利回りが4%に到達し、10年物も2.38%と27年ぶりの高水準を記録しました。
ベッセント長官は日本の国債売りが米国の債券市場に波及するリスクを懸念しており、「日本からのスピルオーバー効果を分離するのは難しい」と発言しています。片山さつき財務相と日本国債の急落について協議したことも報じられています。
米国は2011年以来の協調介入なし
米国が日本との協調為替介入に参加したのは、2011年3月の東日本大震災後に円売り介入を実施した時が最後です。それ以降、米国は為替市場への直接介入には極めて消極的な姿勢を維持しています。
注意点・展望
今後の円相場を左右する要因
円相場の方向性を決める最大の材料は、日銀の金融政策です。日銀は2025年12月に政策金利を30年ぶりの高水準に引き上げましたが、さらなる利上げのペースが市場の焦点となっています。
米国側では、FRBが1月28日のFOMCで金利を据え置きましたが、年内2回の利下げ期待は残っています。日米金利差が縮小に向かえば、円高圧力が強まる可能性があります。
日本の単独介入の可能性
米国が協調介入に否定的な姿勢を示した以上、日本が為替介入に踏み切る場合は単独での実施となります。高市首相は「必要な措置を取る」と述べており、急激な円安が進行した場合には単独介入の可能性は排除されていません。
ただし、ベッセント長官が「特定の通貨目標を求めない」としつつも「G7の合意を尊重するよう期待している」と述べていることから、日本の単独介入に対する米国の反応にも注意が必要です。
152~155円のレンジを注視
現在のドル円相場は152~155円台のレンジで推移しています。FOMCの結果、トランプ政権の政策発言、日銀の金融政策決定会合が今後の主な変動材料です。特にトランプ大統領のドル安容認発言と、ベッセント長官の強いドル政策との間に生じるメッセージの不一致が、市場のボラティリティを高める要因となり得ます。
まとめ
ベッセント米財務長官の「為替介入は絶対にしていない」という明確な否定は、市場の介入期待を一掃し、円安・ドル高を急速に進行させました。ベッセント長官は一貫して、円安是正は日銀の金融政策正常化によって達成されるべきだとの立場を示しています。
今後の円相場は、日銀の追加利上げのタイミング、FRBの利下げペース、そしてトランプ政権の通貨政策に関する発言が鍵を握ります。為替市場のボラティリティが高まる局面では、発言一つで相場が大きく動く展開が続く可能性があり、各国の政策当局者の発言を注意深くフォローすることが重要です。
参考資料:
- Scott Bessent shuts down report of potential U.S. currency market intervention
- Dollar weakens across the board as yen climbs on intervention risk
- Yen slips after Bessent says US ‘absolutely not’ intervening - Nikkei Asia
- Bessent says US has strong dollar policy, ‘absolutely not’ intervening to support yen
- 日本国債利回り急上昇の背景と今後の注目点
- FOMC、ややドル高の反応 ドル円は一時154円台
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