ケアマネ「影の仕事」が深刻化、担い手不足の実態
はじめに
介護保険制度の「要」とされるケアマネジャー(介護支援専門員)の人材不足が深刻化しています。2025年度の試験受験者数は約5万600人にまで落ち込み、直近5年間で最少となりました。要介護者が増え続ける一方で、ケアマネジャーのなり手が減り続けるという構造的な問題が浮き彫りになっています。
その大きな要因の一つが、「シャドーワーク」と呼ばれる報酬対象外の業務の常態化です。本記事では、ケアマネジャーが抱えるシャドーワークの実態と、厚生労働省が打ち出す対策の最新動向を解説します。
ケアマネジャーのシャドーワークとは
報酬にならない「見えない仕事」
シャドーワークとは、制度上の報酬や評価の対象にならないにもかかわらず、業務の中で日常的に行われている「見えない仕事」のことです。ケアマネジャーの本来の業務は、利用者の状態を把握し、介護サービスの利用計画(ケアプラン)を作成・管理することにあります。しかし、実際の現場では本来の役割を大きく超えた業務が求められています。
具体的なシャドーワークには、以下のようなものがあります。
- 通院への同行: 加算の対象にならない形での病院への付き添い
- 家事の手伝い: 掃除、洗濯、買い物の代行
- 行政手続きの支援: 各種申請書類の作成や提出の代行
- 公共料金の支払い代行: 電気・ガス・水道料金の支払い
- 救急搬送時の同乗: 緊急時の病院への付き添い
- 関係機関との調整連絡: 医療機関や行政との電話対応
「目の前に困っている人がいると放っておけない」という使命感から、多くのケアマネジャーがこうした業務を無償で引き受けているのが実情です。
独居高齢者の増加が拍車
シャドーワークが拡大する背景には、独居高齢者の増加があります。家族の支援が得られない利用者にとって、ケアマネジャーは頼れる唯一の存在になりがちです。本来であれば家族が担うべき買い物や通院の同行、行政手続きなどが、ケアマネジャーに集中する構造が生まれています。
また、介護保険制度の複雑さも問題を助長しています。利用者やその家族が制度を十分に理解できず、ケアプラン作成以外のあらゆる相談がケアマネジャーに持ち込まれるケースが後を絶ちません。
深刻化するなり手不足
受験者数は5年で最少に
ケアマネジャー試験(介護支援専門員実務研修受講試験)の受験者数は、減少傾向が続いています。2024年度(第27回)は5万3,718人で5年ぶりの減少を記録し、2025年度(第28回)はさらに3,097人減の5万602人にまで落ち込みました。
資格保有者は約76万人いるものの、実際にケアマネジャーとして働いている人は約18万人にとどまります。資格を持つ人の8割近くが現場にいないという「空洞化」が深刻な課題です。
なり手が減る3つの理由
ケアマネジャーのなり手が減っている主な原因は以下の3つです。
1. 給与面での逆転現象
近年の介護職員に対する処遇改善加算の拡充により、一般の介護職員との賃金格差が縮小、場合によっては逆転しています。ケアマネジャーは介護福祉士などの資格を持った上でさらに試験に合格する必要があり、責任も重い立場ですが、それに見合った報酬が得られていないと感じる人が増えています。
2. 5年ごとの更新制の負担
ケアマネジャーの資格は5年ごとに更新研修を受ける必要があります。研修には数日間を要し、費用も自己負担の場合があります。この更新制度がケアマネジャーの継続意欲を削ぎ、離職の一因になっていると指摘されています。
3. シャドーワークによる疲弊
前述の通り、報酬対象外の業務に追われることで本来の専門業務に集中できず、やりがいが失われていきます。膨大な書類作成義務と合わせて、心身の疲弊が離職を招いています。
国と自治体の対策
厚労省が業務を初めて分類
厚生労働省は2024年12月に「ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会」の報告書をまとめ、ケアマネジャーの業務を初めて本格的に分類しました。具体的には以下の4つに仕分けています。
- 法定業務: ケアプラン作成・モニタリングなど本来業務
- 保険外サービスとして対応し得る業務: 通院同行や家事支援など有償化が可能な業務
- 他機関につなぐべき業務: 行政手続きなど本来は別の窓口が対応すべき業務
- 対応困難な業務: ケアマネジャーが担うべきではない業務
2025年4月の財政制度等審議会では、シャドーワークの一部を保険外サービスに位置付けることで、ケアマネジャー自身の収入増や負担軽減につなげるべきだとの意見も出されました。
受験要件の緩和と更新制の廃止
厚労省は、なり手を確保するための制度改革にも着手しています。主な施策は以下の通りです。
- 実務経験要件の短縮: 受験に必要な実務経験年数を現行の5年から3年に見直す案
- 受験対象資格の拡大: 診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士、公認心理師の5つの国家資格を新たに受験対象に追加する案
- 更新制の廃止: ケアマネジャーの負担軽減を目的に、5年ごとの更新研修を廃止する方針
2025年10月の社会保障審議会介護保険部会でも更新制廃止の方向性が示され、制度改正に向けた具体的な議論が進んでいます。
自治体独自の取り組み
自治体レベルでも対策が始まっています。東京都は2025年9月から「介護支援専門員再就業・定着奨励金」制度を開始しました。3か月以上離職していたケアマネジャーが復職し、6か月以上継続して勤務した場合に10万円を支給する仕組みです。
また、厚労省は2025年度から、事務職員の採用・研修支援、シャドーワークに関する相談窓口の設置、本来業務以外の業務について関係団体が受け皿を作るための支援などを補助対象経費に含める新たな補助制度を設けています。
注意点・展望
制度改革だけでは不十分
受験要件の緩和や更新制の廃止は、なり手の裾野を広げる効果が期待されますが、それだけでは根本的な解決にはなりません。シャドーワークの有償化や業務の明確な線引きが実現しなければ、新たにケアマネジャーになった人材もまた同じ構造的な負担に直面する可能性があります。
また、2024年度の介護報酬改定では、ケアマネジャー1人あたりの担当件数上限が39件から44件に引き上げられました。業務効率化が前提とされていますが、ICT活用や事務職員の配置が進まなければ、負担増につながるリスクもあります。
「見えない仕事」の価値を社会全体で共有する
ケアマネジャーのシャドーワーク問題は、単に介護業界の内部課題ではありません。高齢化が進む日本社会において、独居高齢者の生活を支える仕組みをどう構築するかという社会全体の課題です。ケアマネジャーに過度な負担を集中させるのではなく、地域包括支援センターや民間サービス、ボランティアなど多様な担い手と連携する体制づくりが求められています。
まとめ
ケアマネジャーの人材不足は、シャドーワークの常態化、給与面での不満、更新制の負担という複合的な要因が絡み合っています。厚生労働省は受験要件の緩和や更新制の廃止、業務の分類と有償化といった対策を打ち出していますが、現場の負担軽減が実感できるかどうかが鍵を握ります。
要介護者が増え続ける中、ケアマネジャーの確保は待ったなしの課題です。シャドーワークの実態を広く社会に知ってもらい、ケアマネジャーが本来の専門性を発揮できる環境を整えることが、介護制度の持続可能性を左右するといえます。
参考資料:
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