立公新党「中道改革連合」、食品消費税ゼロを公約―財源5兆円の現実性
はじめに
立憲民主党と公明党は2026年1月16日、2月8日にも投開票が予想される次期衆議院選挙に向けて、新党「中道改革連合」を結成しました。両党の野田佳彦代表と斉藤鉄夫代表が国会内で記者会見し、物価高対策として食料品にかかる消費税率をゼロにする方針を打ち出しました。
最大の焦点は、年間5兆円にのぼる税収減をどのように補うかという財源問題です。新党は「赤字国債に頼らない財源確保」を前提とし、政府基金の取り崩しや外国為替資金特別会計の剰余金活用などを掲げています。この政策の実現可能性と経済効果を検証します。
中道改革連合の結成背景
自公連立解消と中道勢力の結集
公明党は2025年10月、26年間続いた自由民主党との自公連立政権を解消しました。翌11月には「中道改革」を掲げ、新たな政治路線を模索してきました。一方、立憲民主党も政権交代を目指す現実的な選択肢として、公明党との連携を強化してきました。
第51回衆議院議員総選挙を前に、自由民主党・日本維新の会の協力関係による保守色の強まりに対抗し、中道思想の結集を掲げて両党が合流したのが「中道改革連合」です。
新党の規模と選挙協力
新党には立憲民主党148人、公明党24人が参加予定で、全員が参加すれば衆議院で172議席を占めます。衆議院選挙の比例代表では統一名簿を作成し、小選挙区では旧公明党側が候補擁立を見送り、旧立憲民主党側の候補を支援する形で選挙協力を行う予定です。
斉藤氏は「中道主義という共通の旗印のもとに結集し、包摂主義、共生社会を目指す」と述べ、野田氏は「自民党の右傾化を食い止めるため、中道を分厚くする。政権交代に向けた現実的な選択肢を示す」と決意を表明しました。
基本政策の方向性
中道改革連合は「生活者ファースト」を政策理念に掲げ、物価高対策を最重要課題に位置づけています。また、「現実的安保」「政治改革」も綱領に盛り込まれる方向で調整されています。
食料品消費税ゼロは、この「生活者ファースト」の象徴的な政策として位置づけられており、2月27日公示が見込まれる衆議院選挙の公約にも反映される見通しです。
食品消費税ゼロ政策の詳細
制度の概要
立憲民主党が2025年夏の参議院選挙公約で発表した案では、食料品の消費税率を2026年4月から原則1年間ゼロにするとしています。中道改革連合の政策ではこの期間が延長される可能性もあります。
この政策により、国民1人あたり年4万円の減税になると試算されています。片働き夫婦と子供2人の4人世帯では、家計負担が平均で年間6.4万円減少する効果が見込まれています。
必要財源は年5兆円
飲食料品の消費税をゼロにすると、年間約5兆円の税収減が発生します。これは消費税の税収全体の約4分の1に相当する巨額の財源です。
消費税は現在、社会保障費の主要な財源となっているため、この減収をどう補うかが最大の課題となります。
提案されている財源確保策
中道改革連合は「赤字国債に頼らない財源確保」を前提とし、以下の財源を掲げています。
1. 政府基金の取り崩し: 各省庁が保有する基金には、使途が明確でない資金や執行が進んでいない基金が多数存在します。これらを精査し、活用可能な資金を捻出するという案です。
2. 外国為替資金特別会計(外為特会)の剰余金: 外為特会は円売りドル買い介入などで生じた剰余金を保有しています。この一部を一般会計に繰り入れて財源に充てる構想です。
3. 租税特別措置の見直し: 企業への税制優遇措置である租税特別措置を見直し、効果が薄いものや既得権益化しているものを廃止・縮小することで財源を確保します。
4. 税収の上振れ分: 経済成長により税収が予算を上回った場合の上振れ分を活用する案です。名目成長率2~3%、税収増4~6%が続けば、2年間で5兆円の税収減をカバーできるとの見方があります。
公明党の西田実仁幹事長は、「政府系投資ファンドを創設し、つくり出した財源を活用する」との独自案も示しています。
実現可能性の検証
財務省の反発は必至
消費税の税収は社会保障費に充てられているため、財務省は消費減税に強く反対する姿勢を示しています。財務省幹部は「消費減税をするなら、社会保障の整備が薄くなる」と指摘しており、年5兆円の減収を他の財源で恒久的に補うことは極めて困難だとの立場です。
仮に1年間の時限措置であれば実現可能性は高まりますが、恒久措置となれば「永遠に毎年5兆円程度の減収が生じる」ことになり、財政規律の観点から大きな問題となります。
財源確保策の現実性
政府基金: 確かに基金には余剰資金が存在しますが、5兆円規模の財源を継続的に捻出できるかは疑問です。1年目は可能でも、2年目以降の財源確保は困難になる可能性が高いです。
外為特会の剰余金: 外為特会の剰余金は為替介入の原資でもあり、全額を一般会計に繰り入れることは為替政策の柔軟性を損なうリスクがあります。また、毎年5兆円規模の剰余金が発生するわけではありません。
租税特別措置の見直し: 既得権益となっている税制優遇措置の廃止は、関係業界や与党内からの強い抵抗が予想されます。政治的に実現困難な財源と言えます。
税収上振れ: 経済成長による税収増は不確実性が高く、景気後退局面では逆に税収が減少するリスクもあります。安定的な財源とは言えません。
連合の慎重姿勢
立憲民主党の支持母体である連合の芳野友子会長は、「消費税減税は考えていない。財源が重要」と慎重な姿勢を示しています。労働組合側も、社会保障財源の不足を懸念しており、党内外から財源問題への疑問の声が上がっています。
経済効果の評価
GDP押し上げ効果
第一生命経済研究所の試算によれば、5兆円の給付金を1回支給する場合のGDP押し上げ効果は1年間で0.21%程度、消費税率引き下げは0.43%程度です。消費税減税の方が、給付金よりも経済効果が高いという結果になっています。
これは、消費税減税が直接的に物価を引き下げ、実質所得を増やすことで消費を刺激する効果があるためです。
家計への影響
国民1人あたり年4万円、4人世帯で年6.4万円の負担軽減は、物価高に苦しむ家計にとって大きな助けとなります。特にエンゲル係数(家計消費支出に占める食費の割合)が上昇している低所得層にとって、食料品の負担軽減効果は大きいと言えます。
長期的な財政リスク
一方で、恒久措置となれば毎年5兆円の減収が続き、1年限りの給付金と比べて「格段に大きなコストとなる」との批判的な分析もあります。社会保障費の財源不足が深刻化し、将来世代へのツケ回しになるリスクが指摘されています。
他党の反応と政治的影響
自民党も前向き検討
時事通信によれば、自民党も「食品消費税ゼロ」に前向きな姿勢を示しており、次期衆議院選挙の公約に盛り込む方向で調整しています。中道改革連合の政策が選挙戦の争点となることで、各党が同様の政策を競う「減税ポピュリズム」の様相を呈する可能性があります。
ポピュリズムへの懸念
野村総合研究所の木内登英氏は、「参院選に向けて減税ポピュリズムはさらに強まるか」との見出しで警鐘を鳴らしています。選挙目当ての「人気取り」政策が、財政規律を損ない、長期的な経済の健全性を損なうリスクを指摘しています。
全政党が具体的で実現可能な財源を示さないまま減税を叫ぶ状況は、有権者にとって判断材料を欠くことになります。
注意点・今後の展望
時限措置か恒久措置か
食品消費税ゼロを「1年間の時限措置」とするか「恒久措置」とするかで、必要な財源規模と政策の実現可能性が大きく変わります。時限措置であれば財源確保のハードルは下がりますが、1年後に再び税率が戻れば、消費の反動減や混乱が生じるリスクがあります。
社会保障財源の代替策
消費税は社会保障の主要財源であり、その減収分をどう補うかの具体策が不可欠です。単に「基金の取り崩し」や「外為特会の活用」では、持続可能な財源とは言えません。中長期的な社会保障制度の設計と一体で議論する必要があります。
実務上の課題
食品と非食品の線引きをどう行うかという実務的な課題もあります。外食は対象か、加工食品の範囲はどこまでか、といった詳細を詰める必要があり、軽減税率の導入時にも混乱が生じた経緯があります。
まとめ
中道改革連合が掲げる「食品消費税ゼロ」政策は、物価高に苦しむ家計への直接的な支援策として魅力的に映ります。国民1人あたり年4万円の負担軽減は、特に低所得層にとって大きな助けとなる可能性があります。
しかし、年5兆円の財源を赤字国債に頼らず確保できるかという点には、大きな疑問符が付きます。提案されている財源確保策は、いずれも継続性や実現可能性に課題があり、財務省や連合からも慎重論が出ています。
経済効果としては、GDP押し上げ効果が期待できる一方、恒久措置となれば財政リスクが増大します。「減税ポピュリズム」に陥らず、持続可能な財政運営と社会保障制度の維持を両立する具体策が求められます。
2月8日の衆議院選挙に向けて、各党がどのような財源論を示し、有権者がどう判断するか。中道改革連合の政策提案は、日本の財政・税制のあり方を問う重要な論点となるでしょう。
参考資料:
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