中国の軍備増強とデフレ深刻化、経済への影響を分析
はじめに
古代中国の軍事戦略書『孫子の兵法』は「兵は国の大事なり」と説き、戦争は国家の存亡に関わる重大事であるため軽々しく始めてはならないと警告しています。しかし同時に、どうしても戦わねばならない局面に備え、日頃からあらゆる準備をせよとも説いています。
現代の中国が、まさにこの「戦争準備」を急速に進めています。2025年の国防費は前年比7.2%増の約36兆7600億円に達し、4年連続で7%超の伸びを記録しました。台湾周辺での大規模軍事演習も常態化しています。一方で中国経済は深刻なデフレに直面し、不動産危機は4年以上続いています。軍事と経済のジレンマが深まる中、2026年の中国はどこへ向かうのでしょうか。本記事では、中国の軍備増強とデフレ経済の実態を詳しく解説します。
中国の軍事力増強と台湾周辺での活動
継続的な国防費の増加
中国の国防費は年々増加を続けています。2025年の国防費は1兆7846億元(約36兆7600億円)で、前年比7.2%の増加となりました。この伸び率は4年連続で7%を超えており、習近平政権の軍事力強化への強い意志を示しています。
ただし、専門家は中国の実際の軍事支出は公表値を大幅に上回ると指摘しています。研究開発費や武器調達費の一部が別の予算に計上されているためです。実質的な軍事費は公表値の1.5倍から2倍に達するという見方もあります。
台湾周辺での大規模軍事演習
2025年12月29日から30日にかけて、中国軍は台湾周辺で「正義使命―2025」と名付けた大規模軍事演習を実施しました。この演習には陸海空軍に加え、ミサイル部隊であるロケット軍、さらに海警局も参加。中国軍機89機、軍艦・船舶28隻が台湾周辺で活動しました。
演習では台湾の主要港湾である基隆港と高雄港の封鎖を想定した訓練が行われ、北部・南西部の海上目標に対する実弾射撃も実施されました。台湾交通部によると、この演習により10万人以上の航空便利用者に影響が出たとされています。
演習の背景にある政治的意図
今回の軍事演習は、いくつかの政治的出来事を背景としています。米国が台湾に110億ドル(約1兆7000億円)相当の武器売却を承認したこと、そして日本の高市早苗首相が台湾有事を「存立危機事態」に該当しうると答弁したことへの対抗措置とみられています。
中国の習近平指導部は台湾統一に向けた武力行使の選択肢を排除しておらず、頼清徳政権を「独立分裂勢力」と敵視しています。このような大規模演習は2022年以降常態化しており、台湾国防部は中国軍が演習を装って実際の侵攻作戦に移行する可能性について警鐘を鳴らしています。
深刻化するデフレと経済低迷
38か月連続のPPIマイナス
中国経済は深刻なデフレ圧力に直面しています。工業生産者出荷価格(PPI)は38か月連続で前年同月比マイナスを記録しており、デフレからの脱却の兆しは見えていません。
背景には過剰生産の問題があります。電気自動車(EV)をはじめとする製造業で供給過剰が顕著となり、国内では「内巻」と呼ばれる行き過ぎた値下げ競争が起きています。売れ残った製品は輸出に回され、中国の「デフレ輸出」は世界経済のかく乱要因となりつつあります。
4年以上続く不動産危機
中国経済を蝕む最大の問題が、4年以上続く不動産危機です。不動産販売面積はピークだった2021年の半分まで減少し、2025年1月から11月の不動産開発投資は前年比15.9%減と極端な不振が続いています。
不動産セクターは波及効果を含めるとGDPの25%を占めるとされており、この大規模な調整が内需低迷の最大の要因となっています。逆資産効果から個人消費が弱くなり、土地財政に頼っていた地方政府の財政も逼迫しています。
2025年の経済成長
こうした逆風の中でも、2025年の中国経済は政府目標である「前年比5%前後」の成長をかろうじて達成したとみられています。大和総研は2025年の実質GDP成長率を4.9%程度と推計しています。
成長を下支えしたのは、トランプ政権による追加関税の影響が想定ほど大きくなかったこと、そして家電・自動車・通信機器の買い替えに対する補助金政策が奏功したことです。しかし、この成長は持続可能なものではなく、構造的な問題は解決されていません。
2026年の経済見通しと政策対応
4%台への成長鈍化
2026年の中国経済は減速傾向を強める見通しです。大和総研は実質GDP成長率を4.4%程度、伊藤忠総研は4.3%と予測しています。複数のシンクタンクが4%台前半への減速を見込んでいます。
減速の主な要因は、耐久消費財への補助金政策が一巡し反動減が懸念されること、不動産不況が継続すること、そして相対的な需要不足という構造的問題が解消されないことです。
第15次5カ年計画の始動
2026年は中国にとって第15次5カ年計画(2026〜2030年)の初年度となります。2025年10月に共産党は計画の骨格をまとめましたが、その内容は米国への対抗心があらわなものでした。
科学技術の「自立自強」を旗印に国産化の加速を掲げ、AIや半導体といった先端産業の振興に巨額の投資を継続する方針です。米国に依存しないサプライチェーンの構築を急いでおり、経済安全保障を重視する姿勢が鮮明となっています。
内需拡大政策の限界
2024年12月の中央経済工作会議では「さらなる積極的な財政政策」と「緩和的な金融政策」の実施が決定されました。消費の強力な促進、投資効果の向上、国内需要の拡大が重点施策として示されています。
しかし、大幅な財政支出拡大には慎重な姿勢であり、不動産不況への踏み込んだ対応策は示されていません。地方政府の債務問題も深刻化しており、財政出動の余地は限られています。
軍事と経済のジレンマ
増大する軍事費と経済停滞
中国が直面しているのは、軍事と経済のジレンマです。台湾統一への意志を示し、米国との競争に備えるために軍事費を増やし続ける一方、経済は構造的な低迷に陥っています。
国防費が毎年7%以上増加する中、内需は低迷し、不動産危機は解決の糸口が見えません。軍事費の増加は財政を圧迫し、経済再生のための財政出動を制約する可能性があります。
長期的な成長力の低下
さらに懸念されるのは、中国の長期的な成長力の低下です。人口減少と少子高齢化の急速な進展、住宅需要の減退、過剰投資と投資効率の低下、過剰債務問題、「国進民退」(国有企業優遇・民間企業冷遇)問題など、構造的な課題が山積しています。
大和総研は2026〜2030年の実質GDP成長率を平均3.8%程度、2031〜2035年を同2.7%程度と予想しています。高度成長期の中国は終わりを迎え、中成長から低成長へと移行していく見通しです。
注意点・今後の展望
2027年問題
米国では「2027年に中国が台湾に侵攻する態勢を整える」との分析があり、台湾軍も2025年の軍事演習で2027年の侵攻を想定したシナリオを使用しています。習近平国家主席が2027年までの台湾統一準備を指示したとの報道もあります。
ただし、実際に軍事侵攻が行われるかは別問題です。経済の低迷、国際社会からの制裁リスク、軍事作戦の不確実性など、侵攻を思いとどまらせる要因も多く存在します。
世界経済への影響
中国のデフレと過剰生産は、世界経済にも影響を及ぼしています。安価な中国製品の輸出増加は、各国の国内産業と競合し、貿易摩擦を引き起こしています。EV、太陽光パネル、リチウムイオン電池などの分野で、欧米諸国は対中関税を引き上げる動きを見せています。
中国経済の減速が続けば、資源国や新興国経済にも悪影響が及ぶ可能性があります。世界第2位の経済大国の動向は、グローバル経済の行方を左右する重要な要素です。
まとめ
中国は「戦わずして勝つ」という孫子の教えを掲げながらも、台湾統一に向けた軍事力増強を着実に進めています。2025年の国防費は7.2%増加し、台湾周辺での大規模演習は常態化しています。一方で経済はデフレが長期化し、不動産危機は4年以上続いています。
2026年の中国経済は4%台前半への成長鈍化が見込まれ、デフレからの脱却も困難な状況です。軍事力増強と経済再生という二つの課題を同時に追求する中国の前途には、多くの困難が待ち受けています。日本を含む周辺国にとって、中国の動向を注視し、適切な対応を準備することがますます重要となっています。
参考資料:
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