中国とロシアが原発建設で圧倒的シェア、新興国への影響力拡大
はじめに
中国とロシアが世界の原子力発電所建設市場で圧倒的な地位を築いています。世界原子力協会(WNA)と国際原子力機関(IAEA)の集計によると、2025年に世界で新たに建設を開始した原発のうち、9割が中国とロシアが手掛けた案件でした。両国は国家主導で原発建設を推進し、ベースロード電源の開発と新興国への輸出で影響力を拡大しています。本記事では、中国とロシアの原発建設における優位性、新興国への技術輸出戦略、そして世界のエネルギー地政学に与える影響について詳しく解説します。
2025年の原発建設動向と中ロの圧倒的シェア
世界の原発建設統計
2025年に世界で新規に着工された大型原発は9基でした。内訳は中国で7基、ロシアで1基、韓国で1基となっており、中国とロシアだけで8基、全体の約89%を占めています。この傾向は2024年も同様で、着工された9基の原発のうち、中国製が7基(中国国内6基、パキスタン1基)、ロシア製が2基(ロシア国内1基、エジプト1基)でした。
2024年末時点で、世界で運転中の原子力発電所は417基、総発電容量は377GWです。これに加えて、62基・総容量64.4GWが建設中、23基・総容量19.7GWが運転停止中となっています。建設中・計画中の原発を合わせると158基に上り、その約60%を中国とロシアが占めています。
中国の原発建設ラッシュ
中国は建設中の原発の約半数を占める圧倒的なペースで原発を建設しています。2024年1月1日から2025年1月1日の期間中、中国では営業運転開始が2基、送電開始が1基あったほか、6基が着工、9基が計画入りしました。国内外合わせて50基(国内47基、海外3基)の原発プロジェクトを抱えており、これは全世界の建設中・計画中原発の約30%に相当します。
中国は脱炭素化とエネルギー安全保障の両立を目指し、原子力発電を「低炭素で安定供給可能なベースロード電源」と位置づけています。IAEAの高位シナリオによれば、世界の原子力発電容量は2024年末の377GWから2050年には992GWへと約2.6倍に増加する見込みで、中国はこの成長の中心的役割を果たすと予想されています。
ロシアの海外展開戦略
ロシアは国内23基、海外23基の合計46基の原発プロジェクトを抱えており、全世界の約30%を占めています。ロシア国営原子力企業ロスアトムは、中国、インド、トルコ、エジプト、バングラデシュなど11カ国から34基の原子炉建設を受注しており、世界原発建設市場でのシェアは67%に達するとの報告もあります。
ロシアは特に外交関係の深い国々で原発建設を進めています。インドのクダンクラム原発5・6号機、トルコのアックユ原発1~4号機、バングラデシュのループプール原発1・2号機、エジプトのエルダバー原発1~4号機、イランのブシェール原発などが代表的なプロジェクトです。
技術輸出を外交手段とする戦略
一帯一路構想との連携
中国の原発輸出戦略は「一帯一路」構想と密接に結びついています。2019年の中ロ首脳会談では、中国の「一帯一路」とロシアの「大ユーラシアパートナーシップ」構想の協力で合意しており、エネルギーインフラ整備を通じた影響力拡大が両国の共通戦略となっています。
2025年のデータによれば、中国の貿易黒字のうち一帯一路参加国からの黒字が40%を超え、対米国を逆転しました。インフラ投資と脱炭素化支援を通じて、中国はこれらの国々への影響力を強化しています。原発建設は数十年にわたる技術支援、燃料供給、メンテナンス契約を伴うため、経済的・政治的な結びつきを長期的に固める効果があります。
ロシアの核燃料サイクル支配
ロシアの原発輸出戦略の強みは、核燃料サイクル全体を支配していることです。ロシアはウラン濃縮の世界市場シェアの約50%を占めており、原発を建設した国に対して燃料供給でも長期的な影響力を維持できます。この燃料供給面での優位性が、欧米諸国がロシアの原子力部門に制裁を科すことを困難にしている要因となっています。
南アジアでは特にロシア原発の整備が進んでおり、脱炭素やエネルギー安全保障を理由に原発導入を進める国々が、ロシアの技術と資金支援に依存する構造が形成されつつあります。
国家主導の一括受注モデル
中国とロシアの原発輸出が成功している要因の一つは、国家主導の一括受注モデルです。設計から建設、運営、燃料供給、廃炉まで一貫して受注し、資金面でも政府系金融機関による低利融資を提供します。新興国にとっては初期投資の負担が少なく、技術移転も含めた包括的な支援が得られるため、魅力的な選択肢となっています。
これに対して欧米や日本の原発メーカーは、民間企業主体のため資金調達やリスク負担の面で競争力が劣っています。福島第一原発事故以降、原発建設のコストとリスクが高まったことも、欧米勢の競争力低下に拍車をかけています。
新興国におけるエネルギー安全保障と脱炭素化
ベースロード電源としての原発の重要性
原子力発電は、季節、天候、時間帯に関わらず安定的に供給できる「脱炭素化されたベースロード電源」として位置づけられています。再生可能エネルギーの拡大に伴い、出力変動への対応が課題となる中、原発は安定供給を担う電源として再評価されています。
新興国の多くは経済成長に伴う電力需要の急増に直面しており、低コストで低炭素なエネルギーを確保することがエネルギー安全保障上の最優先課題です。原発は燃料輸入依存度が低く、長期的な電力コストの安定化にも寄与するため、エネルギー自給率の向上を目指す国々にとって魅力的な選択肢となっています。
脱炭素化目標達成への貢献
世界各国が気候変動対策としてカーボンニュートラル目標を掲げる中、原子力発電は高い脱炭素効果を持つ電源として注目されています。太陽光や風力などの再生可能エネルギーだけでは供給の安定性に課題があり、化石燃料からの完全脱却を実現するためには原発の活用が不可欠との認識が広がっています。
中国とロシアは、この脱炭素化トレンドを追い風に、「クリーンエネルギー」としての原発を新興国に積極的に売り込んでいます。パキスタン、エジプト、ウズベキスタン、カザフスタンなどでは、気候変動対策とエネルギー安全保障の両立を目指す手段として原発導入が進められています。
新興国での具体的な動き
エジプトでは2024年1月にロシア製原子炉1基が着工、パキスタンでは同年12月に中国製原子炉1基が着工しました。ウズベキスタンは2024年5月にロシアとSMR(小型モジュール炉)原発の建設で合意、カザフスタンでは2024年10月に実施された国民投票で約70%が原発建設を支持しました。
これらの国々に共通するのは、エネルギー需要の増大、化石燃料への依存からの脱却、そして脱炭素化への対応という課題です。中国とロシアは、こうした新興国のニーズに応える形で原発建設を提案し、技術移転と資金支援を組み合わせた魅力的なパッケージを提供しています。
地政学的影響と欧米・日本の対応
エネルギー分野での影響力拡大
原発建設は単なるインフラ輸出ではなく、長期的な政治的・経済的結びつきを生み出します。建設後も燃料供給、技術支援、メンテナンス、人材育成などで継続的な関係が維持されるため、中国とロシアは原発輸出を通じて新興国への影響力を着実に拡大しています。
特にロシアは、ウクライナ侵攻後も原子力部門は欧米の制裁対象から外れており、エネルギー分野での影響力を保ち続けています。ウラン濃縮市場での支配的地位と、既存の原発への燃料供給を担っている現実が、欧米諸国の制裁を困難にしています。
欧米・日本の競争力低下
かつて世界の原発市場を主導していた欧米と日本は、競争力を急速に失っています。主な要因は、福島第一原発事故後の安全基準強化によるコスト増大、民間企業主体のビジネスモデルによる資金調達の困難さ、そして政府支援の不足です。
米国、フランス、日本などは、中国とロシアの原発市場支配に対抗するため、協力体制を模索しています。技術力では依然として優位性を持つものの、国家主導で低利融資を提供する中ロに対して、民間主導のビジネスモデルでは価格競争力で劣勢に立たされています。
今後の対抗策と課題
欧米と日本が原発市場での競争力を回復するためには、政府による資金支援の強化、官民連携の推進、そして安全性と経済性を両立した次世代炉の開発が不可欠です。特に、SMR(小型モジュール炉)などの新技術分野では、欧米勢がリードしており、この領域での優位性を活かすことが戦略的に重要となっています。
また、中国とロシアの原発建設に依存することの地政学的リスクを新興国に認識させ、安全性や透明性の高い代替案を提示することも重要です。日本は信頼性の高い技術力を強みに、ASEAN市場などでの巻き返しを目指していますが、資金面での競争力強化が課題となっています。
まとめ
2025年に世界で着工した原発の9割を中国とロシアが占め、建設中・計画中の原発の約6割を両国が手掛けるという圧倒的な地位を築いています。国家主導の一括受注モデル、低利融資、核燃料サイクルの支配、そして一帯一路構想との連携により、両国は原発輸出を外交手段として活用し、新興国への影響力を急速に拡大しています。
原子力発電が脱炭素化とエネルギー安全保障を両立するベースロード電源として再評価される中、中国とロシアはこのトレンドを追い風に市場支配を強めています。欧米と日本が競争力を回復するためには、政府支援の強化、官民連携の推進、そして次世代技術での優位性確保が不可欠です。
今後の世界のエネルギー地政学は、原発市場における中ロの優位性がどこまで持続するか、そして欧米・日本がどのような対抗策を講じるかによって大きく変わる可能性があります。新興国にとっては、エネルギー安全保障と脱炭素化を実現しつつ、特定国への過度な依存を避けるバランスが重要な課題となるでしょう。
参考資料:
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