気候変動がウィンタースポーツを脅かす深刻な現実
はじめに
2026年2月6日から開催されるミラノ・コルティナ冬季オリンピック。華やかな大会を前に、ウィンタースポーツ界は深刻な問題に直面しています。それは気候変動による雪不足です。
金メダル候補の日本人選手が練習場所を求めて海外の氷河まで遠征しても、十分な雪を確保できない現実。IOCは2040年までに冬季五輪を開催できる国が10か国に減少すると予測しています。このままでは、私たちが親しんできたスキーやスノーボードといった競技が「消滅」する可能性すらあるのです。
この記事では、気候変動がウィンタースポーツに与える影響と、選手たちの挑戦について詳しく解説します。
三木つばき選手の挑戦と雪不足の現実
金メダル候補が直面した試練
スノーボードアルペン女子の日本代表・三木つばき選手(22歳)は、2026年ミラノ五輪で金メダル最有力候補の一人です。2024-2025シーズンのワールドカップでは、パラレル大回転、パラレル回転、総合の3部門すべてで年間優勝を達成し、ランキング「1」が3つ並ぶという日本初の快挙を成し遂げました。
しかし、その五輪シーズンは雪不足との闘いから始まりました。オーストリアの名門氷河・カウナタールで練習を予定していた三木選手でしたが、夏場でも雪が望めるはずの氷河で積雪が足りず、石がむき出しの状態でした。
他国チームとの協力による練習場整備
三木選手はスタッフらと総出で練習場の石を取り除く作業が日課となりました。秋以降に新雪が降っても、他国の代表チームと協力しながらゲレンデを整備する必要がありました。世界トップレベルの選手たちが、雪を求めて奔走し、自らコースを整備しなければならない現実があるのです。
三木選手は「ミラノ・オリンピックでの優勝をずっと目標にしてきている」と語り、2025年の世界選手権で0秒48差をつけられたオリンピック2連覇中のエステル・レデツカ(チェコ)との差を埋めるべく、練習に励んでいます。
世界的な雪不足の深刻な実態
降雪量の急激な減少
WMO(世界気象機関)によれば、標高800メートルまでの低高度では降雪量が大幅に減少しており、降雪日数は1970年以降で半減しています。温室効果ガスの削減が進まなかった場合、日本の降雪量は21世紀末には約70%も減少すると予測されています。
カナダのウォータールー大学などの研究によると、冬季オリンピック開催都市の2月の日中平均気温は、1920〜1950年代は0.4度だったのが、1960〜1990年代には3.1度、21世紀には6.3度と大幅に上昇しています。
日本のスキー場への影響
日本でも雪不足の影響は深刻です。2024年には山形県で雪不足のために1日も営業できないスキー場が現れました。長野県白馬村では、この30年間で降雪量が約1メートル減少しています。
長野冬季オリンピック会場となった飯綱高原スキー場をはじめ、全国でスキー場の閉鎖が相次いでいます。かつて日本を代表するウィンタースポーツの聖地だった場所が、次々と姿を消しているのです。
開催可能国の急減
IOCのトーマス・バッハ会長は、気候変動の影響により、現行基準で冬季五輪・パラリンピックの開催が可能な国は2040年までにわずか10か国になるという予測を明らかにしました。
さらに衝撃的な研究結果もあります。現在の水準で温室効果ガスの排出が続いた場合、これまでに冬季オリンピックが開かれた21都市のうち、21世紀末でも適切な環境で五輪を開催できるのは「札幌のみ」になるという結論が出されています。
人工雪という「解決策」の問題点
2022年北京五輪の教訓
2022年北京オリンピックはほぼ全面的に人工雪で行われました。しかし、この「解決策」には大きな問題がありました。人工雪は天然雪に比べて硬く滑りやすく、雪上競技で負傷者が続出したとの報告があります。
イギリスのラフラバー大学の研究によると、人工雪でのウィンタースポーツは雪質の予測が難しく、危険度が増す可能性があるとされています。選手の安全を確保しながら公平な競技環境を提供するという点で、人工雪には限界があるのです。
水資源と環境への負荷
人工雪の製造には大量の水が必要です。温暖化の影響で天然雪が減少するだけでなく、人工雪に利用できる水の不足も重なっています。さらに、人工降雪機を稼働させるためのエネルギー消費も環境への負荷となります。
国際スキー・スノーボード連盟(FIS)のヨハン・エリアシュ会長は「気候変動はスキーやスノーボードにとって、脅威そのもの」と述べています。昨シーズンは世界大会616回のうち26回が天候の問題で中止されました。
IOCと競技団体の対応
冬季五輪開催地の早期確保
IOCは2030年の冬季五輪をフランスのアルプス地域、2034年を米ソルトレークシティーで開催することを同時決定しました。2大会同時決定は冬季では初めてのことで、地球温暖化の影響で冬季五輪を開催できる国が減っているため、早期に開催地を確保したいIOCの思惑が背景にあります。
選手たちの声
多くの五輪メダリストたちも気候変動に対する危機感を訴えています。雪不足が要因となって閉鎖されるスキー場を目の当たりにし、自分たちの競技の将来に不安を感じている選手は少なくありません。
今後の展望と課題
持続可能な大会運営への模索
2026年ミラノ・コルティナ冬季オリンピックは、将来の持続可能な開催を探る試金石となります。人工雪への依存度を下げつつ、選手の安全を確保し、公平な競技環境を提供できるかが問われています。
ウィンタースポーツ文化の継承
気候変動の影響は、競技スポーツだけでなく、レジャーとしてのスキーやスノーボード、そしてそれを支える地域経済にも及びます。温暖化対策を進めながら、ウィンタースポーツの文化をいかに次世代に継承していくかが、大きな課題となっています。
まとめ
三木つばき選手のように、世界トップレベルの選手たちが練習場所の確保に奔走する現実は、気候変動がウィンタースポーツに与える影響の深刻さを象徴しています。2040年までに冬季五輪を開催できる国が10か国に減少するというIOCの予測は、決して遠い未来の話ではありません。
2026年ミラノ五輪で選手たちが最高のパフォーマンスを発揮できることを願いつつ、私たちは気候変動という根本的な課題にも向き合う必要があります。雪山で繰り広げられる感動的なドラマを将来も楽しめるかどうかは、私たち一人ひとりの行動にかかっているのです。
参考資料:
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