消費税減税、与野党横並びの財源なき競争が招くリスク
はじめに
2026年2月8日投開票の衆院選を前に、与野党が消費税減税で競い合う異例の構図が生まれています。高市早苗首相が1月19日に食料品の消費税ゼロを公約に掲げる方針を表明したことで、主要政党がそろって消費税負担の軽減を訴える展開となりました。
しかし、食料品消費税ゼロだけで年間約5兆円の税収減が見込まれる中、各党の財源論は不透明なままです。長期金利は27年ぶりの高水準に上昇し、市場は財政悪化への警戒を強めています。本記事では、消費税減税をめぐる各党の政策と、財源問題、そして市場リスクについて詳しく解説します。
各党の消費税減税政策
自民党・日本維新の会(連立与党)
自民党と日本維新の会は、2025年10月の連立合意で「飲食料品について2年間に限り消費税の対象としないことも視野に法制化の検討を行う」と明記しました。高市首相は1月19日の記者会見で「実現に向けた検討を加速する」と表明し、衆院選後に設置する「国民会議」で財源やスケジュールを議論する方針を示しました。
維新の藤田文武共同代表は「無制限な減税は論外だ。市場から信認を得られない」と述べ、期限を設ける必要性を強調しています。財政規律への一定の配慮を示す姿勢です。
立憲民主党・公明党(中道改革連合)
立憲民主党と公明党が結成した新党「中道改革連合」も消費税減税を目玉政策に掲げています。立憲民主党の野田佳彦代表は、食料品の消費税率を1年間に限りゼロにする案を提示し、国民1人あたり年4万円の減税になると試算しました。
財源については、政府の基金の取り崩し、外国為替資金特別会計(外為特会)の剰余金、租税特別措置の見直し、税収の上振れ分などを挙げています。公明党の西田実仁幹事長は「政府系投資ファンドを創設し、つくり出した財源を活用する」という独自案を示しています。
その他の野党
国民民主党は消費税率の一律5%への引き下げを主張。参政党、れいわ新選組、共産党はさらに踏み込んで「消費税廃止」を掲げています。共産党は「大企業の法人税と富裕層の所得税や住民税、相続税の税率引き上げで恒久財源を確保」する方針を示しています。
財源問題の深刻さ
年5兆円の税収減
食料品の消費税率(現行8%の軽減税率)をゼロにすると、年間約5兆円の税収減が見込まれます。令和5年度(2023年度)の消費税収は約23.1兆円で、所得税・法人税を上回る国最大の税収源です。その約2割を失うことの財政インパクトは甚大です。
高市首相の財源説明
高市首相は財源について「特例公債に頼ることなく、補助金や租税特別措置、税外収入などの歳出・歳入全般の見直しが考えられる」と述べるにとどめています。具体的な数字や道筋は示されていません。
日本経済新聞のインタビューでは「無責任な国債発行や減税を行うということではない」と述べ、財政規律への配慮を強調しましたが、5兆円規模の財源をどう確保するかは明確になっていません。
経済成長による穴埋めは可能か
一部には「2025年度の税収が約78兆円と見積もられているので、2026年度は3兆〜4.5兆円の増収が期待できる」という楽観的な見方もあります。しかし、税収の上振れは景気動向に左右されるため、恒常的な財源としては不確実性が高いのが実情です。
金利上昇と市場の警戒
27年ぶりの高水準
長期金利は急上昇しています。新発10年債利回りは2.240%に達し、1999年2月以来およそ27年ぶりの高水準を記録しました。20年債利回りは3.25%、30年債利回りは3.585%まで上昇しています。
背景には、与野党が消費税減税を衆院選の公約に盛り込むとの見方から、財政拡張を警戒した債券売りが続いていることがあります。
財政への影響
日本政府の普通国債残高は1,000兆円を超えています。継続的な金利上昇局面では利払費が急増し、財政を圧迫します。第一生命経済研究所の熊野英生氏は「財政健全化のチャンスが大ピンチに変わった」と警鐘を鳴らしています。
円安リスク
金融市場が「党派を超えて財政への目配りが乏しい」とみなせば、金利上昇だけでなく円安にも拍車がかかるリスクがあります。2022年の物価高騰のきっかけが日米金利差による円安だったことを考えると、物価高対策としての減税が、かえって円安を通じて物価高を招くという皮肉な結果を招く可能性もあります。
消費税減税の効果と限界
経済効果の試算
野村総合研究所の試算によると、5兆円規模の消費税減税で1年間の実質GDPを0.43%押し上げる効果があります。消費税率2%の引き下げでは0.40%の押し上げ効果とされています。
第一生命経済研究所の永浜利廣氏は「給付は早く実施できるのが利点だが、貯蓄に回り経済効果が乏しい。消費しないと恩恵がない消費税減税は時間はかかるが、費用対効果は高い」と指摘しています。
専門家の慎重論
一方で、日本経済研究センターと日本経済新聞社が経済学者を対象に行った調査では、一時的な消費税減税が「適切」とする回答は15%にとどまり、85%が「不適切」と回答しました。
懸念点として挙げられているのは、時限的に下げた税率を再び引き上げることの政治的困難さです。「国民の反発が予想され、選挙への悪影響を避けたいという思惑から、引き上げの時期が遅れ、財政に悪影響を及ぼすおそれがある」という指摘があります。
レジ改修などの実務的課題
消費税率の変更には、全国の小売店でレジシステムや会計ソフトの改修が必要です。高市首相自身が「レジの改修に1年以上かかる」と認めており、「物価対策として即効性がない」と発言していた経緯があります。
成長戦略の不在
分配偏重への懸念
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「与野党は物価高対策ではなく、日本経済の活力を取り戻す成長戦略の優劣を競ってほしい」と苦言を呈しています。
衆院選では各党が家計支援策を競い合う一方、どのように経済成長を実現し、税収を増やしていくかという中長期的なビジョンは置き去りにされがちです。
一時的な効果か、構造的な改革か
時限的な消費税減税は一時的な消費刺激効果をもたらしますが、日本経済が抱える生産性の低さや賃金の伸び悩みといった構造的な問題の解決にはなりません。選挙後に何を目指すのか、各党に具体的な成長戦略が問われています。
まとめ
2月8日の衆院選を前に、与野党が食料品消費税ゼロで横並びになる異例の展開となっています。物価高に苦しむ家計への支援という観点では理解できる政策ですが、年5兆円の財源問題、27年ぶりの金利上昇、円安リスクなど、課題は山積しています。
有権者としては、各党の減税案の具体性、財源の裏付け、実現可能性を冷静に見極めることが重要です。「減税」という甘い言葉の裏に潜むリスクを理解した上で、日本経済の将来を見据えた選択が求められています。
参考資料:
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