食品消費税ゼロ「経済にマイナス」88%、学者が懸念する理由
はじめに
日本経済新聞社と日本経済研究センターが経済学者を対象に実施する「エコノミクスパネル」の第10回調査(2026年1月22日〜27日実施)で、食料品の消費税率をゼロにすることについて「日本経済にマイナス面が大きい」との回答が88%に上りました。
高市早苗首相が2026年1月19日の記者会見で、飲食料品の消費税率を2年間に限りゼロにする方針を示したことを受け、2月8日投開票の衆議院選挙で大きな争点となっています。経済学者の大多数が否定的な見解を示す食品消費税ゼロの問題点とは何か、詳しく解説します。
調査結果の詳細
88%が「マイナス面が大きい」
エコノミクスパネルでは、「食料品の消費税率をゼロにするのは、日本経済にとってマイナス面よりプラス面が大きい」という命題に対する回答を求めました。結果は「そう思わない」が46%、「全くそう思わない」が42%で、合計88%が否定的な見解を示しています。
物価高対策としての効果を疑問視する声が多く、財政や社会保障の持続性を損なうとの指摘が相次ぎました。円安や金利上昇を助長するリスクも懸念されています。
一貫した否定的見解
この結果は過去の調査とも整合しています。2025年5月の第5回調査でも、一時的な消費税減税が「適切でない」と答えた割合は85%に達しており、経済学者の間では消費税減税に対する否定的な見方が一貫しています。
経済学者が食品消費税ゼロに反対する理由
物価高対策としての限界
経済学者が最も問題視しているのは、食品消費税ゼロが物価高対策として効果が限定的だという点です。消費税率を引き下げても、その分が全額消費者に還元される保証はありません。小売価格への転嫁が不完全な場合、減税効果の一部は流通業者や生産者に吸収される可能性があります。
また、減税によって消費が増加した場合、供給制約がある品目では逆に価格上昇圧力が生じかねません。物価高を抑えるための減税が、かえって物価を押し上げるという矛盾した結果を招くリスクが指摘されています。
巨額の財政コスト
大和総研の分析によると、飲食料品の消費税率をゼロにした場合、年間約4.8兆円の税収が失われます。一方、個人消費の喚起効果は約0.5兆円(GDP押し上げ効果は約0.3兆円)にとどまると試算されています。
つまり、4.8兆円の財政支出に対してGDP押し上げ効果は0.3兆円程度という、極めて費用対効果の低い政策ということになります。この巨額の税収減を他の財源で補填しない限り、財政赤字がさらに拡大します。
高所得層ほど恩恵が大きい逆進性
食料品の消費税をゼロにした場合、食料品への支出額が多い高所得世帯ほど減税額が大きくなるという問題があります。4人家族で年間約6万4,000円の負担軽減になるとの試算もありますが、この恩恵は所得水準に関係なく一律に生じます。
低所得世帯への支援が目的であれば、給付金や所得税の控除拡大など、対象を絞った政策の方が効率的です。消費税率の一律引き下げは、再分配政策としては精度が低いと経済学者は指摘しています。
財政・金融市場への波及リスク
財政の持続性への懸念
日本の政府債務残高はGDP比で250%を超え、先進国中で最も高い水準にあります。この状況下で年間5兆円近い税収減を伴う政策を実施すれば、財政の持続性に対する市場の信認が揺らぐ可能性があります。
経済学者の間では、財源の裏付けを欠いた減税が実施された場合、長期金利の上昇や円安の進行を通じて日本経済全体に悪影響を及ぼしかねないとの懸念が強くあります。
社会保障制度との関係
消費税は社会保障の財源として位置付けられています。食料品の税率をゼロにすれば、年金・医療・介護などの社会保障財源に直接的な影響が及びます。少子高齢化が進む中、社会保障費は増加の一途をたどっており、その財源を縮小させる政策には慎重であるべきだという意見が多くの経済学者の立場です。
注意点・展望
食品消費税ゼロの議論では、いくつかの誤解が生じやすい点があります。まず、「消費税が下がれば物価が下がる」という単純な図式が必ずしも成り立たない点です。税率引き下げ分が価格に反映されるかどうかは、市場の競争環境や企業の価格設定判断に左右されます。
また、2年間の時限措置として実施された場合、期限終了時の税率引き上げが消費の駆け込みと反動減を引き起こし、景気を不安定にするリスクもあります。
2月8日の衆議院選挙を前に、与野党ともに消費税減税を掲げる動きが広がっていますが、経済学の専門家からは「選挙目当ての政策」との批判も出ています。有権者としては、短期的な減税効果だけでなく、中長期的な財政への影響も考慮した判断が求められます。
まとめ
日経エコノミクスパネルの調査結果は、食料品の消費税ゼロ政策に対する経済学者の強い懸念を示しています。年間約5兆円の税収減に対して経済効果は限定的であり、財政悪化や金利上昇のリスクも指摘されています。
物価高への対策は必要ですが、消費税率の一律引き下げよりも、低所得層に的を絞った支援策の方が効率的だというのが多くの経済学者の見解です。選挙の争点として注目される中、政策の費用対効果を冷静に検討することが重要です。
参考資料:
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