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by nicoxz

CVC、ファイントゥデイ売却検討へ ベインが買収名乗り

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はじめに

欧州系投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズが、ヘアケア・スキンケア用品「ツバキ」「ウーノ」などを手がけるファイントゥデイホールディングスの売却を検討していることが明らかになりました。米ベインキャピタルが法的拘束力のある買収提案を提出しています。

ファイントゥデイは2021年に資生堂から分離し、CVCが1,600億円で買収して設立された会社です。2024年12月と2025年10月の2度にわたりIPO(新規株式公開)が延期されており、CVCは株式公開ではなく売却によるエグジットを模索しているとみられます。本記事では、この取引の背景と、日本のプライベートエクイティ市場における意義を解説します。

ファイントゥデイとは:資生堂から分離した日用品事業

主なブランドと事業内容

ファイントゥデイホールディングスは、ヘアケア、スキンケア、ボディケアなどのパーソナルケア製品を展開する企業です。「TSUBAKI(ツバキ)」「uno(ウーノ)」「fino(フィーノ)」「SENKA(専科)」「MA CHÉRIE(マシェリ)」「シーブリーズ」「Ag DEO24」など、日本で広く知られたブランドを多数保有しています。

これらのブランドはいずれも元々資生堂が展開していたもので、日本の消費者にとってなじみ深い製品群です。2024年の売上高は1,073億円、調整後EBITDAマージンは21%に達しています。

資生堂からの分離の経緯

資生堂は2021年7月、パーソナルケア事業をCVCキャピタル・パートナーズに1,600億円で売却しました。当時、資生堂は新型コロナウイルスの影響で化粧品事業の売上が低下し、経営資源の選択と集中を迫られていました。

資生堂の魚谷雅彦社長(当時)は、「パーソナルケア事業は当社内での優先順位を高めることができず、限られた経営資源の中、商品開発や広告宣伝に十分な投資ができない」と説明しています。資生堂は2030年に営業利益率18%達成を目標としており、注力すべき分野は中高価格帯の化粧品事業でした。

会社設立と社名変更

売却後、新会社は「ファイントゥデイ資生堂」として発足しました。資生堂は当初35%の株式を保有し、合弁事業として運営されていました。2023年1月には社名から「資生堂」が外れ、「ファイントゥデイ」に変更。2024年6月には資生堂が保有する約20%の株式もCVCに売却され、完全にCVCの傘下となりました。

CVCキャピタル・パートナーズとファイントゥデイの経緯

CVCによる買収と成長戦略

CVCキャピタル・パートナーズは、ルクセンブルクに本拠を置く世界有数のプライベートエクイティファンドです。1981年設立で、運用資産は約2,000億ドル(約30兆円)に達します。

CVCがファイントゥデイに見出した価値は、強いブランド力とアジア市場での成長ポテンシャルでした。実際に、中国・香港が売上の3分の1以上を占めており、アジア市場での展開が事業の柱となっています。

2度にわたるIPO延期

CVCは当初、ファイントゥデイを東京証券取引所に上場させ、株式公開によるエグジットを計画していました。2024年12月17日にプライム市場への上場が予定されていましたが、12月2日に延期を発表。IPOの想定時価総額は約2,190億円でしたが、機関投資家との間で企業価値評価をめぐる目線が一致しなかったとされています。

2025年10月にはスタンダード市場への上場を再申請しましたが、こちらも10月20日に取り消されました。2度目の上場申請時の想定時価総額は約1,690億円で、1度目より大幅に引き下げられていましたが、それでもCVCの期待する水準には達しませんでした。

売却によるエグジットへの方針転換

IPOが2度失敗したことで、CVCは売却によるエグジットに方針を転換したとみられます。報道によれば、CVCは20億ドル(約3,000億円)以上、EBITDAの14〜15倍のバリュエーションを求めているとされています。これは当初の買収価格1,600億円を大きく上回る水準です。

ベインキャピタルの買収提案

法的拘束力のある提案を提出

米ベインキャピタルがファイントゥデイに対し、法的拘束力のある買収提案を提出したことが明らかになっています。ベインキャピタルは世界最大級のプライベートエクイティファンドの一つで、日本でも積極的な投資活動を展開しています。

報道によれば、当初はKKRやブラックストーンなど複数のファンドが関心を示していましたが、交渉が進む中でこれらのファンドは撤退し、ベインキャピタルが有力候補として残っているとされています。

ベインキャピタルの日本での実績

ベインキャピタルは2006年に日本オフィスを開設し、これまでに企業価値ベースで7.6兆円の投資を実行してきました。日本で活動するPEファンドとしては最大規模です。

消費財・小売分野では、雪国まいたけ(2015年)、大江戸温泉物語(2015年)、ドミノ・ピザジャパン(2013年)などの投資実績があります。2025年にはセブン&アイ・ホールディングスからヨーク・ホールディングス(イトーヨーカ堂など)を8,147億円で買収する契約を締結しており、消費財セクターへの投資を加速させています。

アジア美容市場への関心

ベインキャピタルがファイントゥデイに関心を示す背景には、アジアの美容・パーソナルケア市場の成長性があります。ファイントゥデイは中国・香港で売上の3分の1以上を稼いでおり、アジア市場での確固たるプレゼンスを持っています。

一方で、地政学リスクも存在します。米中関係の緊張や、中国市場における消費者心理の変化が、事業に影響を与える可能性があります。

日本のヘアケア・化粧品市場の動向

市場規模と成長見通し

日本の化粧品市場規模は2023年度で約2兆4,780億円、そのうちヘアケア市場は約4,930億円を占めています。2028年度には化粧品市場全体で2兆7,400億円への成長が予測されており、年率3.5%程度の成長が見込まれています。

ヘアケア市場では「スキニフィケーション」と呼ばれるトレンドが広がっており、スキンケア化粧品の成分や技術をヘアケアに応用する高付加価値製品が好調です。高単価なプレミアムヘアケア製品への需要が高まっており、ファイントゥデイが持つ「ツバキ」「フィーノ」といったブランドにとっては追い風となっています。

競争環境の変化

国内市場では、韓国や中国からの化粧品輸入が急増しています。2023年の韓国からの化粧品輸入額は959億円に達し、国別で1位となりました。若年層を中心にK-ビューティーやC-ビューティーの支持が高まっており、国内ブランドにとっては新たな競争圧力となっています。

ファイントゥデイのブランドは日本で高い知名度を持ちますが、若年層の取り込みやSNSマーケティングの強化が課題となっています。

プライベートエクイティ間の取引の意義

セカンダリーバイアウトの増加

今回のような、あるPEファンドから別のPEファンドへの売却は「セカンダリーバイアウト」と呼ばれます。近年、日本でもこうした取引が増加しています。

IPO市場の環境が厳しい中、PEファンドはエグジット手段として売却を選択するケースが増えています。買い手となるPEファンドにとっては、すでに経営改善が進んだ企業を取得できるメリットがあります。

CVCの投資リターン

CVCが2021年に1,600億円でファイントゥデイを取得し、20億ドル(約3,000億円)以上で売却できれば、4年間で約2倍のリターンを得ることになります。PEファンドの投資としては成功の部類に入る水準です。

ただし、実際の売却価格は交渉次第であり、CVCの期待通りのバリュエーションが実現するかは不透明です。

企業価値向上の取り組み

CVCによる4年間の保有期間中、ファイントゥデイは独立企業としての体制整備を進めてきました。資生堂との資本関係を解消し、自社ブランドとしてのアイデンティティを確立。EBITDAマージン21%という収益性は、業界平均を上回る水準です。

ベインキャピタルが買収した場合、さらなる成長戦略の実行が期待されます。アジア市場でのプレゼンス拡大、新ブランドの投入、デジタルマーケティングの強化などが考えられます。

今後の展望と注意点

取引成立までの課題

買収提案から取引成立までには、デューデリジェンス(買収監査)、価格交渉、各国当局の許認可取得など、多くのプロセスが残っています。特に中国での事業比率が高いため、中国当局の審査が必要となる可能性があります。

地政学リスクへの対応

ファイントゥデイの売上の3分の1以上を中国・香港が占めることは、成長機会であると同時にリスク要因でもあります。米中関係の緊張や、中国国内の消費動向の変化が、事業に影響を与える可能性があります。

ベインキャピタルが買収した場合、こうしたリスクへの対応策として、日本や東南アジアでの事業拡大を進めることが考えられます。

従業員・取引先への影響

PEファンド間の取引では、経営効率化の一環としてコスト削減が行われることがあります。従業員や取引先にとっては、新しいオーナーの方針が注目されます。ベインキャピタルは「ハンズオンで経営に深く関与し、成長戦略を実行する」スタイルで知られており、単なるコストカットではなく成長投資を重視する姿勢が期待されます。

まとめ

CVCキャピタル・パートナーズによるファイントゥデイの売却検討と、ベインキャピタルの買収提案は、日本のプライベートエクイティ市場における重要な動きです。2度のIPO延期を経て、CVCは売却によるエグジットへと方針を転換しました。

ファイントゥデイは「ツバキ」「ウーノ」など日本で広く知られたブランドを持ち、アジア市場で強いプレゼンスを築いています。ベインキャピタルが買収すれば、さらなる成長戦略の実行が期待されますが、地政学リスクへの対応も課題となります。取引の行方は、日本の消費財セクターにおけるPE投資の動向を占う試金石となるでしょう。

参考資料:

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