ダボス会議で欧州首脳が米国批判、国際秩序に警鐘
はじめに
2026年1月19日から23日にかけて開催中の世界経済フォーラム(WEF)年次総会、通称「ダボス会議」で、欧州首脳から米国への批判が相次いでいます。フランスのマクロン大統領は20日、「国際法は踏みにじられ、強者の論理だけが通用するルールなき世界に向かいつつある」と強調しました。
今年のダボス会議のテーマは「対話の力」ですが、皮肉にも米欧間の対話の困難さが浮き彫りになっています。トランプ米大統領がグリーンランド取得に反対する欧州8カ国に追加関税を課すと表明したことで、戦後の同盟関係は大きく揺らいでいます。
本記事では、ダボス会議での欧州首脳の発言、米欧対立の背景、そして国際秩序への影響について詳しく解説します。
マクロン大統領の痛烈な批判
「無法世界」への警告
マクロン仏大統領は1月20日のダボス会議で演説し、欧州が威圧に屈することはないと明言しました。トランプ米大統領がグリーンランド取得のために欧州8カ国に追加関税を課すと表明したことを念頭に、「到底受け入れがたいものであり、特に関税が領土主権に対する圧力として使用される場合にはなおさらだ」と批判しました。
マクロン大統領は以前から米国の姿勢を問題視していました。1月8日にはパリでフランス大使らを前に演説し、「米国は確固たる大国だが、一部の同盟国から次第に距離を置き、国際ルールから逸脱しつつある」と述べています。米国がベネズエラのマドゥロ大統領を拘束・排除したことや、グリーンランドへの野心を見せていることを念頭に、国際法違反と同盟軽視を非難しました。
中国への接近
注目すべきは、マクロン大統領がダボス会議で中国にさらなる欧州投資を呼びかけたことです。米国との関係が悪化する中、欧州は経済的なパートナーの多様化を模索しています。ただし、この姿勢については「米国のグリーンランド問題を理由に中国寄りの姿勢を示すのは浅慮」との批判もあります。
欧州首脳の結束
フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長
フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は、トランプ大統領の演説前にダボスで講演し、強い危機意識を示しました。「米国は仲間だし同盟国だ。一方では、戦略的にアプローチする必要がある。グリーンランドは交渉不可である」と明言しました。
また、欧州理事会のアントニオ・コスタ常任議長とともに、領土保全と主権は国際法の下で守られるべき基本原則であると強調。EUとしてNATOの枠組みを含め、北極圏の平和および治安維持の重要性を認識しており、デンマークおよびグリーンランドの人々と連携していくとの姿勢を示しました。
ドイツ・ショルツ首相
ドイツのオラフ・ショルツ首相もダボスで特別講演を行い、「予測可能性、誠実さ、信頼性はますます困難になっている」と述べました。世界は同時に「より複雑で入り組んだ」状態になっていると指摘し、現在の国際情勢への懸念を表明しています。
カナダ・カーニー首相
カナダのカーニー首相もダボス会議で演説し、法に基づく国際秩序について「もう機能しない。われわれは断絶のさなかにいる」と厳しい認識を示しました。G7のうち6カ国の首脳がダボスに集まる中、米国との関係悪化への危機感が共有されています。
トランプ大統領の反応
オンライン参加と発言
トランプ米大統領は当初、現地参加の予定でしたが、最終的にオンラインで参加し、質疑応答も含めて45分間登壇しました。演説では欧州連合(EU)を「米国を非常に不当に扱う」と批判し、自国第一の姿勢を改めて強調しました。
トランプ大統領は「この1年間で我々が成し遂げた途方もない成功」について語り、就任1年の実績をアピール。一方で、グリーンランドについては「われわれの領土だ。米国の国家安全保障上の核心的利益だ」と主張し続けています。
関税政策の維持
トランプ大統領はダボス会議出席に先立ち、グリーンランド領有に反対する欧州8カ国に対して10%の追加関税を課すと発表していました。対象国はデンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、英国です。
2月1日から10%の追加関税を発動し、6月1日までに合意が成立しなければ25%に引き上げる方針を示しています。欧州首脳との対話が行われる中でも、この方針を撤回する姿勢は見せていません。
市場への影響
株式市場の下落
グリーンランドを巡る米欧対立は、金融市場にも大きな影響を与えています。欧州の株価は下落し、東京株式市場も連日の下落となりました。投資家はリスク回避姿勢を強めています。
ラガルド欧州中央銀行(ECB)総裁は「関税引き上げでドイツ経済はフランス経済よりも大きな影響を受ける」と発言し、欧州経済への懸念を示しました。製造業の比重が高いドイツは、関税の影響を最も受けやすい国の一つです。
安全資産への逃避
一方で、金価格は最高値を更新しています。地政学的リスクの高まりにより、投資家は安全資産への逃避を加速させています。米欧関係の悪化が長期化すれば、さらなる市場変動が予想されます。
「米国に頼れぬ時代」の到来
ダボス会議の象徴的意味
今年のダボス会議は「米国第一」を掲げるトランプ政権にどう向き合うかが主要議題となりました。会議は「米国に頼れぬ時代」を象徴するものとなり、欧州各国は独自の戦略を模索し始めています。
欧州首脳や中央銀行総裁の発言は、いずれもトランプ大統領のグリーンランドに関する言動に対する反発と警戒感を示すものでした。第二次世界大戦後に築かれた米欧同盟の基盤が、かつてないほど揺らいでいます。
EUの対抗措置
EUは930億ユーロ(約17兆円)規模の報復措置を検討しています。マクロン大統領は「貿易バズーカ」と呼ばれる反威圧措置(ACI)の発動を要請しており、EU市場へのアクセス制限や輸出規制など、米国への幅広い対抗措置が検討されています。
注意点・今後の展望
対話の困難さ
ダボス会議のテーマは「対話の力」でしたが、米欧間の溝は深まるばかりです。マクロン大統領はダボス滞在を延長する予定はなく、トランプ大統領との直接会談も行われませんでした。対話よりも対立が前面に出た会議となりました。
中国の影響力拡大
米国との関係悪化は、欧州における中国の影響力拡大につながる可能性があります。マクロン大統領が中国への投資を呼びかけたことは、その兆候と言えます。長期的には、国際秩序の再編につながる可能性もあります。
日本への示唆
欧米関係の変化は、日本の外交・安全保障にも影響を与えます。同盟国への態度が変化するトランプ政権の下で、日本も独自の戦略を検討する必要が出てきています。
まとめ
ダボス会議でマクロン仏大統領ら欧州首脳が相次いで米国を批判しました。「国際法が踏みにじられ、無法世界に向かいつつある」との警告は、戦後国際秩序への深刻な危機感を表しています。
グリーンランド問題を契機に、米欧関係は急速に悪化しています。追加関税と報復措置の応酬が現実化すれば、世界経済にも大きな影響を与えることになります。「米国に頼れぬ時代」の到来を象徴するダボス会議となりました。
参考資料:
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