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by nicoxz

地方を救う電子図書館、5年で4倍に拡大

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はじめに

デジタル技術による地域格差の解消が、全国の自治体で急速に進んでいます。一般社団法人電子出版制作・流通協議会の調査によると、2026年1月1日時点で電子図書館を導入している自治体数は611に達し、普及率は34.2%となりました。これは5年前の2021年時点と比較すると約4倍の成長であり、特に書店が消滅しつつある過疎地域において、住民の情報アクセス手段として重要な役割を果たしています。本記事では、電子図書館が地方の情報格差解消にどのように貢献しているのか、その現状と今後の展望を詳しく解説します。

電子図書館の急速な普及と背景

5年で4倍に成長した導入実績

電子図書館の導入は、この5年間で劇的な成長を遂げています。2026年1月1日現在、全国1794自治体のうち611自治体が電子図書館サービスを導入しており、普及率は34.2%に達しました。電子図書館の数は491館となっており、2025年10月1日時点から8自治体、8館の増加を記録しています。

この成長の背景には、新型コロナウイルス感染症の拡大が大きく影響しています。2020年以降、物理的な図書館への来館が困難になったことで、自宅からアクセスできる電子図書館の需要が急増しました。また、人口減少や書店の減少により、紙の本へのアクセスが困難になっている地域が増加していることも、電子図書館導入を後押ししています。

特に注目すべきは、小規模自治体での導入が進んでいる点です。電子図書館は物理的な施設を建設する必要がなく、初期投資や運営コストを抑えられるため、財政規模の小さい自治体でも導入しやすいという利点があります。電子出版制作・流通協議会は年4回(1月、4月、7月、10月)調査を実施しており、継続的な成長トレンドが確認されています。

深刻化する「書店ゼロ」問題と情報格差

電子図書館の普及を促進している要因の一つが、全国的な書店の減少です。日本出版文化産業振興財団の調査によると、2024年3月時点で全国1741市町村のうち482自治体(27.7%)が「書店ゼロ」の状態にあります。特に沖縄県(56.1%)、長野県(53.2%)、奈良県(51.3%)では、半数以上の自治体に書店が存在しません。

自治体の規模別に見ると、村の88.5%、町の39.7%が書店ゼロである一方、市では3.2%にとどまっています。この数字は、人口減少が進む小規模自治体ほど、書籍へのアクセスが困難になっている実態を示しています。インターネット通販の普及や雑誌の売上減少も、地方の書店経営を圧迫する要因となっています。

このような状況下で、電子図書館は物理的な距離や地域の人口規模に関係なく、すべての住民に平等な情報アクセスを提供する手段として注目されています。24時間365日いつでもアクセス可能で、貸出中や返却期限の概念がないことも、利用者にとって大きなメリットとなっています。

長野県の先進事例:全国初の全域カバー実現

「デジとしょ信州」による協働運営モデル

長野県は2022年8月から、県と県内全77市町村が共同で運営する電子図書館サービス「デジとしょ信州」を開始しました。これは全国で初めて、都道府県と全市町村が一つの電子書籍サービスを協働運営する取り組みです。

このプロジェクトの最大の特徴は、「県の事業に市町村が参加する」のではなく、「個々の市町村自身が責任を持ち、主体となって取り組み協働する」というスキームにあります。2021年8月に市町村と県でワーキンググループを設置し、8か月間に50回以上のミーティングを重ねて、この協働モデルを確立しました。

蔵書数は2万1178冊で、コンテンツは県内77の市町村が分担して購入しています。2022年度は公益財団法人長野県市町村振興協会の「宝くじ助成金」を活用することで、初期費用の負担を軽減しました。この仕組みにより、すべての長野県民が居住地域や世代に関わらず、いつでもどこからでも無償で電子書籍にアクセスできる環境が整備されました。

人口400人の生坂村も参加する意義

長野県の協働電子図書館には、人口約400人の生坂村も参加しています。このような小規模自治体が電子図書館に参加できる背景には、協働運営によるコスト分担のメリットがあります。単独で電子図書館を運営する場合、システム導入費用やコンテンツ購入費用、運営管理費用などが必要となり、小規模自治体には大きな負担となります。

しかし、長野県の協働モデルでは、これらのコストを77自治体で分担することで、一自治体あたりの負担を大幅に軽減しています。生坂村のような小規模自治体でも、県民全体が利用できる2万冊以上の蔵書にアクセスできる環境を提供できるのです。

また、協働運営には地域資料のデジタル化という側面もあります。各市町村が保有する郷土資料や歴史文書をデジタル化し、電子図書館で共有することで、観光促進や地域文化の継承にも貢献しています。生坂村も地域の歴史資料をデジタル化し、観光資源として活用する取り組みを進めているとされています。

注意点・展望

電子図書館の普及には課題も残されています。最大の課題はコンテンツの確保です。出版社が電子図書館向けのライセンスに慎重な姿勢を示すケースが多く、人気作品や最新作が電子図書館で読めない状況が続いています。また、電子書籍の価格が紙の書籍の数倍に設定されることもあり、予算の制約から蔵書を十分に充実させられない自治体も少なくありません。

さらに、高齢者を中心としたデジタルデバイドの問題も指摘されています。スマートフォンやタブレットの操作に不慣れな利用者向けに、使い方講習会の開催や、図書館職員によるサポート体制の整備が求められています。

一方で、電子図書館は学校教育との連携や、地域資料のデジタルアーカイブなど、新たな可能性も秘めています。長野県の事例のように、探究学習や郷土学習での電子書籍活用が進めば、教育面でも大きな効果が期待できます。また、災害時の情報提供手段としての活用も検討されています。

まとめ

電子図書館は、5年で4倍という急成長を遂げ、2026年1月時点で全国の34.2%の自治体に普及しました。書店が消滅しつつある過疎地域において、住民の情報アクセス権を保障する重要なインフラとなっています。長野県の全域カバー実現は、協働運営による小規模自治体支援の成功例として、全国のモデルとなっています。大日本印刷やTOPPANなどのプラットフォーム提供企業も、技術面から電子図書館の普及を支えています。コンテンツ確保やデジタルデバイド対策などの課題はあるものの、電子図書館は地方創生とデジタル社会実現の鍵として、今後さらなる発展が期待されます。

参考資料

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