労働者協同組合が地域の人手不足を救う新たな担い手に
はじめに
日本各地で深刻化する人手不足。特に過疎地域では、家屋の修繕や除雪作業といった生活インフラの維持すら困難になりつつあります。こうした課題に対する新たな解決策として注目を集めているのが「労働者協同組合(労協)」です。
2022年10月に施行された労働者協同組合法のもと、全国で約180の組合が設立され、1万人を超える人々が地域の担い手として活動しています。企業でも行政でもカバーしきれない地域のニーズを、住民自らが「働き手」として支えるこの仕組みは、人口減少社会における有力な選択肢として期待されています。
本記事では、労働者協同組合の基本的な仕組みから、NPO法人や株式会社との違い、実際の活動内容、そして今後の課題まで幅広く解説します。
労働者協同組合とは何か
「出資・経営・労働」を一体化した新しい働き方
労働者協同組合は、働く人自身が出資し、運営方針を決め、自ら事業に従事する法人形態です。2020年12月に法律が制定され、2022年10月1日から施行されました。
最大の特徴は「協同労働」という考え方にあります。株式会社では株主が出資し、経営者が方針を決め、労働者が働くという分業が一般的です。一方、労働者協同組合ではこの3つの役割をすべて組合員が担います。「自分たちの地域を自分たちで支える」という理念が制度の根幹にあるのです。
設立には3人以上の発起人がいれば足り、NPO法人のように所轄庁の認証を待つ必要もありません。登記のみで設立できる「準則主義」を採用しているため、迅速に組織を立ち上げられる点も大きな利点です。
NPO法人・株式会社との違い
労働者協同組合を理解するうえで、既存の法人形態との比較は欠かせません。
NPO法人との違いとして最も大きいのは「出資」の可否です。NPO法人では出資が認められておらず、活動資金は寄付金や補助金、借入に頼らざるを得ません。一方、労働者協同組合は組合員自身が出資できるため、より安定した資金基盤を構築できます。また、NPO法人の活動分野は法律で20種類に限定されていますが、労働者協同組合には原則として事業分野の制限がありません。
株式会社との違いは、組織の目的にあります。株式会社は営利法人であり、株主への利益還元が求められます。労働者協同組合は非営利法人であり、地域社会の需要に応えることが目的です。出資に対する配当は禁止されており、利益は労働の成果に応じた「従事分量配当」として分配されます。
設立人数もNPO法人の10人以上に対し、労働者協同組合は3人以上と少人数で始められます。この手軽さが、地方での設立を後押ししている要因の一つです。
急速に広がる設立の動き
3年で約180組合が全国に誕生
厚生労働省のデータによると、労働者協同組合の設立数は施行後着実に増加しています。2023年10月の時点では59法人でしたが、2024年10月には110法人、2025年10月には168法人へと拡大しました。2026年1月1日時点では37都道府県で177法人が設立されており、約180組合で1万人超が活動するまでに成長しています。
特筆すべきは、設立ペースが加速している点です。施行後1年で59法人だったものが、その後の1年でほぼ倍増しました。制度の認知が徐々に広がり、各地で設立を検討する動きが活発化していることがうかがえます。
地域の「困りごと」に応える多様な事業
設立された労働者協同組合が手がける事業は多岐にわたります。高齢者支援や子育て支援といった福祉分野から、店舗運営、配送サービス、広告・映像制作、イベント企画まで幅広い分野をカバーしています。
全体の約7割は、地域の医療・介護・福祉、小売・物流に加え、「暮らしの困りごと支援」といったエッセンシャルサービスを主要事業としています。家屋の修繕や雪かきなど、民間企業では採算が合いにくく、行政だけではカバーしきれないサービスこそ、労働者協同組合の真骨頂といえます。
副業として参加する組合員も多く、本業を持ちながら地域の課題解決に貢献するという柔軟な働き方が可能です。これは、担い手の裾野を広げるうえで重要なポイントです。
過疎地における期待と類似制度との連携
マルチワーカーという選択肢
労働者協同組合と類似した目的を持つ制度として「特定地域づくり事業協同組合」があります。こちらは過疎地域の小規模事業者が事業協同組合を設立し、季節ごとの労働需要に応じて組合員を派遣する仕組みです。
農業や漁業、観光など、繁忙期が季節によって偏る仕事が多い過疎地域では、一つの職場だけでは通年雇用が難しい現実があります。複数の仕事を組み合わせた「マルチワーカー」として働くことで、安定した雇用環境を実現しようという発想です。
労働者協同組合も同様に、季節労働を組み合わせて通年の活動を維持するモデルが生まれつつあります。夏場の草刈りや家屋修繕、冬場の除雪作業など、地域で求められる仕事を季節に応じて柔軟に請け負う形態は、まさに地方の人手不足に対する現実的な解答です。
自治体との連携が生む可能性
労働者協同組合として法人格を取得することで、市町村の事業を入札や公募で受託できるようになります。これにより、行政から業務委託を受けて地域の公共サービスを担うという選択肢が広がります。
有効求人倍率が2倍を超える地方も珍しくない中、「仕事はあるのにやる人がいない」という状況が各地で深刻化しています。労働者協同組合は、地域住民が自ら担い手となることで、この需給ギャップを埋める可能性を秘めています。
注意点・今後の課題
資金調達と事業継続の壁
労働者協同組合の最大の課題は、事業を継続するための資金調達です。組合員の出資金だけでは大規模な事業展開は難しく、外部からの資金調達手段が限られています。出資配当が禁止されているため、投資家からの出資を募ることもできません。
毎事業年度の剰余金から「就労創出等積立金」と「教育繰越金」をそれぞれ20分の1以上積み立てる義務もあり、利益を事業拡大に回しにくい構造があります。政策面での支援策、たとえば低利融資制度の整備や補助金の拡充が求められています。
認知度の向上が不可欠
施行から3年が経過しましたが、労働者協同組合という法人形態の認知度はまだ十分とはいえません。37都道府県で設立されているとはいえ、10の県ではまだ設立実績がない状況です。
制度の周知活動に加え、成功事例の共有や設立支援の充実が、今後の普及に向けた鍵となります。非営利性を徹底した「特定労働者協同組合」の認定を受けた組合は2026年1月時点でわずか14法人にとどまっており、制度の活用余地はまだ大きいといえます。
労働条件の確保
労働者協同組合では組合員との間で労働契約を締結し、労働基準法や社会保険が適用されます。これはNPO法人のボランティアベースの活動と比べて、働く人の権利が保護される点で大きな前進です。ただし、過疎地域では賃金水準が都市部と比べて低くなりがちであり、持続的に人材を確保するためには適切な報酬設計が欠かせません。
まとめ
労働者協同組合は、働く人が出資・経営・労働のすべてに参加する新しい法人形態です。NPO法人の資金面の弱さと株式会社の営利目的の制約を補い、地域課題の解決に取り組む人々にとって有力な選択肢となっています。
施行から3年で約180組合、1万人超が参加するまでに成長しましたが、資金調達の仕組みや認知度の向上など、克服すべき課題も残されています。人手不足が深刻化する地方において、住民自らが担い手となるこの仕組みが持続的に機能するためには、政策支援と制度の周知が両輪で進むことが重要です。
地域の暮らしを守る「最後の砦」として、労働者協同組合の動向に今後も注目が集まりそうです。
参考資料:
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