配当所得の申告で得する695万円ルールとは
はじめに
株式投資で配当収入を得ている方にとって、確定申告は節税の大きなチャンスです。通常、上場株式の配当金には20.315%の税金が源泉徴収されますが、課税所得が一定額以下であれば、確定申告をすることで税金の一部が還付される可能性があります。特に重要なのが「課税所得695万円」という判断基準です。本記事では、配当所得の申告方法の選び方、配当控除の仕組み、2026年の税制改正ポイントまで、具体的な計算例を交えて詳しく解説します。高配当株投資を行っている方は、ぜひ最後までお読みください。
配当所得の課税方法と695万円の分岐点
3つの申告方法から選択できる
上場株式の配当金を受け取った場合、以下の3つの方法から申告方法を選択できます。
1. 申告不要制度 源泉徴収(20.315%)のみで課税が完結し、確定申告は不要です。手続きの手間がかからない反面、節税のチャンスを逃す可能性があります。
2. 総合課税 他の所得と合算して課税される方法です。配当控除が適用されるため、課税所得が低い方は税負担が軽減されます。ただし、国民健康保険料などの社会保険料が増加する可能性があります。
3. 申告分離課税 他の所得とは分離して20.315%の税率で課税されます。株式の譲渡損失がある場合、配当所得と損益通算ができるメリットがあります。
なぜ695万円が分岐点なのか
2023年以降、所得税と住民税で異なる課税方式を選べなくなりました。この変更により、総合課税が有利になるのは課税所得695万円以下の場合に限定されました。
課税所得が695万円を超えると、所得税率は23%(復興特別所得税を含めて23.483%)に住民税10%を加えた33.483%になります。ここから配当控除(所得税10%、住民税2.8%の合計12.8%)を差し引いても、実効税率は20.683%となり、源泉徴収税率の20.315%を上回ってしまいます。
一方、課税所得が695万円以下の場合、所得税率は最大でも20%(復興特別所得税を含めて20.42%)です。住民税10%を合わせて30.42%から配当控除12.8%を引くと、実効税率は17.62%となり、源泉徴収税率より低くなります。
具体的な計算例
ケース1:課税所得500万円の場合
- 所得税率:20%(復興特別所得税込みで20.42%)
- 住民税率:10%
- 合計税率:30.42%
- 配当控除:12.8%
- 実効税率:17.62%
- 源泉徴収税率20.315%との差:2.695%の節税効果
ケース2:課税所得800万円の場合
- 所得税率:23%(復興特別所得税込みで23.483%)
- 住民税率:10%
- 合計税率:33.483%
- 配当控除:12.8%
- 実効税率:20.683%
- 源泉徴収税率20.315%との差:0.368%の増税
配当控除の仕組みと活用法
配当控除が設けられた理由
配当控除は、二重課税を排除するために設けられた制度です。企業の利益には法人税が課されており、その税引き後の利益から配当金が支払われます。この配当金に対して再び所得税が課されると、同じ利益に対して二重に課税されることになります。配当控除は、この不公平を調整するための税額控除制度です。
配当控除の計算方法
配当控除の控除率は、課税総所得金額によって異なります。
課税総所得金額1,000万円以下の場合
- 剰余金の配当等:所得税10%、住民税2.8%
- 証券投資信託:所得税5%、住民税1.4%
課税総所得金額1,000万円超の場合 1,000万円を超える部分については控除率が半減します。
- 剰余金の配当等:所得税5%、住民税1.4%
- 証券投資信託:所得税2.5%、住民税0.7%
配当控除を受けるための条件
配当控除を受けるには、以下の条件を満たす必要があります。
- 確定申告で総合課税を選択すること
- 日本国内に本店のある法人からの配当であること
- 外国株式の配当や公社債投資信託の収益分配金は対象外
申告分離課税のメリットと活用場面
譲渡損失との損益通算
申告分離課税の最大のメリットは、株式の譲渡損失と配当所得を相殺できる点です。例えば、A証券会社の口座で50万円の譲渡損失が発生し、B証券会社の口座で20万円の配当金を受け取った場合、確定申告により損益通算を行うことで、配当金にかかった税金(約4万円)が還付されます。
損失の繰越控除
損益通算をしても控除しきれなかった損失は、翌年以降3年間繰り越して利益と相殺できます。ただし、繰越控除を利用するには、損失が発生した年から連続して確定申告を行う必要があります。
申告分離課税が向いている人
- 株式の売買で損失が出ている
- 複数の証券口座を持っている
- 課税所得が695万円を超えている
- 配当収入よりも譲渡益を重視した投資をしている
注意点と副作用
社会保険料への影響
確定申告で総合課税を選択すると、配当所得が「合計所得金額」に加算されます。これにより、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料の算定基準となる所得が増加し、保険料が上がる可能性があります。
場合によっては、税金の還付額よりも保険料の増加額が大きくなり、トータルで損をするケースもあります。特に、国民健康保険に加入している自営業者や年金受給者は注意が必要です。
配偶者控除・扶養控除への影響
配当所得を確定申告すると、配偶者控除や扶養控除の適用可否を判断する際の「合計所得金額」に含まれます。例えば、配偶者が配当所得を申告したことで合計所得金額が48万円を超えると、配偶者控除が受けられなくなる可能性があります。
NISA口座との使い分け
NISA(少額投資非課税制度)を活用すれば、配当金に対する税金が非課税になります。2024年からの新NISA制度では、成長投資枠で年間240万円、つみたて投資枠で年間120万円、合計360万円まで投資が可能です。
高配当株投資を行う場合、まずはNISA口座を優先的に利用し、NISA枠を超える部分については課税口座で運用するという戦略が有効です。
2026年の税制改正ポイント
基礎控除と給与所得控除の引き上げ
2026年(2025年分所得)の確定申告から、以下の控除額が変更されます。
基礎控除の拡大
- 従来:48万円
- 改正後:最大95万円(所得制限あり)
給与所得控除の最低保証額引き上げ
- 従来:55万円
- 改正後:65万円
これらの改正により、給与所得者の課税所得が減少し、配当所得を総合課税で申告した場合に適用される税率が下がる可能性があります。結果として、695万円の分岐点に近い所得層の方は、総合課税がより有利になるケースが増えると考えられます。
申告スケジュール
2026年の確定申告期間は、2026年2月16日(月)から3月16日(月)までです。期限内に申告を行わないと、還付を受けられない場合や加算税が課される場合があります。
まとめ
配当所得の確定申告では、課税所得が695万円以下であれば総合課税を選択することで節税効果が期待できます。ただし、社会保険料や各種控除への影響も考慮する必要があります。
一方、株式の譲渡損失がある場合は、課税所得にかかわらず申告分離課税を選択して損益通算を行うことで、源泉徴収された税金の還付を受けることができます。
2026年の税制改正では基礎控除と給与所得控除が拡大されるため、今まで以上に確定申告のメリットを享受できる方が増えることが予想されます。ご自身の所得状況や投資スタイルに応じて、最も有利な申告方法を選択してください。
確定申告のシミュレーションを行う際は、税理士や税務署の相談窓口を活用することをお勧めします。
参考資料:
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