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by nicoxz

衆院選で強まる円安介入警戒、政府の次なる一手とは

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はじめに

2026年1月23日、衆議院が解散され、2月8日の総選挙に向けた選挙戦がスタートしました。この政治日程と並行して、為替市場では異例の動きが続いています。

解散報道を受けて一時158円台まで急落した円相場に対し、政府は「断固たる措置」という強い表現で介入姿勢を示しました。さらに、日本の通貨当局に加えてニューヨーク連邦準備銀行までもがレートチェックを実施したとの観測が流れ、市場は緊張感に包まれています。

物価高が国民の最大の関心事となる中、選挙期間中に円安が加速すれば政権与党にとって大きな逆風となります。政府はこの局面で何を考え、どのような対策を講じようとしているのでしょうか。

衆院解散と為替市場の反応

「高市トレード」の再燃

1月9日、読売新聞が「高市早苗首相は通常国会冒頭で衆院を解散する検討に入った」と報じると、外国為替市場は即座に反応しました。円は1時間で80銭も下落し、一時1ドル158円台と約1年ぶりの円安水準を記録しました。

この動きは「高市トレード」と呼ばれています。高市政権は積極的な財政拡張路線を掲げており、財政赤字の拡大は国債増発を通じて円の信認低下につながるとの見方から、円売り・株買いのポジションが膨らみやすい構図です。

三連休明けの市場では、ドル円相場が159円台を突破。早期の総選挙を織り込む動きが加速しました。

政府の危機感

政府にとって、この円安進行は選挙戦略上の大きな懸念材料です。

円安は輸入物価を押し上げ、食料品やエネルギー価格の高騰につながります。2025年11月の消費者物価指数は前年比3.0%上昇と高止まりが続いており、多くの国民が物価高に苦しんでいる状況です。

選挙の争点が物価対策となる中、投票日に向けて円安がさらに進行すれば、与党に対する批判が強まることは避けられません。政府には、選挙期間中の円暴落を何としても阻止したいという強い動機があります。

介入警戒モードの詳細

レートチェックの実施

1月23日、市場に衝撃が走りました。日本の通貨当局がディーラーに対してレートチェック(取引状況の照会)を行ったとの報道が流れ、ドル円は159円台から一時157円台へ急落しました。

レートチェックとは、財務省や日銀が銀行のディーラーに為替レートを確認する行為です。為替介入の前段階とされることが多く、市場参加者への「警告」の意味合いを持ちます。

さらに驚くべきことに、同日のニューヨーク時間にはニューヨーク連邦準備銀行もレートチェックを実施したとの観測が流れました。これを受けてドル円は155円台へと、最大で4円近い急落を見せました。

「断固たる措置」の意味

片山さつき財務相は1月16日の時点で、「あらゆる手段を含めて断固たる措置を取らせていただく」と発言していました。「断固たる措置」は、過去に為替介入が実施された前後で頻繁に使われてきた表現です。

この発言は単なる口先介入ではなく、実弾介入の準備が整っていることを示唆するものと市場では受け止められています。

日米協調介入の可能性

今回注目されているのが、日米協調介入の可能性です。

従来、円安阻止の為替介入は日本単独で行われてきました。しかし、日本単独での介入には限界があり、一時的な効果しか得られないケースが多いのも事実です。

今回、米国側がレートチェックに協力したとすれば、それは日米が協調して円安阻止に動く用意があることを示唆します。トランプ政権は貿易相手国の通貨安を嫌う傾向があり、過度な円安の阻止に協力する可能性は十分にあります。

過去の介入から学ぶ

2022年・2024年の介入実績

2022年以降、政府は3つの局面で合計7日間、約24.5兆円規模の円買い介入を実施してきました。

2022年9月には、24年ぶりとなるドル売り・円買い介入に踏み切りました。1ドル145円台まで進んだ円安に対し、9月から10月にかけて約9.1兆円を投入しました。同年10月には1ドル150円を32年ぶりに突破する場面もありました。

2024年4月から5月にかけては、1ドル160円台という34年ぶりの円安水準に対して約9.7兆円という過去最大規模の介入を実施しました。同年7月にも約5.5兆円の介入が行われています。

介入の効果と限界

為替のトレンドを決定づけるのはファンダメンタルズ(日米金利差など)であり、介入だけで円安トレンドを転換させることは困難です。

しかし、「一定程度円安の進行を抑制し、ドル安圧力が高まるまでの時間を稼いだ」という評価は可能とされています。過去の介入では、介入後に投機筋の円売りが縮小し、円安の進行ペースが鈍化するケースが多く見られました。

介入運営の特徴として、市場の不意を突くタイミングで巨額の資金を一気に投入し、その後は「覆面介入」で市場参加者を疑心暗鬼に陥らせる手法が取られてきました。今回のレートチェック観測も、こうした心理的な牽制効果を狙ったものと考えられます。

今後の見通しと注意点

円安が続く構造的要因

円安の根本的な要因は、日米金利差にあります。米国の政策金利が高止まりする一方、日本は利上げを進めているものの依然として金利水準は低く、金利差を狙った円売りが続きやすい環境です。

また、日本のエネルギーや食糧自給率の低さも、構造的な円安圧力となっています。これらのファンダメンタルズが変わらない限り、介入の効果は一時的なものにとどまる可能性があります。

選挙後のシナリオ

専門家の間では、2026年の為替見通しとして以下のようなシナリオが示されています。

財務省は150円台後半で介入警戒感をにじませており、160円を超える円安進行は何としても阻止したい考えです。一方で、円安阻止のためには日銀の利上げが不可欠であり、高市政権が日銀の緩やかな利上げを容認する姿勢を見せるかどうかが鍵となります。

市場では2026年4月の利上げ可能性を約7割織り込んでおり、円安是正に向けて日銀の利上げペースが加速する可能性も指摘されています。

国民生活への影響

円安が続けば、輸入品やエネルギー価格の上昇を通じて家計への負担が増加します。第一生命経済研究所の試算によれば、2026年は政府の物価高対策により4人家族で約2.5万円の負担軽減が見込まれますが、円安がさらに進行すればその効果も相殺されかねません。

中小企業は輸入コストの上昇を価格に転嫁しにくく、賃金の伸びが鈍くなって家計に悪影響が及ぶ可能性もあります。

まとめ

衆院解散を機に、政府は円安抑止姿勢を一段と強めています。レートチェックの実施観測や「断固たる措置」発言は、市場に対する強いメッセージです。

選挙期間中の円暴落は政権にとって許容できないシナリオであり、必要とあれば実弾介入に踏み切る可能性は十分にあります。日米協調介入の観測が浮上していることも、今回の局面の特徴です。

ただし、為替介入はあくまで対症療法であり、円安トレンドを根本から転換させる力はありません。選挙後の政府・日銀の政策運営、そして日米金利差の動向が、中長期的な為替の方向性を決めることになるでしょう。

参考資料:

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