円売り再燃で155円台、レートチェック効果が半減した背景
はじめに
2026年2月2日の外国為替市場で円を売る動きが再び強まり、一時1ドル=155円台半ばを付けました。1月23日に日米当局による「レートチェック」を受けて152円台まで円高が進んでいただけに、わずか1週間余りで上昇分の約半分を失う結果となりました。
きっかけとなったのは、高市早苗首相の衆院選応援演説での発言です。為替相場に関する言及が「円安容認」と受け止められ、投機筋の円売りを呼び込みました。
本記事では、レートチェックの仕組みと効果、首相発言が市場に与えた影響、そして今後の円相場の見通しについて解説します。
1月23日の日米協調レートチェック
159円から155円台への急落
2026年1月23日、日本銀行の金融政策決定会合後に円相場は一時1ドル=159円台を付けていました。しかし、日本の通貨当局による「レートチェック」との報道を受け、相場は急変しました。
さらに注目すべきは、NY時間に取引の中心が移った後、NY連銀も「レートチェック」を実施したとの報道が流れたことです。日米当局による「波状攻撃」の結果、ドル円相場は約159円台から155円台へ急落しました。
週明けの1月27日には152円10銭まで円高が進行。約7円もの円高となり、レートチェックが市場心理を一気に変えたことを示しました。
異例の日米協調
2024年までの円安阻止介入は全て日本の単独行動でした。今回、介入の前段階とされる「レートチェック」の段階から日米協調のスタイルとなったことは異例です。
ベッセント米財務長官は1月28日のインタビューで「米国は為替介入をしておらず、強い米ドル政策も不変」と発言しました。これは米当局のレートチェックが、トランプ政権の政策としてドル高を阻止する目的で行われたものではないことを確認する内容でした。
日米財務相会合後の米国側の姿勢からは、米当局も円安是正に向けて日銀の対応が必要との認識を示している印象があります。市場では2026年4月の日銀利上げの可能性を7割近く織り込んでいます。
高市首相の「円安容認発言」
演説での発言内容
1月31日、川崎市での衆院選応援演説において高市早苗首相は現下の円安について次のように述べました。
「輸出産業には大チャンス。もっと助かっているのが外為特会で、運用が今ホクホク状態だ」
この発言が市場参加者に「円安容認」のメッセージとして受け止められました。
市場への影響
2月2日午前の東京外国為替市場では朝方から円売りの動きが強まり、一時1ドル=155円台半ばを付けました。前週末と比べ約1円50銭の円安ドル高です。
為替介入をちらつかせて円安圧力を抑え込んでいる最中に、首相から円安を肯定する発言が出たことで、投機筋の円売りを呼び込む結果となりました。レートチェックで押し上げた円高効果の約半分を、わずか1週間で失ってしまったことになります。
東京株式市場でも日経平均株価が乱高下。朝方は一時900円超高まで上昇しましたが、買いが一巡すると利益確定売りが強まり、終値は前週末比667円67銭安の5万2655円18銭となりました。
首相の釈明
批判を受けた高市首相は2月1日、自身のX(旧ツイッター)で釈明を行いました。
「円高と円安のどちらが良くてどちらが悪いということではなく『為替変動にも強い経済構造を作りたい』との趣旨で申上げた」
また「足元の円安ではエネルギーや食品など物価高が課題であり、政府として対応すべきなのは当然のことだ」と強調しました。
しかし野党からは厳しい批判が相次ぎました。中道改革連合の野田佳彦共同代表は「円安スーパーの値札を見ながらホクホクしている人はいるか」と批判。共産党の田村智子委員長も「物価高で苦しい時に異常円安を自ら引き起こした」と指摘しました。
投機筋の動向と介入の効果
円売りポジションの拡大
足元の円安には投機的な円売りが影響しています。高市政権の拡張的な財政政策と日銀の緩やかな利上げペースを材料に、投機筋の為替先物市場における円のネット・ショートポジション(空売りの持ち高)は拡大傾向にあります。
財務省は為替レートと日米金利差の動向、特に両者の乖離の大きさを重視しているとみられます。こうした観点から、為替介入を行う一定の正当性は示されています。
介入の限界
為替のトレンドを決定づけるのはファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)であり、介入によって円安トレンドを転換させることは本質的に困難です。
しかし過去の介入を振り返ると、全てのケースで介入後に投機筋の円売りが縮小しています。多くのケースで円安の進行ペースが鈍化したり、一時的に休止したりしています。
「巧みな介入運営によって一定程度円安の進行を抑制し、ドル安圧力が高まるまでの時間を稼いだ」という評価は可能です。
介入のトリガー
分析によると、為替介入の引き金となるのは価格水準そのものよりも「ボラティリティ(変動率)」です。特に前日終値から1.2%(現在のレートで約2円)以上の円安が進んだ時、介入の確率が最大化するとの指摘があります。
日銀の金融政策と円相場
利上げ継続方針
日銀は2025年12月に政策金利を0.75%に引き上げました。1995年以来30年ぶりの高水準です。植田和男総裁は「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、引き続き政策金利を引き上げる」と利上げ継続方針を明確にしています。
市場では次の利上げ時期を「2026年前半」と予想する見方が多く、4月利上げの可能性を7割近く織り込んでいます。
米国側の姿勢
日米財務相会合後の米国側の姿勢からは、ベッセント長官は日本の為替介入に一定の理解を示しつつも、円安是正には日銀の金融政策正常化の継続がより重要だと考えている可能性があります。
協調介入に踏み込む可能性は低いとみられますが、米当局者の為替相場に関する発言には引き続き注目が必要です。
注意点・今後の展望
円相場の見通し
三井住友DSアセットマネジメントは、2026年のドル円相場について目先はドル高・円安方向に振れやすい状況が続くものの、時間の経過とともにドル安・円高方向へ緩やかに転じていくと予想しています。
具体的には155円を中心とするレンジ推移から、徐々に150円を中心とするレンジへ移行し、年末着地水準を150円と見込んでいます。野村證券はさらに円高を予想し、2026年末のドル円レートを140円としています。
政治発言のリスク
今回の事態は、政府首脳の為替に関する発言が市場に与える影響の大きさを改めて示しました。為替介入やレートチェックで円安を抑制しようとしている最中に、首相から円安を肯定するような発言が出れば、政策の整合性に疑問を持たれます。
衆院選の選挙戦が続く中、候補者や政党幹部の為替に関する発言には引き続き注意が必要です。
まとめ
2026年1月23日の日米協調レートチェックにより、円相場は159円台から152円台まで急騰しました。しかし高市首相の「円安でホクホク」発言が市場に円安容認と受け止められ、わずか1週間余りで155円台半ばまで円安が進行。レートチェックの効果は半減してしまいました。
為替介入やレートチェックには一定の効果がありますが、ファンダメンタルズに基づくトレンドを変えることは困難です。円安是正には日銀の金融政策正常化の継続が重要とされており、2026年の追加利上げの動向が注目されます。
衆院選の選挙戦が続く中、政治家の為替発言には市場が敏感に反応します。政策の整合性を保つ発言が求められる局面といえるでしょう。
参考資料:
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