EU、グリーンランド関税に17兆円規模の報復措置を検討
はじめに
2026年1月17日、トランプ米大統領はデンマーク自治領グリーンランドの取得に向けて、欧州8カ国に対し10%の追加関税を課すと発表しました。この突然の関税措置は、NATO同盟国間の関係に深刻な亀裂をもたらし、欧州連合(EU)は930億ユーロ(約17兆円)規模の報復措置を検討する事態に発展しています。
米国と欧州は2025年8月に関税停止の貿易合意を結んだばかりでしたが、グリーンランドをめぐる対立がこの合意を危機に陥れています。本記事では、この米欧貿易摩擦の背景、EUの対抗策、そして今後の見通しについて詳しく解説します。
トランプ大統領の関税発表とその背景
欧州8カ国への追加関税
トランプ大統領は自身のSNS「Truth Social」で、デンマーク、英国、フランス、ドイツ、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの8カ国からの輸入品すべてに対し、2月1日から10%の追加関税を課すと発表しました。さらに、6月1日までにグリーンランド購入の合意に至らない場合、関税率を25%に引き上げるとしています。
この8カ国は、いずれもNATO加盟国であり、米国の長年の同盟国です。同盟国に対して関税を武器として使用するという前例のない措置は、国際社会に衝撃を与えました。
軍事演習への報復
関税発表の直接的なきっかけは、1月15日に開始されたデンマーク主導の軍事演習「オペレーション・アークティック・エンデュランス」でした。この演習には、フランスが15名、ドイツが13名の兵士を派遣したほか、オランダ、ノルウェー、ベルギー、フィンランド、英国、アイスランド、スロベニアなど複数のNATO加盟国が参加しました。
デンマークはグリーンランドの防衛を担当しており、北極圏での軍事プレゼンス強化を「NATO同盟国との緊密な協力のもと」で進めると発表しています。この動きをトランプ大統領は「反米的」と解釈し、関税措置で報復したとみられます。
EUの報復措置と対抗戦略
930億ユーロ規模の関税パッケージ
英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、EUは930億ユーロ(約17兆円)規模の報復関税パッケージを準備しています。これは2025年の貿易交渉時に作成されたもので、合意が成立した際に一時棚上げされていました。
この報復パッケージは、米国との合意がなければ2月6日に自動的に発動する仕組みになっています。EU当局者は、ダボス会議での首脳会談を前に、交渉のてこ入れとして報復措置の準備を進めていると説明しています。
反強制措置法(ACI)の発動検討
フランスのマクロン大統領は、EUの「反強制措置法(Anti-Coercion Instrument)」の発動を検討するよう求めています。2023年に採択されたこの法律は、政治的恫喝を目的とした貿易措置に対抗するためのもので、以下の措置を可能にします。
- 米国企業の公共調達入札からの排除
- 貿易ライセンスの制限
- EU単一市場へのアクセス遮断
この「貿易バズーカ」とも呼ばれる措置は、これまで実際に使用されたことはありませんが、グリーンランド問題を機に初めて発動される可能性が出てきました。
欧州議会の対応
欧州人民党(EPP)のマンフレート・ウェーバー党首は、現在の状況下では米EU貿易協定の承認を進めることはできないと表明しました。「EPPは米EU貿易協定を支持しているが、トランプ氏のグリーンランドに関する脅迫を考慮すると、現段階での承認は不可能だ。米国製品への0%関税は保留されなければならない」と述べています。
欧州諸国の一致した反発
8カ国の共同声明
関税の対象となった8カ国は、1月18日に共同声明を発表しました。声明では「関税の脅迫は大西洋を跨ぐ関係を損ない、危険な悪循環を引き起こすリスクがある」と指摘し、「我々は団結して協調的に対応し続ける。主権と領土保全を守ることに全力を尽くす」と宣言しています。
各国首脳の反応
デンマークのメッテ・フレデリクセン首相は「欧州は恫喝に屈しない」と強い姿勢を示しました。英国のキア・スターマー首相はトランプ大統領と電話協議し、「NATOの集団安全保障を追求する同盟国に関税を課すことは完全に間違っている」と直接伝えました。
フランスのマクロン大統領も関税措置を「受け入れられない」と非難し、EU全体での協調的対応を呼びかけています。
緊急首脳会議の招集
欧州理事会のアントニオ・コスタ議長は、EU加盟国の大使会合を受けて、「数日以内に」EU首脳の緊急サミットを開催すると発表しました。この会議では、トランプ大統領の関税措置への対応策が協議される見通しです。
グリーンランドをめぐる地政学的背景
北極圏の戦略的重要性
グリーンランドは世界最大の島であり、北極圏に位置する戦略的要衝です。豊富なレアアース資源、北極海航路へのアクセス、そして軍事的な要地として、近年その重要性が高まっています。
米国はすでにグリーンランドにピツフィク宇宙軍基地(旧チューレ空軍基地)を保有しており、北極圏の安全保障において重要な役割を果たしています。トランプ大統領は2019年の第1期政権時代からグリーンランド取得への関心を示していましたが、今回はより具体的な圧力を加える形となりました。
グリーンランドの立場
グリーンランドのイェンス=フレデリック・ニールセン首相は、「もし選択を迫られるなら、我々はデンマークを選ぶ。NATOを選ぶ。デンマーク王国を選ぶ。EUを選ぶ」と明言しています。グリーンランドは自治権を持つデンマーク領として、EU圏内にとどまる意思を明確にしました。
注意点・今後の展望
ダボス会議での首脳会談
今週開催されるダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)では、トランプ大統領と欧州首脳との直接対話が予定されています。この場が関税紛争の緩和につながるかどうかが、当面の焦点となります。
NATOのマルク・ルッテ事務総長は、トランプ大統領と「グリーンランドと北極の安全保障状況」について協議したと述べ、ダボスでの再度の話し合いに期待を示しています。
2月1日の関税発動期限
10%の関税が発動予定の2月1日まで、交渉の時間は限られています。一方、EUの報復関税は2月6日に自動発動する仕組みであり、両者が妥協点を見いだせなければ、本格的な貿易戦争に突入する可能性があります。
NATO同盟への影響
今回の対立は、単なる貿易紛争を超えて、NATOの結束力そのものを試す事態となっています。同盟国間で関税を武器として使用するという前例ができれば、安全保障協力にも悪影響を及ぼす恐れがあります。デンマーク政府は「グリーンランドへの攻撃はNATOを事実上終わらせることになる」と警告しています。
まとめ
トランプ大統領のグリーンランド関税は、米欧関係において前例のない緊張を生み出しています。EUは17兆円規模の報復措置を準備し、欧州8カ国は団結して対抗する姿勢を見せています。
ダボス会議での首脳会談、2月1日の関税発動期限、そして2月6日のEU報復措置発動という重要なマイルストーンが控える中、今後数週間の動向が米欧関係、そしてNATO同盟の将来を左右する可能性があります。この問題は単なる貿易摩擦ではなく、戦後の国際秩序の根幹に関わる重大な局面といえるでしょう。
参考資料:
- Trump announces tariffs on NATO allies for opposing US control of Greenland - ABC News
- European leaders hit back at Trump’s Greenland tariffs threat - CNBC
- Europe Preps Retaliatory Tariffs Over Trump Greenland Threat - Newsweek
- EU mulls responding to Trump by reviving €93 billion tariff move - Fortune
- NATO nations deploy to Greenland after tense White House talks - CNBC
- Operation Arctic Endurance - Wikipedia
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