EU、対米報復関税17兆円を検討 グリーンランド問題が激化
はじめに
米欧関係が急速に悪化しています。トランプ大統領がデンマーク領グリーンランドの「購入」に固執し、反対する欧州8カ国に対して追加関税を表明したことを受け、欧州連合(EU)は17兆円規模の報復関税措置を検討しています。
2026年1月18日には欧州8カ国が共同声明を発表し、「関税による脅しは米欧関係を損ない、危険な悪循環を招く」と強く反発しました。EUのコスタ大統領は臨時首脳会議の開催を明らかにし、「いかなる威圧に対しても、われわれ自身を守る用意ができている」と宣言しています。
本記事では、グリーンランド問題の背景から、EUが検討する報復措置の内容、そして今後の米欧関係の展望について解説します。
トランプ大統領のグリーンランド領有宣言
なぜグリーンランドなのか
トランプ大統領がグリーンランド購入に関心を示したのは2019年に遡ります。当時「グリーンランドは大きな不動産だ」と発言し、物議を醸しました。しかし2026年に入り、その姿勢は「購入」から「領有」へと一段とエスカレートしています。
グリーンランドへの関心には複数の理由があります。まず、地政学的な重要性です。グリーンランドは領土の3分の2以上が北極圏内にあり、第二次世界大戦以降、北米防衛にとって重要な役割を果たしてきました。現在も米軍はグリーンランド北西部のピツフィク空軍基地に常駐し、弾道ミサイルの早期警戒システムを設置しています。
次に、中国・ロシアへの対抗です。両国が北極海でのプレゼンスを拡大する中、特に中国がグリーンランドで土地や鉱物資源の買い付けを行っていることに米国は警戒感を強めています。ロンドン大学のドッズ教授は「グリーンランド取得の真の目的は、中国の締め出しにあるのだろう」と指摘しています。
さらに、豊富な天然資源も魅力です。グリーンランドはレアアース(希土類)の埋蔵量が世界有数の規模であり、電気自動車や風力タービン、軍装備品の製造に不可欠な素材の供給源として注目されています。石油や天然ガスの埋蔵量も豊富です。
関税による圧力
トランプ大統領は2026年1月17日、グリーンランド領有に反対する欧州諸国に対して10%の輸入関税を課すと発表しました。対象となった8カ国は、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、フランス、ドイツ、イギリス、オランダです。
関税は2月1日に発効し、「グリーンランドの完全かつ全体的な購入でディールが成立しない限り」、6月には25%に引き上げると警告しています。また、軍事力行使の可能性についても「それを約束するつもりはない」と明言し、強硬姿勢を崩していません。
欧州8カ国の共同声明と反発
「危険な悪循環」への警告
対象となった8カ国は2026年1月18日、共同声明を発表しました。声明では「関税による脅しは米欧関係を損ない、危険な悪循環を招く」と明記し、トランプ大統領の姿勢を強く批判しています。
声明ではさらに「グリーンランドの主権、領土的一体性、国境の不可侵を尊重する必要がある」と強調。「グリーンランドは住民のものであり、デンマークやグリーンランドに関する事項を決定する権利はデンマークとグリーンランドのみに属する」と主張しています。
NATOへの影響懸念
デンマークのフレデリクセン首相は「米国が北大西洋条約機構(NATO)加盟国への軍事攻撃を選択すれば、NATOと第2次世界大戦終結以降に提供されてきた安全保障を含むすべてが停止する」と厳しい警告を発しました。
また、ドイツのクリンクバイル財務相は1月19日、トランプ大統領によるグリーンランド併合の脅しはEUにとって「レッドライン(越えてはならない一線)」であると主張。「われわれは新たな挑発と敵意を次々と目の当たりにしている。トランプ氏がそれを意図しているからだが、それが限度に達した」と述べています。
欧州独自の軍事演習
欧州NATO加盟国は、グリーンランドで「北極の忍耐(Arctic Endurance)作戦」と名付けた軍事演習を実施することを決定しました。ドイツ、フランス、イギリス、デンマークなどが参加し、1月15日にはドイツが13人からなる偵察隊を派遣しています。
デンマーク国防省は「目標は極地環境で作戦遂行能力を強化し、これを通じて欧州と大西洋の安全保障のためのNATO同盟を強化すること」と説明しています。
EUが検討する17兆円規模の報復措置
報復関税の再発動
EUは米国との貿易合意を受けて2025年8月から半年間停止していた米国製品への追加関税の再発動を検討しています。この報復関税の規模は930億ユーロ(約17兆円)に上ります。
英紙フィナンシャル・タイムズによると、EUは2月6日に停止期間が終了する予定のこの措置について、延長するかどうかを2月1日以降に決定する見通しです。
反威圧措置(ACI)の活用
EUはより強力な対抗手段として「反威圧措置(ACI)」の活用も視野に入れています。ACIは2023年に採択された規則で、「経済的恐喝」を行う非友好国に対して、貿易ライセンスの制限や単一市場へのアクセス遮断などの制裁を科すことを可能にするものです。
具体的には、ACIが発動されればEUは以下の措置を講じることができます。
- 米国サプライヤーのEU市場へのアクセス制限
- EU域内の公共入札への参加排除
- 財・サービスの輸出入制限
- 域内への外国直接投資の制限
ACIは「核オプション」とも呼ばれ、これまで一度も使用されたことがありません。フランスのマクロン大統領は、EUの「貿易バズーカ」を初めて使う時が来たと主張しています。
現時点での慎重姿勢
ただし、EU加盟国は現時点ではACIを含む即時の報復措置の発動を見送っています。ブリュッセルで開催されたEU大使の緊急会議では、「現時点では、ACIやその他の貿易手段を米国に対して展開する予定はない」との決定がなされました。
外交筋によると、EUはまず外交的解決を模索する姿勢を示しつつも、報復措置の準備を進めているとのことです。
今後の展望と懸念
米欧関係の悪化リスク
グリーンランド問題は、単なる領土問題を超えて米欧関係全体に波及するリスクをはらんでいます。特に懸念されるのは、NATO同盟への影響です。
トランプ大統領がNATO加盟国に対して関税や軍事力行使を示唆していることは、戦後の安全保障秩序を根本から揺るがしかねません。一部の専門家からは、米国のNATO離脱すら現実味を帯びてきたとの指摘もあります。
世界経済への影響
17兆円規模の報復関税が発動されれば、世界経済への影響は避けられません。米欧間の貿易は世界最大規模であり、関税戦争の激化は両地域の消費者や企業に大きな負担を強いることになります。
また、北極海航路の重要性が高まる中、グリーンランドをめぐる対立は、グローバルな物流にも影響を及ぼす可能性があります。
2月以降の焦点
当面の焦点は、2月1日に予定されているトランプ大統領の関税発動と、2月6日に期限を迎えるEUの報復関税停止措置の扱いです。EUが停止を延長するか、それとも報復関税を再発動するかによって、米欧関係の行方が大きく左右されることになります。
まとめ
トランプ大統領のグリーンランド領有宣言は、米欧関係に深刻な亀裂をもたらしています。EUは17兆円規模の報復関税や反威圧措置(ACI)の発動を検討しており、事態のエスカレーションが懸念されます。
欧州8カ国の共同声明やNATO軍事演習の実施は、欧州がトランプ政権の圧力に屈しない姿勢を明確にしたものといえます。一方で、同盟関係の維持と自国の利益保護の間で、難しい舵取りを迫られています。
グリーンランド問題の行方は、今後の国際秩序を占う試金石となりそうです。2月以降の動向に注目が集まります。
参考資料:
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