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by nicoxz

会議を変える「アメトーーク!式」ファシリテーション術

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はじめに

「会議で部下が発言しない」「いつも同じ人ばかりが話している」。こうした悩みを抱える管理職は少なくありません。早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授は、この問題に対してユニークな解決策を提示しています。それは、バラエティ番組「アメトーーク!」の進行手法に学ぶというアプローチです。

企業が多様性を推進するうえで、社員の多様な意見を引き出すことは最重要課題の一つです。そのカギを握るのが、管理職のファシリテーション力です。本記事では、入山教授の知見をもとに、会議の質を劇的に変えるファシリテーション術について解説します。

「しゃべらないリーダー」が会議を変える

さんま御殿とアメトーーク!の決定的な違い

入山教授は、ファシリテーションの本質を理解するために、2つのバラエティ番組を比較しています。「踊る!さんま御殿!!」と「アメトーーク!」です。

「さんま御殿」では、明石家さんまさんが圧倒的な存在感で場を仕切ります。出演者は「さんまさんに指名されないと発言できない」「面白いことを言わないと次から指名してもらえない」という構造になっています。これは、入山教授の言葉を借りれば「ファシリテーションの観点では最悪」の状態です。

一方、「アメトーーク!」の蛍原徹さんは、MCでありながらほとんどしゃべりません。「ケンコバ、どう思う?」「ザキヤマ、どう?」と出演者に振るだけで、自分は黒子に徹しています。この「存在感を消す」スタイルこそが、新しい時代のファシリテーションだと入山教授は指摘します。

心理的安全性が生む自発的な発言

蛍原さんがしゃべらないことで、出演者の間に心理的安全性が生まれます。MCが場を支配しないため、出演者同士の横の関係が自然と形成され、ひな壇芸人が自らアドリブを始めるようになります。

これは企業の会議にも直接当てはまります。上司が常に主導権を握り、意見を評価・批判する環境では、部下は「余計なことを言って評価を下げたくない」と萎縮します。しかし、上司がファシリテーターに徹して聞き役に回れば、メンバーは安心して自分の考えを述べられるようになるのです。

テーマ設定と事前準備の重要性

アメトーーク!に学ぶ「場のデザイン」

「アメトーーク!」が成功している理由は、蛍原さんの進行スタイルだけではありません。番組の特徴的な仕組みとして、事前にゲスト全員を集めた打ち合わせがあります。この場で、出演者自身が「自分ならではのエピソード」を持ち寄り、トークテーマを共同で設計していきます。

ビジネスの会議でも同様のアプローチが有効です。会議の前にアジェンダを共有し、参加者が事前に考えを整理できる時間を設けることで、会議本番での発言の質が格段に上がります。特に、内向的な性格のメンバーにとっては、事前準備の時間が極めて重要です。

テーマの絞り込みが対話を活性化する

「アメトーーク!」では「家電芸人」「運動神経悪い芸人」など、毎回明確なテーマが設定されています。このテーマの絞り込みが、出演者の専門性や経験を最大限に引き出しています。

企業の会議でも、議題を漠然とした「売上について」ではなく、「今月の新規顧客獲得で成功した施策は何か」のように具体化することで、参加者が自分ごととして発言しやすくなります。入山教授は、ファシリテーターの最も重要な役割の一つが、このテーマの設定と絞り込みだと述べています。

GAPジャパンに見るファシリテーション経営

全管理職をファシリテーターに

入山教授が注目する企業の実践例として、米GAPの日本法人の取り組みがあります。GAPジャパンで人事トップを務めた志水静香氏は、同社の管理職を全員ファシリテーターにすることに注力しました。

GAPは多様性を重要視する企業として知られています。多様なバックグラウンドを持つ従業員の能力を最大限に引き出すためには、一人ひとりが安心して意見を言える環境が不可欠です。その環境づくりの中心に据えたのが、管理職のファシリテーション力の向上でした。

ダイバーシティ経営の基盤としてのファシリテーション

志水氏は2008年からダイバーシティを実現するための人事制度の構築に取り組み、その中核にファシリテーション研修を位置づけました。非正規社員の能力開発やキャリア開発、女性活躍推進においても、まず管理職が「聞く力」を身につけることが出発点だったのです。

この取り組みは他企業からも注目を集め、志水氏のもとには多くの企業の人事担当者から相談が寄せられました。ファシリテーション力の向上が、単なる会議術にとどまらず、組織変革の原動力になることを示した好例です。

実践のための3つのポイント

1. ひたすら聞く

ファシリテーターの最も重要なスキルは「聞く力」です。入山教授は「ファシリテーターはしゃべらないほうがいい」と断言しています。相手の発言を反復して受け止める「オウム返し」や、うなずきながら聞く姿勢が、発言者に安心感を与えます。

具体的には、部下の発言に対して即座に評価や反論をするのではなく、「なるほど、つまり〇〇ということですね」と確認する習慣をつけることが効果的です。

2. しゃべっていない人に話を振る

会議では、声の大きい人や積極的な人の発言が場を支配しがちです。ファシリテーターは意識的に発言の偏りを防ぎ、「〇〇さんはこの件についてどうお考えですか?」と優しく問いかけることで、多様な視点の意見を引き出せます。

このとき重要なのは、指名された人が答えやすい質問の形にすることです。「何か意見ありますか?」という漠然とした質問より、「現場の立場から見て、この施策で気になる点はありますか?」のように具体化するほうが、回答のハードルが下がります。

3. 脱線したら軌道修正する

自由な発言を促すと、議論が本題から逸れることもあります。このとき、ファシリテーターは穏やかに軌道修正する役割を担います。「面白い視点ですね。それは別の機会に深掘りしましょう。今日は〇〇について結論を出したいのですが」のように、発言を否定せずに本題に戻すことがポイントです。

注意点・展望

よくある失敗パターン

ファシリテーションの導入でありがちな失敗は、形だけ真似てしまうことです。「しゃべらない」を文字通り解釈して、場が沈黙してしまったり、逆に「意見を求める」ことに固執して参加者にプレッシャーを与えてしまうケースがあります。

大切なのは、まず管理職自身が「自分が正解を持っているわけではない」というマインドセットを持つことです。上から答えを与えるのではなく、チームの知恵を引き出すという姿勢が、ファシリテーションの本質です。

これからの時代に求められるリーダー像

入山教授は、これからの時代に求められるリーダーシップを「あるがままのリーダーシップ」と表現しています。取り繕うことなく自分自身をさらけ出し、リーダー自身の透明性を高めることが、チームの信頼感と心理的安全性を育みます。

権威で組織を引っ張るトップダウン型のリーダーシップは、SNS時代には通用しにくくなっています。多様な人材の力を束ね、イノベーションを生み出すには、ファシリテーター型のリーダーが求められる時代です。

まとめ

入山章栄教授が提唱する「アメトーーク!式ファシリテーション」は、会議改革の具体的な指針を示しています。MCが存在感を消して心理的安全性を高め、テーマを明確に絞り、参加者の自発的な発言を促す。この手法は、GAPジャパンのような先進企業でも実践され、成果を上げています。

明日からの会議で実践できることは、まず「自分がしゃべる量を半分に減らす」ことです。その代わりに「聞く」「振る」「軌道修正する」の3つに集中してみてください。小さな変化が、チームの対話の質を大きく変える第一歩になります。

参考資料:

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