Research

Research

by nicoxz

フジHDが村上氏に譲歩、2350億円の自社株買いへ

by nicoxz
URLをコピーしました

はじめに

2026年2月3日、フジ・メディア・ホールディングス(FMH)が大規模自社株買いと不動産事業の再編検討を発表しました。自社株買いは上限2350億円で、発行済み株式総数の約3分の1に相当する異例の規模です。

この決定は、アクティビスト(物言う株主)である村上世彰氏側への大幅な譲歩といえます。村上氏側は株式公開買い付け(TOB)の方針を撤回し、両者の対立は収束に向かいます。

この記事では、フジHDと村上氏側の攻防の経緯、今回の合意内容、そして放送業界への影響について解説します。

村上世彰氏とは何者か

日本を代表するアクティビスト投資家

村上世彰氏は1959年生まれ、現在シンガポール在住の投資家です。東京大学卒業後、通商産業省(現・経済産業省)で約16年勤務した後、1999年に退官しました。

退官後、M&Aコンサルティング(通称「村上ファンド」)を設立し、「物言う株主」として日本の投資業界に旋風を巻き起こしました。現金や遊休資産を抱えながら有効活用していない上場企業の株式を取得し、配当増額や資産売却など株主価値向上を積極的に提案するスタイルで知られています。

過去の主な投資案件

村上氏は2002年にアパレルメーカー東京スタイル、2003年にニッポン放送、2005年に阪神電気鉄道など、数々の上場企業に投資してきました。阪神電鉄への投資では、プロ野球球団「阪神タイガース」の上場も提案し、大きな話題となりました。

2006年にインサイダー取引で逮捕・起訴され、ファンドは解散に追い込まれましたが、2013年頃から個人資産を元手に投資活動を再開しています。

現在の投資体制

現在は村上氏本人のほか、長女の野村絢氏や投資会社「レノ」「C&I Holdings」などを通じて投資活動を行っています。これらの投資主体は「旧村上ファンド系」と呼ばれ、日本株市場で依然として大きな影響力を持っています。

フジHDへの投資と対立の経緯

2025年4月:株式取得開始

村上世彰氏に関連する投資ファンドは、2025年4月にフジ・メディア・ホールディングスの株式5.2%を取得したことを報告しました。この時点から、フジHDに対する経営改善要求が始まりました。

投資の背景:フジテレビの不祥事

フジHDへの投資が注目された背景には、2024年末から2025年にかけて発覚したフジテレビの不祥事があります。元タレントと女性アナウンサーのトラブルをめぐる対応が批判を浴び、100社以上のスポンサーがCM出稿を停止する事態に発展しました。

2025年1月には社長と会長が辞任、3月には長年経営の中枢にいた相談役も退任しました。第三者委員会は「経営の体をなしていない」と厳しく批判し、ガバナンス(企業統治)の欠陥が浮き彫りになりました。

保有比率16%まで拡大

村上氏側は株式取得を進め、野村絢氏や関連投資会社を合わせた保有比率は約16%にまで拡大しました。約7億ドル(約1050億円)相当の株式を取得し、フジHDの最大株主となりました。

米ロサンゼルスを拠点とするヘッジファンド「ダルトン・インベストメンツ」も野村絢氏と連携し、フジHDに対する経営改革要求を強めました。

TOB提案と買収防衛策

村上氏側は、保有比率を33.3%まで高めるTOB(株式公開買い付け)を提案しました。これに対しフジHDは2025年7月に買収防衛策を導入し、対抗姿勢を示しました。

村上氏側は不動産事業の分離・売却を求め、「サンケイビル」など傘下の不動産会社の買収も検討していると報じられました。

今回の合意内容

2350億円の自社株買い

フジHDは2026年2月3日、村上氏側が保有するFMH株について、2350億円を上限に買い取ると発表しました。取得株数の上限は7100万株で、発行済み株式総数(自己株式除く)の34.37%に相当します。

この規模の自社株買いは異例であり、発行済み株式の約3分の1を一度に取得することになります。村上氏側の野村絢氏やレノなどと、保有株売却で合意しました。

不動産事業への外部資本

フジHDは清水賢治社長の会見で、不動産事業に外部からの出資受け入れを検討することを発表しました。「完全売却の可能性も排除しない」とし、村上氏側が求めていた不動産再編に応じる姿勢を示しました。

傘下のサンケイビルなど不動産事業は、本業の放送事業よりも収益性が高く、フジHDの「隠れた価値」として村上氏側が注目していました。

村上氏側のTOB撤回

合意を受け、村上氏側はTOBの方針を撤回しました。保有株式を売却することで、両者の対立は収束に向かいます。

放送業界への影響

アクティビスト投資の成功事例

今回の合意は、日本の放送業界でアクティビスト投資家が大きな成果を上げた象徴的な事例となりました。村上氏側は約1年の投資期間で、大規模な自社株買いと不動産事業の再編検討を引き出しました。

この成功事例は、他の放送・メディア企業にもアクティビスト投資家の関心が向かうきっかけとなる可能性があります。

放送事業の将来性への懸念

今回の騒動は、フジHDの本業である放送事業の成長性に疑問を投げかけています。テレビ視聴率の低下やネット動画配信サービスとの競争激化により、放送業界全体が構造的な課題を抱えています。

フジHDは自社株買いと不動産売却で独立維持を図りましたが、本業の放送事業の成長戦略は依然として不透明です。

ガバナンス改革の必要性

2025年の不祥事で露呈したガバナンスの欠陥は、フジHDだけでなく日本のメディア業界全体の課題を浮き彫りにしました。外部の目による監視や経営の透明性向上が、今後一層求められることになります。

注意点と今後の見通し

財務への影響

2350億円という巨額の自社株買いは、フジHDの財務状況に大きな影響を与えます。手元資金の減少や借入金の増加が予想され、今後の投資余力が制限される可能性があります。

不動産売却後の収益構造

不動産事業は安定した収益源でしたが、売却後は放送事業への依存度が高まります。放送事業の収益改善なしには、中長期的な企業価値向上は困難です。

他のアクティビストの動向

村上氏側との対立は収束しましたが、米ダルトン・インベストメンツなど他のアクティビスト投資家の動向も注視が必要です。経営改革が不十分と判断されれば、再び株主からの圧力が強まる可能性があります。

まとめ

フジHDの2350億円自社株買いと不動産再編検討は、村上世彰氏側への大幅な譲歩であり、日本の放送業界で前例のないアクティビスト対応となりました。

一連の不祥事でガバナンスの欠陥が露呈したフジHDは、独立維持のために苦渋の決断を迫られました。しかし、本業である放送事業の成長戦略は依然として見えず、経営再建の道のりは険しいものがあります。

今回の事例は、日本企業のガバナンスと株主価値向上について、改めて考えさせられる出来事といえます。

参考資料:

関連記事

最新ニュース