日米欧レアアース供給網構築へ、中国依存脱却の挑戦

by nicoxz

はじめに

2026年1月、片山さつき財務相がレアアース(希土類)の供給網構築の重要性を訴え、日本と米欧諸国が協力することで中国によるレアアースの独占や「武器化」を防げると主張しました。この発言は、中国が1月6日に対日輸出規制を強化したことを受けたもので、日本政府の経済安全保障に対する危機感の高まりを示しています。本記事では、レアアースをめぐる国際情勢の変化、日本が直面する課題、そして民主主義国家による新たなサプライチェーン構築の展望について解説します。

中国によるレアアース輸出規制の実態

2026年1月の輸出規制強化

2026年1月6日、中国商務省は日本向けの軍民両用品(デュアルユース品目)の輸出規制を強化すると発表しました。この措置は、高市早苗首相が2025年11月の国会で「中国の台湾侵攻は日本の存立危機事態に該当する可能性がある」と発言したことへの報復とされています。

規制対象には約1,100品目の軍民両用品が含まれており、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウムなど、中重希土類7種類が含まれる可能性が高いとされています。さらに1月9日には、民生用レアアースの輸出も制限されていることが明らかになり、輸出許可の審査が厳格化されています。

中国のレアアース市場支配

中国は現在、世界のレアアース生産量の約70%を占め、精製・分離プロセスでは90%以上の市場シェアを持っています。中国のレアアース埋蔵量は約4,400万トンで、鉱石生産量は年間約27万トンに達し、それぞれ世界の約50%、70%を占めています。

特に重要なのは、ジスプロシウムやテルビウムなどの重希土類について、日本はほぼ100%を中国に依存している点です。これらは電気自動車(EV)モーターに使用されるネオジム磁石の補助材料として不可欠な素材です。

「武器化」の実態

欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、「中国はレアアース磁石の世界市場を支配し、この独占を交渉材料としてだけでなく、主要産業における競合国を弱体化させる武器として使用している」と警告しています。

実際、中国は2010年の尖閣諸島問題、2019年の米中貿易摩擦、2025年4月の輸出規制など、複数回にわたってレアアースを外交カードとして使用してきました。大和総研の試算によれば、すべてのレアアース関連製品が中国から1年間禁輸された場合、日本の実質GDPは1.3%減少する可能性があります。

日本の対応策と課題

これまでの取り組み

日本は2010年の尖閣問題以降、中国依存からの脱却を目指して4つの主要な取り組みを進めてきました。

第一に、調達先の多様化です。オーストラリア、インド、カザフスタンなどとのパートナーシップを通じて、中国以外からの調達ルートを確保してきました。第二に、代替技術の開発です。レアアースフリー磁石や代替材料の研究開発を推進しています。第三に、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を通じた国家備蓄の強化です。そして第四に、使用済み製品からレアアースを回収するリサイクル技術の促進です。

これらの努力により、日本のレアアース輸入における中国依存度は、尖閣危機時の約90%から現在の約60%まで低下しました。

残る構造的課題

しかし、重希土類についてはほぼ100%を中国に依存しており、完全な脱却は実現していません。リサイクルについても、現在のところ世界全体の需要の5%未満しか供給できていません。

また、中国以外の鉱山からの調達を増やしても、精製・分離プロセスの90%以上を中国が握っているため、サプライチェーン全体での脱中国は容易ではありません。

今回の規制による影響

野村證券の分析によれば、今回の輸出規制強化による経済的損害は限定的である可能性があります。これは、中国側も日本市場への依存度が高く、完全な禁輸には慎重であると考えられるためです。

ただし、輸出許可の審査厳格化により納期遅延が発生する可能性があり、自動車や産業機械などの製造業に影響を与える懸念があります。実際、2025年4月の輸出規制時には、日米欧の自動車メーカーが一時的に生産停止を余儀なくされました。

日米欧によるサプライチェーン構築

片山財務相の提言

片山財務相は1月8日の収録で、米欧と協力して「まともな民主主義国家、市場主義国家のレアアース市場をつくる」と述べました。彼女は1月11日から訪米し、ワシントンで開催されるG7財務相会合に出席する予定です。

この会合では、中国のレアアース供給途絶リスクを念頭に、重要鉱物のサプライチェーン強化戦略が討議される予定です。G7各国および重要鉱物産出国の財務相が参加する見通しです。

日米の重要鉱物パートナーシップ

2025年10月28日、トランプ大統領と高市早苗首相は、レアアース、リチウム、コバルト、ニッケルの供給確保に関する重要な合意に署名しました。この合意は、両国が初めて重要鉱物のサプライチェーン強化に関する共通の枠組みにコミットしたもので、以下の要素が含まれています。

第一に、米国エネルギー省長官と日本の経済産業大臣のリーダーシップの下、優先鉱物と供給脆弱性を特定する日米重要鉱物供給安全保障迅速対応グループの設置です。第二に、鉱物リサイクル技術への共同投資と、サプライチェーンの多様化を支援する重要鉱物およびレアアーススクラップの管理協力です。第三に、米国、日本、その他の地域における鉱物資源のマッピング協力です。

欧州との連携

フランスと日本の協力によるラック(フランス)でのレアアース酸化物生産プロジェクトは、国境を越えた協力がサプライチェーンの異なる部分をどのように結びつけられるかを示しています。

日本は欧州連合(EU)、オーストラリアとも国際協定を締結し、中国以外への供給網多様化を進めています。米国、日本、EUはリサイクルプログラムを拡大し、古いモーターや電子機器からレアアースを回収することで、採掘材料への依存を減らす取り組みを進めています。

課題と実現可能性

しかし、この国際協力には課題も多く存在します。米国、日本、韓国、カナダ、オーストラリア、欧州各国がそれぞれ数十億ドルを投じて、分断されたサプライチェーンの同じ部分を再構築しようとしており、効率性に欠ける面があります。

また、両国とも中国へのレアアース依存度が高く、共同プロジェクトを迅速に実現するために必要な一貫した資金調達とガバナンス機構が不足しているため、実施が主要な課題となっています。

注意点と今後の展望

中国にとっても「諸刃の剣」

レアアースの輸出規制は中国にとっても諸刃の剣です。中国がレアアースと磁石の優位性を武器化すればするほど、他国が中国以外の鉱山や企業に投資するインセンティブが高まり、将来的に中国が交渉力を失う可能性があるためです。

実際、米国国防総省は2025年7月、カリフォルニア州のマウンテンパス鉱山(世界第2位のレアアース産出鉱山)を所有するMP Materials社との官民パートナーシップ契約を発表しました。中国の輸出規制がかえって西側諸国の投資を加速させる結果となっています。

時間との戦い

新たなサプライチェーン構築には時間がかかります。鉱山開発から精製施設の建設、製造プロセスの確立まで、通常5年から10年を要します。その間、日本企業は中国からの供給に依存せざるを得ず、地政学リスクにさらされ続けます。

リサイクル技術の重要性

短期的には、リサイクル技術の強化が現実的な選択肢となります。使用済み製品からのレアアース回収は、新規採掘よりも環境負荷が低く、国内で完結できる利点があります。日本は世界有数のリサイクル技術を持っており、この分野での技術革新が期待されています。

まとめ

片山財務相が提唱する日米欧によるレアアース供給網構築は、中国の経済的威圧に対抗し、民主主義国家の経済安全保障を強化する重要な取り組みです。2025年10月の日米重要鉱物パートナーシップ締結、2026年1月のG7財務相会合など、具体的な動きが加速しています。

しかし、中国が世界のレアアース市場の70%を支配し、精製プロセスの90%以上を握る現状を考えると、完全な脱中国には長い時間と巨額の投資が必要です。短期的にはリサイクル技術の強化と備蓄の拡充、中期的には代替技術の開発、長期的には米欧豪印などとの連携による新たなサプライチェーン構築という多層的なアプローチが求められます。

今回の中国の輸出規制強化は、日本にとって経済安全保障の脆弱性を再認識させる契機となりました。民主主義国家による「レアアース市場」の創設という片山財務相のビジョンが実現できるかどうかは、今後数年間の国際協力と技術革新にかかっています。

参考資料:

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