日英伊の次期戦闘機開発、官民契約に遅れ 欧州情勢が影響
はじめに
日本、英国、イタリアの3カ国による次期戦闘機の共同開発プログラム「GCAP(グローバル戦闘航空プログラム)」を巡り、官民間の契約締結に遅れが生じています。3カ国は2035年の配備開始を目指していますが、欧州の安全保障環境が激変する中、特に英国側の対応が計画に影を落としています。
トランプ米政権がNATO加盟国に防衛費のGDP比5%への引き上げを迫る中、英国は財政負担の急増に直面しています。この影響がGCAPの契約交渉にも及んでおり、日本の防衛計画にとっても看過できない事態となっています。本記事では、GCAPの現状と課題、そして今後の見通しについて詳しく解説します。
GCAPとは何か
第6世代戦闘機の共同開発
GCAPは、日本、英国、イタリアの3カ国が共同で開発する第6世代ステルス戦闘機プログラムです。英国とイタリアではユーロファイター・タイフーンの後継機として、日本では航空自衛隊のF-2戦闘機の後継機として位置づけられています。
開発は2021年から2025年までのコンセプト策定・評価段階を経て、2025年から2035年が設計・開発期間、2035年以降が生産段階となります。2027年には実証機の初飛行が予定されており、2035年の実戦配備を目標としています。
GIGO(政府間機関)とエッジウィングの設立
共同開発を管理する国際機関「GIGO」は2025年7月、英国南部のレディングに設立されました。初代トップには岡真臣・元防衛審議官が就任しています。
また、設計・開発を担う合弁企業「エッジウィング」も2025年6月に設立されました。日本のJAIEC(日本航空機産業振興協会傘下)、英国のBAEシステムズ、イタリアのレオナルドがそれぞれ33.3%ずつ出資しています。
各国の役割分担
費用分担とワークシェアについては、GIGOの運営費用は3カ国が公平に分担しますが、開発全体の費用分担はワークシェアの結果に依存します。2025年4月から本格的な議論が始まっており、各国の技術的強みを活かした役割分担が検討されています。
契約締結の遅れと背景
2025年末までの契約が未達成
GIGOと民間合弁会社エッジウィングは、2025年末までに最初の契約を締結する予定でした。2025年11月25日には、小泉進次郎防衛相と英国のヒーリー国防相、イタリアのクロセット国防相がテレビ協議を行い、年内の契約締結に向けて連携することを確認しました。
しかし、開発は計画から若干遅れているとの指摘があります。2035年の初号機配備を目指す場合、本来は2025年中に試作機の製造が始まっている必要がありますが、具体的な動きはまだこれからという状況です。
英国の財政的プレッシャー
契約遅延の一因として、英国が拠出額を確定できないことが挙げられています。英国国防省はGCAPに対し2021年以来20億ポンドを投じており、今後10年間で120億ポンド以上を予算計上しています。しかし、トランプ政権による防衛費増額圧力が財政計画に影響を与えています。
2025年6月のNATO首脳会議で、加盟国は防衛費をGDP比5%に引き上げる目標で合意しました。英国政府は2027年までにGDP比2.5%、2035年までに3.5%への引き上げを約束していますが、この大幅な増額が他の防衛プログラムへの影響も含め、GCAPの予算確定を難しくしています。
欧州安全保障環境の激変
ウクライナ情勢を背景に、欧州の安全保障環境は大きく変化しています。トランプ政権は「ウクライナ情勢は欧州の問題であり、欧州が相応の軍事費を負担すべき」という立場を明確にしており、欧州諸国に急激な防衛費増額を迫っています。
この圧力の下、英国を含む欧州各国は短期的な防衛ニーズへの対応と、GCAPのような長期プロジェクトへの投資のバランスを取ることが困難になっています。2025年の欧州における防衛費の実質成長率は、当初予測の3.5%から12.3%に急上昇しており、財政的余裕が限られる中での優先順位付けが課題となっています。
日本への影響と懸念
F-2退役のタイムライン
日本の防衛計画者にとって、GCAPの遅延は深刻な問題です。現行のF-2戦闘機は2035年に退役予定であり、後継機の配備が遅れれば、航空戦力に空白期間が生じる可能性があります。
2025年12月26日に開催された第11回次期戦闘機システム開発推進委員会で、宮澤博行防衛副大臣は2035年の配備目標を維持する方針を確認しました。しかし、英国やイタリアとの調整が遅れれば、このスケジュールの達成は困難になりかねません。
過去の多国間プロジェクトの教訓
英国下院防衛委員会の報告書は、「過去の多国間防衛プロジェクトでは、コスト増大と遅延が頻繁に発生してきた。GCAPが野心的な目標達成を達成するには、従来の枠を破る必要がある」と警告しています。
ユーロファイター・タイフーンの開発でも、参加国間の調整難航により大幅な遅延とコスト増が発生した経緯があります。イタリアもこの経験から教訓を得ており、2035年目標の達成を特に重視しているとされています。
拡大をめぐる議論
GCAPへの参加国拡大を求める声もありますが、日本は慎重な姿勢を示しています。参加国が増えれば開発の遅延リスクが高まることを懸念しており、まずは3カ国での開発を着実に進めることを優先しています。
注意点・展望
コスト管理の重要性
英国政府と産業界の双方に対し、GCAPの進行に伴いコストを厳格に管理することが求められています。英国下院の報告書は、防衛予算が逼迫する中でのコスト管理の重要性を強調しており、非現実的なコスト見積もりが「組織的な遅延、大幅な予算超過、そして大幅に縮小された調達数」につながってきた過去の教訓に言及しています。
人材確保の課題
英国では軍事人材の確保が長年の課題となっています。防衛分野への投資不足が続いた結果、人材流出が進んでおり、GCAPのような先端プロジェクトに必要な技術者・エンジニアの確保も懸念材料です。
2027年の実証機飛行が試金石
今後の最も重要なマイルストーンは、2027年に予定されている実証機の初飛行です。この目標を達成できるかどうかが、2035年配備という最終目標の実現可能性を占う指標となります。
日本の防衛費議論への影響
トランプ政権はアジアの同盟国にも防衛費増額を求めており、「欧州よりも大きな脅威に直面しているアジアの主要同盟国が、それ以下の国防支出に留まるのは問題」との発言もあります。日本の防衛費議論にも影響が及ぶ可能性があり、GCAPへの投資拡大も含めた検討が必要になるかもしれません。
まとめ
日英伊による次期戦闘機GCAPの共同開発は、2035年の配備開始という野心的な目標に向けて進んでいますが、官民間の契約締結に遅れが生じています。トランプ政権による欧州への防衛費増額圧力が英国の財政判断に影響を与えており、予算の確定が難航していることが主な要因です。
GIGOとエッジウィングという枠組みは整いつつありますが、過去の多国間プロジェクトで繰り返されてきたコスト増大と遅延のリスクを回避するには、参加国間の緊密な連携と厳格なプロジェクト管理が不可欠です。日本としては、F-2の退役時期を見据えつつ、英伊両国との調整を加速させる必要があります。
2027年の実証機初飛行という次の重要なマイルストーンを確実に達成できるかどうかが、このプロジェクトの成否を占う試金石となるでしょう。
参考資料:
- Global Combat Air Programme - Wikipedia
- Japan Confirms 2035 Timeline for New Sixth-Generation Fighter With UK and Italy | Army Recognition
- As Japan clamours for new fighter jets, UK-Italy GCAP delays test Tokyo’s patience | South China Morning Post
- Global Combat Air Programme - Parliament UK
- What is the Global Combat Air Programme (GCAP)? - House of Commons Library
- 何を得るため何を譲るか―NATO防衛費交渉に見る対米戦略― | 日本総研
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