国内金先物にサーキットブレーカー発動、最高値更新の背景
はじめに
2026年1月29日、大阪取引所で金(ゴールド)先物の売買が一時停止されるサーキットブレーカーが発動しました。前日比の上昇率が制限値幅の10%に達したことによるもので、2025年10月以来の発動です。
取引再開後も金先物(中心限月)は続伸し、前日比1,753円(6.6%)高の1グラム2万8,498円を記録して最高値を大幅に更新しました。田中貴金属の店頭小売価格も2万9,815円に達し、3万円の大台が目前に迫っています。この記事では、金価格急騰の背景と今後の見通しについて解説します。
金価格急騰の経緯
2026年1月の急上昇
2026年に入ってから金価格は一段と上昇ペースを加速させています。1月の主な動きを振り返ります。
1月14日、ドル円が159.45円を記録する円安の進行を受け、国内金の店頭小売価格は1グラム2万6,051円で最高値を更新しました。その後も連日のように最高値を塗り替え、1月21日には2万7,287円、1月23日には2万7,929円と急ピッチで上昇しました。
1月28日に国内価格は初めて2万8,000円台(2万8,403円)に到達し、翌29日には2万9,815円まで上昇しています。わずか半月で約4,000円もの値上がりとなりました。
国際市場でも記録的な高値
国際市場でも金は1トロイオンスあたり5,500ドルを超える水準まで上昇しています。ゴールドマン・サックスは1月21日付のリポートで2026年末の金価格予想を従来の4,900ドルから5,400ドルに引き上げました。
急騰の5つの要因
トランプ関税と地政学リスク
金価格急騰の最大の要因はトランプ政権の関税政策です。グリーンランド取得に反対する欧州8カ国への関税示唆など、保護主義的な政策が相次いでいます。貿易摩擦の激化は世界経済の不確実性を高め、安全資産である金への資金流入を加速させました。
ベネズエラ情勢の緊迫化やイラン国内の反政府デモなど、各地で地政学リスクも高まっており、リスク回避の金買いに拍車をかけています。
ドル安の進行
1月27日、トランプ大統領が「ドル安は素晴らしい」と発言したことで、ドル指数は約4年ぶりの低水準に急落しました。金はドル建てで取引されるため、ドル安は金の割安感を生み、国際的な買い需要を刺激します。
一方で日本の投資家にとっては、円安とドル安が同時に進む複雑な局面となっています。国内金価格は円建てのため、円安が進めば国際価格の上昇に加えて為替効果も加わり、二重の押し上げ要因となります。
中央銀行の継続的な金購入
中国人民銀行やロシア中央銀行をはじめとする新興国の中央銀行は、外貨準備の多様化を目的に金の購入を継続しています。米国債からの分散投資として金を選好する動きが構造的な需要増を支えています。
JBpressの分析によれば、トランプ関税によって米国債の信用力に疑問を持つ新興国が増加し、金への資金シフトは2026年も続く見通しです。
スタグフレーション懸念
関税による輸入物価の上昇とサプライチェーンの混乱は、インフレと景気後退が同時に進む「スタグフレーション」の懸念を高めています。スタグフレーション環境では株式や債券が下落しやすい一方、金はインフレヘッジとして機能するため、ポートフォリオの中で金の存在感が増しています。
個人投資家の参入拡大
国内金先物市場には個人投資家や商社が参加しており、価格上昇を受けた新規参入も増加しています。金のETF(上場投資信託)への資金流入も急増しており、投資マネーの拡大が価格をさらに押し上げる好循環が生まれています。
サーキットブレーカー制度とは
急激な価格変動を抑制する仕組み
サーキットブレーカーとは、先物市場で価格が制限値幅の上限または下限に達した場合に、売買を一時的に中断する制度です。大阪取引所の貴金属市場では、中心限月が制限値幅に到達すると直ちにサーキットブレーカーが発動され、10分間の売買中断後に制限値幅が拡大されます。
この制度は、投資家がパニック的な売買に走ることを防ぎ、冷静な判断を促すことを目的としています。今回の発動は前日比10%上昇という急騰によるもので、取引再開後も買いの勢いが衰えなかったことが市場の強気姿勢を示しています。
注意点・展望
急騰後の調整リスク
金価格は短期間で大幅に上昇しており、利益確定売りによる調整局面が訪れる可能性があります。サーキットブレーカーが発動するほどの急騰は、過熱感を示すシグナルでもあります。
JBpressの記事では、ETFへの投資急増には「危うさ」もあると指摘されており、短期的な投機マネーの流入が価格を実態以上に押し上げている可能性にも注意が必要です。
中長期的な上昇基調は継続か
ゴールドマン・サックスの年末5,400ドル予想に加え、中央銀行の金購入や地政学リスクの高止まりなど、構造的な上昇要因は健在です。トランプ政権の通商政策の行方次第では、さらなる上昇余地も残されています。
まとめ
大阪取引所の金先物でサーキットブレーカーが発動されるほどの急騰は、金市場が歴史的な局面にあることを物語っています。トランプ関税、ドル安、中央銀行の金購入、スタグフレーション懸念という複数の要因が重なり、金は「安全資産の王」としての存在感を一段と高めています。
投資家にとっては、短期的な調整リスクを認識しつつも、中長期的な上昇トレンドの中でのポジション構築を検討する局面です。今後はトランプ政権の通商政策の具体化やFRBの金融政策の動向が、金価格の方向性を左右する重要な材料となります。
参考資料:
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