金価格5400ドル突破、1カ月で1000ドル上昇の背景を読む
はじめに
金(ゴールド)価格の上昇が止まりません。国際指標となるロンドン現物価格は2026年1月28日に1トロイオンス5,400ドルを突破し、29日のアジア時間でも続伸して最高値を更新しています。2025年末から1カ月足らずで約1,100ドル(25%)の急騰を記録しました。
国内価格も大台が目前です。1月29日の店頭小売価格(税込)は1グラムあたり2万9,815円となり、3万円突破が秒読みの状態となっています。本記事では、金価格が短期間でこれほど急騰した複合的な要因を解説します。
ドル安が金価格を押し上げる構造
4年ぶりのドル安水準
金価格急騰の最大の要因はドル安です。米ドル指数は1月下旬に95台まで低下し、約4年ぶりの低水準を記録しました。金はドル建てで取引されるため、ドルが下落すると金の購買力が相対的に高まり、価格が上昇しやすくなります。
トランプ大統領が1月27日に「ドル安は素晴らしい」と発言したことが転換点となりました。米国の貿易赤字削減にはドル安が有利という認識を示したものですが、市場はこれをドル安容認のシグナルと受け取り、ドル売りが加速しました。
FRBの独立性への懸念
ドル安のもう1つの背景は、FRB(米連邦準備理事会)の独立性に対する市場の懸念です。トランプ大統領はFRBに利下げを求める圧力をかけ続けており、FOMC(連邦公開市場委員会)にハト派寄りのメンバーを送り込もうとしているとの報道が出ています。
パウエル議長の任期は2026年5月に満了予定で、トランプ氏はすでに後任の検討を進めているとされます。中央銀行の独立性が損なわれるとの懸念が、ドルの信認低下と金への資金移動を促しています。
FOMCの金利据え置きと市場の反応
4会合ぶりの据え置き
FRBは1月27〜28日に開催したFOMCで、政策金利を3.5〜3.75%の範囲で据え置きました。2025年末に3会合連続で利下げを実施した後、4会合ぶりの据え置きとなります。
声明文では経済活動の評価を「緩やかな拡大」から「しっかりとした拡大」へ上方修正し、やや引き締め寄りのトーンに変更しました。しかし、2人の委員が即時利下げを支持しており、年内の追加利下げ期待は維持されています。
金にとっての追い風
金利が据え置かれたこと自体は中立的な材料ですが、金にとっては追い風となりました。FOMCの決定発表後、金価格は5,361ドルまで急伸しています。これはドル安の継続と、今後の利下げ期待が金の保有コスト(利子を生まない資産を保有する機会費用)を低下させるとの見方が働いたためです。
地政学リスクの連鎖
ベネズエラ介入の衝撃
2026年1月3日のトランプ政権によるベネズエラ軍事介入は、地政学リスクを一気に引き上げました。マドゥロ大統領の拘束という前例のない行動は、国際秩序の不安定化を意識させ、安全資産としての金への逃避を加速させました。
イランへの軍事威嚇
ベネズエラに続き、トランプ大統領はイランに対しても軍事行動の可能性を示唆しています。イランは「前例のない方法で自衛し報復する」と宣言し、中東情勢の緊迫度が増しています。EUがイラン革命防衛隊をテロ組織に指定したことも緊張を高めています。
こうした地政学的な不確実性の連鎖が、金への安全資産需要を持続的に押し上げています。
中央銀行と投資家の買い
新興国中央銀行の金購入
金価格を構造的に支えているのが、世界各国の中央銀行による金の購入です。ゴールドマン・サックスの推計によると、中央銀行の金購入量は月平均約60トンに達しており、2022年以前の平均17トンを大きく上回っています。
特に中国、インド、トルコなど新興国の中央銀行が、外貨準備におけるドル資産の比率を下げ、金の保有を増やす動きを加速させています。米国の制裁リスクやドルの信認低下を背景に、ドル離れと金シフトが同時進行しています。
ETFへの記録的な資金流入
個人投資家や機関投資家からの金ETF(上場投資信託)への資金流入も記録的な水準です。2025年の金ETFへの資金流入額は約890億ドルに達し、保有量は過去最高の約4,025トンとなりました。2026年に入っても流入は続いており、7カ月連続のプラスを記録しています。
国内金価格への影響
グラム3万円の大台目前
国内の金価格は、国際価格の上昇と円安の両方の影響を受けて急騰しています。1月29日時点の店頭小売価格は1グラムあたり2万9,815円で、前日比1,830円の上昇。3万円の大台突破が目前に迫っています。
2025年には68%を超えるリターンを記録した金は、S&P500の約18%を大幅に上回るパフォーマンスを示しました。投資対象としての注目度は高まる一方です。
注意点・展望
急騰の裏にはリスクもあります。金はわずか1カ月で25%上昇しており、短期的な過熱感は否定できません。ゴールドマン・サックスは2026年末の目標価格を5,400ドルに引き上げていますが、すでにその水準に到達しているため、ここからの上昇余地について意見が分かれています。
J.P.モルガンは2026年第4四半期の平均価格を5,055ドルと予想しており、ゴールドマンよりも慎重な見方を示しています。地政学リスクが後退した場合や、FRBがタカ派に転じた場合には、調整局面が訪れる可能性があります。
一方で、中央銀行の金購入という構造的な需要は当面続くと見られており、大幅な下落は起きにくいとの見方が優勢です。
まとめ
金価格の5,400ドル突破は、単一の要因ではなく、ドル安、地政学リスク、FRBの独立性への懸念、中央銀行の購入拡大という複数の要因が重なった結果です。特にトランプ政権の政策が為替市場と地政学の両面で不確実性を高めていることが、金への逃避を加速させています。
国内投資家にとっては、グラム3万円という心理的な大台を突破するかどうかが当面の注目点です。長期的には、世界の通貨体制の変容と安全資産としての金の役割の再評価が進む中で、金は引き続き注目される投資対象であり続けるでしょう。
参考資料:
- Gold surges past $5,100 as investors seek shelter | CNBC
- Goldman Sachs quietly revamps gold price target for 2026 | TheStreet
- Gold price powers to record high; FOMC on deck | Kitco News
- Gold’s blistering rally continues as dollar plunges | CNBC
- Current price of gold: January 29, 2026 | Fortune
- 金価格がついに2万円越え!10年後はどうなる? | ブラリバ
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