金価格が史上初の5000ドル突破、地政学リスクで安全資産に殺到
はじめに
2026年1月26日、金(ゴールド)価格の国際指標となるロンドン現物とニューヨーク先物(中心限月)が、アジア時間の取引で初めて1トロイオンス(約31.1グラム)あたり5000ドル台に到達しました。
地政学リスクの高まりや米金融政策への懸念から、安全資産とされる金への資金流入が加速しています。特に、トランプ政権がデンマーク領グリーンランドの取得を目指し欧州諸国と対立している問題が、市場の不安心理を一段と高めています。
本記事では、金価格急騰の背景と今後の見通しについて解説します。
歴史的な5000ドル突破
価格推移の軌跡
金価格は2024年初めには1トロイオンス2050ドル程度でした。その後、ほぼ一本調子で上昇を続け、2025年4月には3500ドル台、同年10月20日には4381ドルの高値をつけました。
2025年9月以降は「貴金属を持たざるリスク」が資金運用者に強く意識されるようになり、FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げもあって、わずか2カ月足らずで約1000ドル上昇するという急騰を見せました。
そして2026年1月26日、ついに5000ドルの大台を突破。これは金市場にとって歴史的なマイルストーンとなりました。
日本国内価格も最高値更新
国内の金価格も過去最高値を更新しています。2026年1月23日には1グラムあたり27,929円を記録しました。円安の進行も相まって、日本の投資家にとっても金の存在感が増しています。
ゴールドマン・サックスの予想引き上げ
米金融大手ゴールドマン・サックスは1月22日、2026年末の金価格予想を従来の4900ドルから5400ドルに引き上げました。個人投資家や新興国の中央銀行による買いが継続するとの見方を示しています。
上昇を牽引する地政学リスク
グリーンランド問題とNATOの亀裂
金価格上昇の大きな要因となっているのが、トランプ政権によるグリーンランド取得への動きです。トランプ大統領は1月4日、「国家安全保障の観点から、我々にはグリーンランドが必要だ」と強調。6日には「領有に向けて米軍の活用も選択肢だ」と軍事力行使も辞さない意向を示しました。
これに対し、デンマークのフレデリクセン首相は「もし米国がNATO加盟国への軍事攻撃を選択すれば、第2次大戦後に築かれた安全保障のすべてが停止する」と警告しました。NATO創設メンバーであるデンマークへの脅迫は、同盟内部に深刻な亀裂を生じさせています。
関税圧力とその後の展開
トランプ大統領は1月17日、グリーンランド領有に反対する欧州8カ国に対して10%の輸入関税を課すと発表しました。対象はデンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フランスなどで、2月1日発効、6月には25%への引き上げを警告しました。
その後、1月21日にはNATOのルッテ事務総長との会談後、「将来の合意の枠組み」に達したとして関税発動を見送る考えを示しました。トランプ大統領は「武力を使うことはない」と明言しましたが、市場ではNATO内部の亀裂が深まることへの警戒感が続いています。
その他の地政学リスク
ウクライナ情勢、中東の緊張など、世界各地の不安定要因も引き続き金価格を支えています。これらの地政学リスクが複合的に作用し、投資家が安全資産である金へと向かう流れが加速しています。
中央銀行による歴史的な買い増し
新興国を中心とした金購入
ここ数年の金価格上昇の最大の要因は、中央銀行による金の大量購入です。2024年の世界の中央銀行による金購入量は約1,086トンに達し、過去最高水準を記録しました。
特に積極的なのが中国、ロシア、インド、トルコなどの新興国です。2021年末以降、これらの国々は600トン以上の金を購入しており、これは世界の年間産金量の約17%に相当します。
ドル依存からの脱却
新興国の中央銀行が金を買い増す背景には、ドル依存度の低下を目指す戦略があります。ロシアへの経済制裁でドル建て資産が凍結されたことを受け、各国は外貨準備の多様化を進めています。
中国の人民銀行における金準備は重量ベースで過去20年間で3倍以上に増加し、2,270トン以上に達しています。外貨準備高に占める金の割合は5.5%ですが、この比率は過去20年間で2倍以上になっています。
「売らない買い手」の存在
中央銀行は短期利益ではなく国家の安全保障として金を保有しているため、多少の価格上昇では売りに出しません。この「売らない買い手」の存在が、金価格の急落を防ぐ強固なサポートラインを形成しています。
ECB(欧州中央銀行)は、2024年第4四半期時点で金が「ドルに次ぐ第2の準備資産」に昇格したと発表しており、金の国際金融システムにおける地位は着実に高まっています。
注意点・展望
ロシアの金準備の動向
今後注目されるのがロシアの動向です。ロシアは公的保有金2,329トンを保有していますが、経済制裁によりロンドン金市場での売却が禁じられています。
もし制裁が緩和されれば、ロシアが大量の金を売却する可能性があり、これは金価格の下落要因となり得ます。一方で、中国がロシアの金を買い取るシナリオも注目されています。
金融政策の影響
FRBの金融政策も引き続き注目材料です。利下げ局面では金利のつかない金の相対的な魅力が高まります。また、FRBの独立性を巡る政治的な動きも、金融市場の不安定要因として意識されています。
投資家への示唆
金価格5000ドルという高値圏にあっても、中央銀行の継続的な買い、地政学リスクの高止まり、インフレヘッジ需要などを考慮すると、さらなる上昇余地があるとの見方が優勢です。
ただし、短期的な調整リスクには注意が必要です。ポートフォリオの一部として金を保有する場合は、長期的な視点での分散投資が推奨されます。
まとめ
金価格が史上初めて1トロイオンス5000ドルを突破しました。トランプ政権のグリーンランド取得への動きによるNATO内の緊張、ウクライナや中東情勢など地政学リスクの高まりが背景にあります。
また、中国、ロシア、インドなど新興国の中央銀行がドル依存からの脱却を目指して金を積み増していることも、価格上昇を支える構造的要因となっています。
ゴールドマン・サックスは2026年末の金価格予想を5400ドルに引き上げており、高値圏での推移が続く可能性が高いでしょう。
参考資料:
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