金価格が史上最高値4700ドル接近、米欧対立で資金流入加速
はじめに
金(ゴールド)価格が再び史上最高値を更新しました。2026年1月19日、ニューヨーク市場の金先物は前日比102.6ドル(2.2%)高い1トロイオンス4698ドルを記録し、4700ドルの大台に迫りました。国内でも田中貴金属工業が発表した小売価格が1グラム2万6158円と、過去最高を更新しています。
今回の価格上昇の直接的なきっかけは、トランプ米大統領がデンマーク領グリーンランドの取得をめぐり、欧州8カ国からの輸入品に追加関税を課すと表明したことです。米欧間の対立激化を受け、「安全資産」とされる金に世界中から資金が流入しています。
この記事では、金価格高騰の背景と今後の見通し、そして個人投資家が知っておくべき金投資のポイントについて解説します。
金価格上昇の直接的な要因
トランプ大統領のグリーンランド関税措置
金価格急騰の直接的な引き金となったのは、トランプ大統領の欧州向け関税措置の発表です。1月17日、トランプ大統領は米国によるグリーンランド領有に反対しデンマークを支持する欧州諸国に対し、10%の輸入関税を課すと発表しました。
対象となるのは、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フランス、ドイツ、英国、オランダ、フィンランドの8カ国です。トランプ氏は、2月1日に関税が発効し、「グリーンランドの完全かつ全体的な購入でディールが成立しない限り」、6月には25%に引き上げると警告しました。
トランプ氏は自身のSNSで、欧州諸国がグリーンランドに軍要員を派遣していることについて「地球の安全、保障、生存にとって非常に危険な状況だ」と警告。これに対し欧州8カ国は共同声明で「関税の脅しはヨーロッパとアメリカの関係を損なう」と批判しています。
EUの報復措置検討
EUも黙っていません。EUは追加関税など930億ユーロ(約17兆円)規模の報復措置を検討していると報じられています。米欧間の貿易戦争が本格化すれば、世界経済への影響は避けられません。
こうした国際情勢の不透明感が高まる中、投資家は株式や通貨から離れ、「究極の安全資産」である金への逃避買いを加速させています。
金価格が高騰を続ける構造的な理由
地政学リスクの常態化
今回の米欧対立だけでなく、世界には複数の地政学的リスクが存在しています。2022年以降のロシア・ウクライナ情勢は2026年時点でも完全な終結には至っておらず、中東地域の緊張、台湾海峡をめぐる米中対立など、構造的・長期的なリスク要因が同時進行しています。
政治的・軍事的な緊張は通貨や株式への不信感を高め、安全資産である金への「逃避買い」を誘発します。こうした地政学リスクが短期的に解消される見通しは薄く、金への需要は当面続くと予想されています。
中央銀行による金購入の継続
金価格を押し上げているもう一つの大きな要因は、世界各国の中央銀行による金購入です。地政学的な分断が進む中、新興国の中央銀行を中心にドルを売り、金を買う動きが加速しています。
2023年以降、世界の中央銀行による金の購入は年間1000トンを超えています。これは年間生産量の約3割にも及ぶ規模です。中央銀行の買いは2026年も継続すると広く予想されており、価格の下支え要因となっています。
ドル離れと通貨価値の希薄化
米国の財政赤字拡大やインフレ懸念を背景に、世界的なドル離れの動きも進んでいます。金は「無国籍通貨」とも呼ばれ、特定の国や政府に依存しない価値保存手段として評価されています。
各国の中央銀行が金融緩和や財政出動を続ける中、紙幣の価値が希薄化するリスクへの懸念から、埋蔵量に限りがある金の相対的な価値が高まっています。
機関投資家の需要拡大
従来、金は金利を生まないため機関投資家からは敬遠される傾向がありました。しかし、金の圧倒的なパフォーマンスを目の当たりにして「持たざるリスク」が意識されるようになり、欧米のファンドマネージャーや日本の投資家が金市場に参入しています。
2025年の金価格は年初の2657ドルから10月には4381ドルまで急騰し、年間上昇率は約71%に達しました。これは46年ぶりの記録的な上昇率であり、多くの投資家の注目を集めています。
金価格の今後の見通し
大手金融機関の予測
主要金融機関は、金価格のさらなる上昇を予想しています。ゴールドマン・サックスは2026年末のターゲットを1トロイオンス4900ドルに設定しています。JPモルガン・チェースのアナリストは、金先物が2026年には5000ドルを超える可能性があると予測しています。
上昇スピードは2025年に比べて鈍化する可能性がありますが、方向性は上向きであるとの見方が大勢を占めています。
上昇要因と下落リスク
金価格の上昇要因としては、地政学リスクの継続、中央銀行の購入、インフレ懸念などが挙げられます。一方、下落リスクとしては、地政学リスクの急激な緩和、予想を上回る景気回復による株式市場への資金回帰、中央銀行の金売却などが考えられます。
予測不能な地政学リスクが表面化した際には、価格が予想以上に上振れするリスクもあります。スタグフレーション(不況下のインフレ)懸念が高まれば、ドルや株式よりも金を選ぶ投資家がさらに増える可能性があります。
金投資のメリットとデメリット
金投資のメリット
安全資産としての価値: 「有事の金」という言葉があるように、戦争や経済危機など有事の際に、株式や通貨が大きく値下がりする中でも、金価格は上昇する傾向があります。2020年のコロナショック、2022年のロシア・ウクライナ侵攻の際にも金価格は上昇しました。
無価値にならない: 金は埋蔵量に限りがある実物資産であり、株式や債券のように発行体の破綻によって無価値になることはありません。世界共通の価値を持つ「無国籍通貨」として、数千年の歴史を通じて価値を保ってきました。
インフレヘッジ: 金はインフレや円安に強い傾向があります。物価が上昇しても、金の実物としての価値は変わらないため、資産の購買力を維持する手段として有効です。
金投資のデメリット
配当や利息がない: 株式の配当、債券の利息と異なり、金自体は収益を生み出しません。価格が上昇しなければ利益を得られないため、長期保有時のインカムゲインは期待できません。
為替の影響: 金の国際取引は米ドル建てで行われるため、日本円で投資する場合は為替変動の影響を受けます。金の国際価格が上がっても、円高になれば円建ての評価額が下がることもあります。
保管コストとリスク: 金地金などの現物を保有する場合、盗難や紛失のリスクがあります。銀行の貸金庫などに保管する場合は、別途コストがかかります。
売買手数料: 金地金では500g未満の取引に対して売買手数料がかかります。純金積立でも年会費や積立購入手数料(1.5〜3%程度)が必要です。
初心者向け金投資の方法
純金積立
毎月一定額を積み立てて金を購入する方法です。1000円から投資でき、購入した金を保管する必要もないため、初心者でも気軽に始められます。ドルコスト平均法により、価格変動リスクを抑える効果も期待できます。
金ETF・金投資信託
証券会社で購入できる金融商品です。少額から投資でき、現物を保管する手間もありません。金価格に連動するため、金相場の動きに応じたリターンが得られます。NISAを活用すれば、売却益が非課税になるメリットもあります。
金地金・金貨
地金商や貴金属メーカーで購入できる現物取引です。「金を手元に置いておきたい」という方に向いています。ただし、保管場所の確保や盗難リスクへの対策が必要です。
注意点と今後の展望
価格変動リスクへの備え
金価格は上昇傾向にありますが、短期的には大きく変動することもあります。2025年10月に4381ドルの高値をつけた後、一時的に4000ドルを割り込む場面もありました。投資する際は、余裕資金の範囲内で行い、分散投資を心がけることが重要です。
売却タイミングの検討
金価格が史上最高値を更新し続ける中、「売り時」を考える投資家も増えています。すでに金を保有している方は、自身の投資目的とリスク許容度に照らして、一部売却によるリバランスも選択肢となります。
長期的な視点を持つ
地政学リスクの常態化、中央銀行の金購入継続、通貨価値の希薄化など、金価格を支える構造的な要因は複数存在します。2026年は金が新たな価格水準(ニューノーマル)へ定着する重要な1年になると予想されています。短期的な値動きに一喜一憂せず、長期的な視点で投資判断を行うことが大切です。
まとめ
金価格が1トロイオンス4698ドルと史上最高値に接近した背景には、トランプ大統領のグリーンランドをめぐる欧州関税措置という直接的な要因と、地政学リスクの常態化、中央銀行の金購入、ドル離れといった構造的な要因があります。
大手金融機関は2026年も金価格の上昇を予想しており、5000ドル到達の可能性も指摘されています。金投資は安全資産としてのメリットがある一方、配当がないことや為替リスクといったデメリットもあります。
投資を検討する際は、自身の投資目的とリスク許容度を踏まえ、純金積立やETFなど自分に合った方法を選ぶことが重要です。不透明な世界情勢が続く中、金は資産防衛の選択肢として引き続き注目を集めそうです。
参考資料:
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