町の本屋が「3日に1店」誕生、独立系書店の新潮流
はじめに
「本屋を新たに開く人が増えている」と聞いて、意外に思う人も多いのではないでしょうか。全国の書店数がこの10年で3割も減少する中、いわゆる「独立系書店」と呼ばれる個人経営の小規模書店が、静かに存在感を増しています。
そのペースは「3日に1店」ともいわれるほどです。2023年には100店超、2024年も90店超、2025年も上半期だけで52店がオープンしました。過疎地に店を構えたり、思いがけない異業種から参入したりと、これまでの常識とは一線を画す動きが相次いでいます。
本記事では、独立系書店増加の背景と、注目される新しい本屋のかたちを解説します。
書店業界の現状:減少と新たな動き
10年で3割減の厳しい現実
日本の書店数は減少の一途をたどっています。日本出版インフラセンターの調査によると、2014年度の1万4658店から2024年度には1万417店まで減少しました。10年で約3割が姿を消した計算です。
書店のない市区町村は2024年8月時点で全国の27.9%(482自治体)に及び、ゼロまたは1店だけの自治体は47.7%と半数近くに達しています。電子書籍やネット通販の普及により、特に地方の中小書店は厳しい経営環境に置かれています。
逆風の中で増える独立系書店
そうした中で注目されているのが、独立系書店の増加です。独立系書店とは、大手チェーンではない個人や小規模企業が独自の理念で経営する書店を指します。
トーハンの調査によると、2024年10月時点で全国に約340店舗の独立系書店が営業しています。コロナ禍以降に開店ペースが加速し、読書離れや老舗書店閉店のニュースが影を落とす中でも、出版業界の新たな光として注目を集めています。
開業ハードルを下げた新しい仕組み
少額取次サービスの登場
独立系書店増加の大きな要因は、「より少ない資金で書店を開業できる環境が整ったこと」です。
楽天ブックスネットワークス(旧:大阪屋栗田)は、2017年から独立系書店向けの少額卸売サービス「Foyer(ホワイエ)」を開始しました。また、トーハンも2024年10月から保証金不要の少額取次サービス「HONYAL(ホンヤル)」をスタートさせました。
HONYALでは、取引開始の際に連帯保証人や保証金を求めることをやめ、100冊程度から書店を開業できるようになっています。初期投資のハードルが大幅に下がったことで、脱サラや副業として本屋を始める人が増えています。
従来の書店とは異なる収益構造
独立系書店の多くは、従来の街の本屋とは異なる収益構造を持っています。新刊書籍だけでなく、利幅の大きい古本を扱ったり、カフェを併設したり、貸し棚スペースを設けたりすることで、複合的な収益源を確保しています。
店主の視点で選りすぐられた本が並ぶ棚が魅力となり、ニッチなテーマを持つ専門書店も登場しています。大手書店では見つけにくい一冊との出会いを求めて、わざわざ足を運ぶファンも多いのが特徴です。
過疎地で生まれる新しい本屋
無人駅前の書店「ARBOR BOOKS」
福岡県田川郡香春町にある無人駅・勾金駅の目の前に、2025年8月、「ARBOR BOOKS」が移転オープンしました。店主の久木田友希さん(28歳)は、フリーランスデザイナーとして働きながら本屋を営む「兼業本屋」というスタイルで注目を集めています。
久木田さんがこの場所を選んだのは、田川のイベントで出会った空き家バンクで物件を見つけたことがきっかけでした。「夕方に高校生が駅にたまって暇そうにしていたんです。この場所で何か面白いことができたら」という思いが、無人駅前での開業を後押ししました。
店内には約200冊のお薦め本が並び、「公民館のような書店」として地域の文化拠点を目指しています。営業時間は14時から21時、定休日は月・火・水曜日と、デザイン業との両立を可能にする運営スタイルです。
効率化社会へのアンチテーゼ
久木田さんは「タイパ・コスパ思考があんまり好きじゃない。自然とか風とか空とか、そういうのが好き」と語ります。香春町という「低山に囲まれて空が広い」環境で、効率化社会へのアンチテーゼとして「スローな時間が流れる場所」を目指しています。
こうした価値観は、多くの独立系書店に共通するものです。売上効率だけでは測れない、本と人が出会う場としての書店の価値を再定義する動きが広がっています。
シェア型書店の全国拡大
棚ひとつから始める本屋
独立系書店の増加と並んで注目されているのが、「シェア型書店」の広がりです。シェア型書店とは、書店内の棚を区画ごとに貸し出し、複数の「棚主」が共同で運営するスタイルの書店です。
棚主は使用料(相場は月3,000〜5,000円程度)を支払い、自分が選んだ本を販売します。本が売れれば棚主の収入になる仕組みです。「本屋をやりたいけれど開業資金がない」「副業で本に関わりたい」という人にとって、リスクの低い参入方法として人気を集めています。
全国132店舗に拡大
本のある場所研究会の調査によると、2025年12月時点で全国に132店舗のシェア型書店が存在します。東京では神保町や高円寺を中心に27店舗(2024年10月時点)が営業しており、大阪や京都でも店舗が増えています。
代表的な存在が、2022年3月に東京・神保町にオープンした「PASSAGE by ALL REVIEWS」です。書評アーカイブサイト「ALL REVIEWS」のつながりを活かした個性豊かな選書棚が支持を集め、今やシェア型書店を代表する人気店となっています。400近い貸し棚には、作家、書評家、翻訳者、編集者、ブックデザイナーらが手がけた本が並びます。
地方への広がり
シェア型書店は地方にも広がっています。那覇市の栄町市場内には2024年10月に「栄町共同書店」が誕生し、長野県軽井沢町にも2024年7月に「morinohonya」がオープンしました。
直木賞作家の今村翔吾さんが手がける「ほんまる」は、全国展開を視野に入れています。「もとからある本屋さんの一部スペースに『ほんまる』があるという形でもいい。スペースを貸し出す本屋さんの収入になる」と、既存書店との共存モデルを提唱しています。
政府の書店活性化プラン
6省庁連携の支援策
2025年6月、経済産業省をはじめとする6省庁は「書店活性化プラン」を公表しました。街中にある書店は「創造性が育まれる文化創造基盤として重要である」との認識のもと、22の施策がまとめられています。
主な施策として、サプライチェーン全体のコストとなっている返品の抑制に向けた研究会の開催、著作物の再販売価格維持制度の弾力的運用に向けた説明会の実施などが予定されています。
業界慣行の見直し
日本の出版業界では返品率が書籍33.4%、雑誌47.3%(2023年)と高く、出版社・書店双方にコストがかかっています。出版社は返品率の引き下げを条件に、書店の粗利率向上を受け入れる姿勢を示しており、業界全体での構造改革が期待されています。
独立書店ネットワークの発足
2025年10月には、小規模書店の業界団体「独立書店ネットワーク」が発足しました。加盟書店は1カ月で倍増し、現在は約90社に達しています。本の売り上げの分配をめぐって出版社と交渉を始めており、書店が収益を上げやすいビジネスモデルの確立を目指しています。
まとめ
書店数が減少する中で、独立系書店やシェア型書店という新しい形態が存在感を増しています。開業ハードルの低下、複合的な収益構造、店主の個性を活かした選書など、従来の書店とは異なるアプローチで持続可能なモデルを模索しています。
過疎地での開業事例も増えており、「町に本屋がある」ことの文化的価値が再認識されています。政府の支援策や業界団体の発足により、書店を取り巻く環境は変化しつつあります。
「3日に1店」のペースで生まれる新しい本屋が、日本の出版文化にどのような変化をもたらすのか。その動向に注目が集まっています。
参考資料:
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